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三章

一話「初の魔法に触れてみる。」

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翌朝。

 鳥のさえずりの声で俺は上体を起こす。

 目を手で擦り、真横で寝ているルナを再確認する。

「‥やっぱり夢じゃないんだな。」

 俺はそのまま立ち上がり、昨日の夜にルナが用意してくれた民族衣装に着替える。

 なんだかコスプレしている感があって恥ずかしい気持ちもあるが嫌いではない。

 一度外に出て見ようとテントから出ると、まだ日は登り始めで、まだ薄暗かった。

 さて、どうしたものか。

 薄暗い空を見上げ腕組みをしてみる。

 魔力を手に入れたといっても実感が湧かない。それにこの魔法の儀式はクリエイティとか何たらという名前だった様な?

 クリエイティといえばクリエイティブ的な物か?

 英語で確か想像形成的な言葉だったかな?

 これを考えると、要するに魔力で自在に物を作り出せるといった感じなのだろうか?

「よし。一丁試して見ますか。」

 両手を前に掲げて適当な物を頭に浮かべる。

「我念じる。異世界で作られし自転車よ我の前にいでよ!!!」

シーン‥。

 何も起きない。

 いやできる訳ないよね?普通。

 起きたのは自分の恥ずかしさが生まれただけだよ?

「なぁー!なんも出ねぇじゃんかよ!本当に魔力なんてもんが身体に宿ってんのか?そもそも魔力なんてもんがあってたまるかぁ!」

 騒ぎ立てていると、一人の老婆が歩み寄ってきた。

 服装からしてこの民族の一族だろう。

「これはこれは。救世主様ではないですか。こんな早朝にいかがなされましたか?」

「いや、‥ちょっとね。ってか今の見てた?」

「は?今のとは?」

 よし!恥ずかしい所は見られてない!

 俺は拳を握り締めると「我念じる。異世界で作られし自転車よ、我の前にいでよ!!!の事ですかい?」「見てんじゃねぇかよ!!」

 思わず思いっきりツッコミを入れる俺を見て老婆はシワクチャの顔を更にシワクチャにして「クケケケケケケケ!」と甲高い声で笑いだした。

 いや、笑い方が超絶怖えーんですけど。

「クケケケ、クケケケケケケケ」

「おいおい。そんなん面白かったのかよ?」

「クケケケケケケケ。キャーハッハッハッハ!!!」

 いや、ちょっとマジで引くほどヤバイんですけど。

 ツボに入ったのか?

「キャーハッハッハッハ!!!!!!」

 更に笑いだす老婆はフラフラと歩み寄ってくる。

 笑いながら歩みよる老婆の姿はまさに魔女?いや、モノノ怪だ。

 そして俺の間近くまで接近すると老婆は急に俺の腕にしがみ付いた。

 その力は物凄くて俺の恐怖を更に掻き立てた。

「な!?ば、ばあさん!!はな「‥」

 離せといいかけた所で老婆が俺に何か言ってきた。聞き取りづらかったのでもう一度言うように伝えると、肩をヒクつかせながら老婆はこう言った。

「クケケ‥笑い‥死ぬ。」

〇〇〇〇

 暫くして老婆の笑いは収まり、本題に入った。

 老婆は何でもこの民族の中では最高齢で、魔法の知識を一番良く知っている人物だそうだ。

 俺はここぞとばかりに老婆に質問しまくった。

 試しに【火球弾ファイヤーボール】という火の玉を間近で見せてもらい、本当に魔法があるのか?の確認をさせてもらった。

 本当に手から火の玉が出た瞬間はビビったが、ここ最近の驚きでそこまで驚きはしなかった。

「よし。魔法があるのはよく分かった。で、それは俺にも使えるのか?」

 俺のその質問に老婆は不思議そうな顔をする。

「おや?救世主様は魔法をお知りにならないんですかい?」

その質問にどう返そうか少し悩んだが直ぐに答えをだした。

「あ、あぁ。少しの前の記憶が無くて、気付いたら森にいたんだ。」

 月並みだけど、変に警戒されるよりよっぽどマシだ。こことは違う世界から来ましたなんて信じて貰えそうもないしな。

「そうですかい。ならしかたありませんな。いいですか?魔法の取得方法は‥。」

 老婆が言うにはこうだ。

取得方法は大きく分けて二つある。

 先日やったような魔法陣の上に乗り精神世界で儀式を行う場合と、現実世界である条件を満たす事とある。

 これをクリアしなければ魔法は使えないそうで、上位の魔法ともなればそれ相応のリスクも伴ってくるのだそうだ。

 魔力があるから使えます。って感じではない訳か。

「ふむ。じゃぁ婆さん。俺に何かの魔法を教えてくれよ。俺も魔法を使ってみたいんだ。」

「それは構いませんが、救世主様はもう既に魔法をお持ちではないですかの?」

 その発言に俺は首をかしげる。

「お気づきになって居られませんでしたか?なら試しにこの小石を何の形でもいいので変形させるイメージを作って見て下され」

 そういって老婆は俺に拳に収まる程の小石を手渡した。

「変形させるイメージでいいのか?」

「はい。小石に意識を集中させて下され。」

 内心、何がしたいんだ?とも思ったが、言われるがままに試してみた。

 すると、小石が光輝き変形しだした。

 そして出来た形は想像していた通り、石でできた星型手裏剣だった。


 「おぉ。生きている間に伝説の魔法を拝めるとはワシャ幸せ者じゃ。」

「できた。‥すげぇーよコレ!けど、俺のイメージでは刃先が尖ってたんだが丸いのは何故だ?」

「それは恐らく救世主様のイメージ不足なのかもしれませんな。昔、大ジジ様から聞いた事がある。想像形成クリエイティの魔法はイメージを深く深く練らねば形成の時のブレが生じると。」

 確かにそこまで深くは考えなかったな。

 これは思ったより難しいのかもしれん。

「ってより、さっきは何も起きなかったのに何で今はできたんだ?」

想像形成クリエイティの魔法は物質を変形させる事はできるが生み出す事はできません。なので質量を増やす事もできません。」

「そういうことね。」

 俺は納得という風に手の平に拳を置いた。

「婆さん、ありがとう!!」

 お礼を告げると老婆はニッコリと笑顔を返し「かまいませんよ。」と言った。

ふと気づくと日が差し始めて辺りはすっかり朝焼けで明るくなっていた。

「ほほ、もうこんな時間かい。救世主様、今日はこのくらいにして姫様の元にお戻りになられては如何ですかな?ババはいつでも居ますゆえ、その時に魔法は教えれます。姫様が起きて救世主様が居らねば心配なさいますでしょう。」

「うーん。そうだな。じゃぁ一旦テントに戻るよ。時間が空いたらまた婆さん所に尋ねていいかい?」

「いいですとも。ですが、今日は忙しくなります。」

「え?何か用事があるのかい?」

「用事と言うよりも村の守り人が皆、カリュの騒動で死んでしまいましたのでな。これからどう対処するかと一族会議が行われますのじゃ。」

 確かに。守り人が居なくなれば一族を守る者が居なくなったという事。

 ルナから聞けば、結界はまだ貼られているみたいだけど、警戒を怠る訳には行かないのだろう。

  ってよりもその会議、俺も出るのかな?

 まぁ考えても仕方ない。一旦テントに戻ろう。

「じゃぁ婆さん。俺テントに戻るよ。」

 婆さんに手を振ると、そのまま俺はテントに戻った。


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