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11 追想

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月が煌々と照らす王都パルミス、その光にぼうと白く浮かぶように存在する白鷺城。
居並ぶ紳士淑女は、今宵の夜会の会場の鳳凰の間で、華麗にステップを決め舞い踊っていた。
周りにはテーブルが並び、豪華な王宮料理の数々が並べられ、客とテーブルの間をシャンパンやワインの入ったグラスを
乗せた盆を持った侍従や侍女がせわしなく歩き回っている。
その様子を満足げに眺める王妃と第1王子オスカーに第3王子カルロス、だが国王シリウス・フォン・グッテンマイヤ・
バリアス3世は微笑を浮かべながら、腹の中では言い知れぬ激情と怒りと悲しみを抱いていた。

<16年16年だ!>

我が子と信じていつくしんだ第2王子ヘンリー、己の子供たちの中で一番愛した王子だった。
なのに私の子供ではなく、側室ヘレーネが貧乏貴族のアッバス男爵との不義によって生まれた子だったのだ。
挙句の果てにそれが父王の自分に知れたかもしれないと、反乱を起こして王である自分と王妃の生んだ第1王子
と第3王子を殺し、王権の簒奪を図ったのだ。
しかもサンザー帝国と此度の内乱に支援する約定をひそかに取り付け、成功した暁には辺境の領土をサンザー帝
国に割譲する密書を交わしたのだ。
未然に防げたからよかったもののそうでなかったら今頃この玉座に座っ
ていたのはヘンリーの奴だったのだ。

<まさに獅子身中の虫とはこのことだ!!>

<ヘンリーはいつからこの私が実の父ではないと知っていたのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、>


『ちちうえ、ちちうえ、わたしは、ははうえよりちちうえがだいすきです。』
 
<まだ幼い3歳くらいのヘンリーが満面の笑みでそういったかわいらしい姿が忘れられない。
忘れなければと思う。王とは非情でなければいけない、

しかしヘンリー、お前はいつから心の中に蛇を買いだしたのだ。
それだけはヘンリーに最後まで聞けなかった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・>


王妃がちらっと横の王の様子を見るのが、辺境伯爵グレアム・アンダースンと共に会話する王太子オスカーの目に
入った。
二人は夜会の熱気に充てられ、涼みにベランダに出たのだ。
「こんな結果になるとはな、」
 
「王太子殿下、」

「私はずっとヘンリーがうらやましかった。
父上が溺愛する側室の子というだけで父上に愛され、わがままで愚かな行いをしても許された。
この私がどれほど必死に王太子教育を学び身を律しても、できて当たり前そうで当たり前、それどころか子供の
ころからヘレーネとマーケロス侯爵の私に対する暗殺の魔の手から、必死にかいくぐり生きてきた。
ところがふたを開けてみればそもそもヘンリーは父上の子ではなく、貧乏男爵アッバスの子、よくも長い間周りをだましてこれたものだ。」

「王太子殿下のお気持ちはよくわかります。
ですがそもそもヘレーネとアッバスは遠い親戚同士だったそうですから、その点周りも気づきにくかったのでしょう。
今回二人の関係が分かったのも、アッバス男爵の愛人をしていた娼婦が、酒に酔った男爵がベッドの中で漏らし、
なのに男爵は長年尽くした愛人を、もう飽きたという理由でポイと捨てたのです。そりゃ恨みますよ。」

「一寸の虫にも五分の魂・女は怖いということか…………………」

「さようです殿下、我々もアッバスの二の舞は踏まぬよう肝に銘じるべきでしょう。」

「そうだな」

「ですがサンダー帝国はこれで終わりではありますまい。
今までサンダー帝国から我が国への属国化の話は何度かありましたが、此度のように侵略という手を打とうとした
以上これで終わりではありますまい。」

「サンダー帝国の動きはこれから非常なる関心を持って対処しよう。
しかしそれだけでは到底足りないな。
サンダー帝国に脅威を感じる他の隣国国と同盟を結んだらどうかと私は考えている。」

「それは是が非でもするべきです。
私も実はそのように考えておったのです、例えば隣国ノースライナー国には、殿下の妹君カレリーナ王女様とお年頃が同じオベール第1皇子殿下がおられます
・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「フムフム・・・・ではノースライナー国は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ヒソヒソ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

深夜の密談は夜を更けても続けられた。
一方会場ではアドラスの両親が踊り疲れてワイングラスを開け、小腹がすいたとカナッペ料理に二人は舌鼓を打っ
ていた。

「さすが王宮で出される料理も酒も絶品ね、そういえばアドラスどうしているかしら?」

「もう寝たさ。」

「領地に帰る前、あの子に王都の土産を忘れずに買いましょう。
あの子何がいいかしら、」

「あの子は本好きだから王都に出た新作本がいいかもしれないな、あ、それと王都名物の甘いお菓子がいいな。」

周りでは権謀術策が飛び交っていたのに、そんな会話を貴族にしては仲良し夫婦のアドラスの両親はしたのだった。  
 

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