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55修繕魔法による人体への応用

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「サミアス、アドラスが倒れた、見てくれ!!」

「わかりました、すぐにアドラス様の寝室に運んでください」

「ああ」

アドラスが倒れたことはすぐに館中に広まった。
ベッドに運ばれたアドラスの顔は、朱に染まったように赤くなっている、呼吸音も荒い。
サミアスも祖父母・母エリザベスもアドラス付きの侍女マリアも、何があったのかとヘンリーに訪ねた。
「アドラスに重傷者の兵士を見せたのだ、アドラスは右ひじから下を切り落とされたマイクと、右手首を切り落とされたパーカーを見事に修繕魔法で肉体を再生したのだが、終わったとたん意識を失ってしまったのだ。」
アドラスのシャツのボタンをはずして、聴診器を当てて呼吸音を聞いていたサミエルは、アドラスの額にも手をやってその暑さに驚き、急いで体温計をアドラスの口に加えさせた。
熱はぐんぐん上がっていく、
「39度」
サミエルの言葉に一同驚愕する
「「「「39度ですって!?」」」」

サミエルはマリアにすぐに氷室を開いて氷枕を用意するよう命じた。アドラスの首の両脇にも皮袋に氷をいれて冷やすよう命じた。その命にマリアは飛ぶように素早く部屋を出て行った。

「魔力量も相当減ってますね。枯渇ではありませんが、これは修繕魔法で人体を再生した副作用ですね。そもそも修繕魔法は人体目的の魔法ではないのに、それを人体に応用したことでかなりの負荷が体と脳に掛かったのでしょう。その上まだ8歳で初めて応用した日に3人も直したことで完全にオーバーワークがかかったのです。だからこうなったのです。」
アドラスの父ヘンリーは、一同から冷たい視線を向けられて身をちじこませた。
サミエルは医師カバンから熱さましと魔力回復ポーションを飲ませた。
「今はこれぐらいの手当てしかできません、これで熱が下がってくれるといいんですが、これで熱が下がらず40度になったら危険です。」

「それはアドラスが死ぬってことですの!?」

「そんな、たった一人の孫なんです~」

「マーガレット、アドラスは強い子だ、ここは神を信じよう、わしは毎年信者として教会に多額の援助をしてきたんだ。神はきっとわしの孫をお見捨てにはならない!」
そういって、元子爵チャールズは妻のマーガレットをそっと抱きしめたのだった。

「もし神がアドラスをお見捨てになるなら、わしは二度と神を信じない!」

「とにかく今夜は私がついています。明日の朝熱が下がっていたらいいのですが、」

「先生,私も母親として今晩はついていますわ、1日2日寝なくたって人は死にません」
氷袋を3つカートに乗せてもってきたマリアは、そのことを聞き奥様はどうか寝てくださいと頼み、今夜は私が責任をもって看病しますから、何かあったらすぐに奥様を呼びにいきますからといってエリザベスを自室に戻らせた。
夜中氷袋の中身の解けた氷を入れ替えたりして、アドラスの熱がひたすら下がることを願った。マリアはアドラスが生まれたときからの侍女だった。アドラスは赤ちゃんのときふくぶくしい赤ちゃんで、子共のかかる病気は全部かかったがどれも重症にならず回復も早かった。その坊ちゃまが久々に倒れた。原因は修繕魔法の人体の応用に間違いなかった。

<やめさせなくちゃ!二度と人体への応用を辞めさせなくちゃ、いつか坊ちゃまは死ぬかもしれない>

そう考えてマリアはぞっとした。
「それにしても修繕魔法の人体の応用か、いままでそんなことをかんがえついたものはひとりもいなかったのに、さらに手足の再生に成功させるとは実に素晴らしい」
「でもそのせいで坊ちゃまは倒れられたのですよ!」
「ええ、慣れぬ魔法の使い方を急激にしたことが倒れた原因ですが、1週間に一人か二人ならこうはならなかったかもしれない」
「はっ!?先生はまだアドラス坊ちゃまにさせるきなんですか!?」
思わずまりあは声を大きくして椅子から立ち上がりかけ、サミエル医師はシーと口元に指を立てた。
マリアはむむっと口をへの字に結んだ。
「あなたの言い分は分かります。アドラス様つきの侍女をアドラス様が生まれた時からしてるなら当然の言葉です。ですが事故やケガあるいは病で手や足を失ったものは現実社会で最低の暮らしをしてるんです。
なかには奴隷に身を落としたものもいます。私の知人もそうでした。今は生きているのか死んでいるのかもわかりません。最後には家族にも見限られて奴隷に売られたのです。
彼のような人間を一人でも助けられたら、それはどんなにすばらしいことでしょう。むろん、今のままで素性をさらしてアドラス様がやるのはまずいと思います。誰も持たざる力を持つ者に対して、他の人間からは羨望も持たれますが、中には軟禁して高額な治療費を目的に、無理やりにやらせようとする人間もいますからね。
だから正体は隠すべきなんです。」
「あなたの考えは分かりました。でも私は反対です、軟禁なんて聞いたら尚更反対です」

そのあと二人は一言も話さず押し黙り、沈黙したまま夜は静かにふけて行った。




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