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10.曲がり角でぶつかって
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「……最悪」
見事【塔】に勝利した私が、思わずそう呟いてしまうほど、今の気分は最悪だった。原因は、生きるか死ぬかの賭け云々などではなく、トドメの一撃にあった。斧で【塔】をアジの開きのように掻っ捌いたせいで、返り血やら脳漿やら臓腑やらが飛び散って、私にかかったのだ。
初めて人を殺した時も返り血くらいは浴びたけれど、あの時は素早く動き回っていて、尚且つ急所に一撃入れて仕留めていたから少量で済んでいたのか。
……いや、そんなことはどうでも良い。
キッチンの流しで、できる限り血を洗い流す。素肌に付着した血は簡単に落ちたけれど、着ていた服の血はそう簡単に落ちない。どうにか綺麗にしようと奮闘するが、結局血と水でびしょ濡れになってしまった。寒い。
仕方ないので下着姿になるが、これで戦うわけにもいかない。戦闘において露出度高めの装備が許されるのはゲームやアニメの中くらいだ。それに普通に恥ずかしいし、相変わらず寒い。
幸いここは屋敷がモチーフになっているので、もしかしたらクローゼットに服でも入っているかもしれない。そう思って探しに行こうとした瞬間、部屋の隅にキラリと光るレンズが見えた。
……そういえば、今まで気にしていなかったけど、インフェルノ内に仕掛けられたカメラやマイクで、今もこの場面を【世界】や世界中のお偉いさん方が見てるわけで……。
「……死ねッ!」
斧をぶん投げてカメラを破壊した。勢い余って「死ね」なんて言ってしまったが、まぁ言われて当然の仕打ち(殺し合いへの強制参加)をされているので気にしないでおこう。
一応、インフェルノに来て最初に過ごした部屋にあったノートに、仕掛けられたカメラやマイクを故意に破壊するのは禁止と書かれていたけれど、『故意に』ということは戦闘の余波で壊したり今のようにうっかり(?)壊した場合はセーフなはずだ。
……セーフだよな?
(そういえば、【世界】がタロットカードが必要になるって言ってたよな?)
カメラを壊したことをきっかけに、【世界】とのやり取りを思い出した。床に転がっているグロテスクな死体に目をやる。死んだからなのか、体を損傷したからか、既に『帯電体質』は失われていた。あれを調べるなんて凄く嫌なのだが、調べないわけにはいかないだろう……。
途中で吐きそうになったけれど、ようやく懐にしまってあった【塔】のカードを発見し手に入れた。これで役に立たなかったらどうしよう。怒り狂うかもしれない。
ついでに、手のひらサイズのスタンガンも入手した。本来なら散々私を苦しめてきたバトンタイプのスタンガンを貰っていきたかったが、嵩張るし、扱い慣れていないので下手に振り回せば私自身が感電しかねない。
そして、【塔】からドロップしたアイテムを見ていくうちに、【塔】が脱ぎ捨てたレインコートを思い出した。フードの付いた白いレインコートは、脱ぎ捨てられた時と同じように廊下にあった。何故こんなものを着ていたのか謎だが、取り敢えず、服が見つかるまでこれを羽織っておこう。それに、また同じように血飛沫を浴びてもレインコートなら簡単に落とせる。
「……しばらくは、誰とも出会いませんよーに」
そう祈って、リビングルームのドアを閉める。リビングルームにあったライトの光が遮断されて、周りが一気に薄暗くなる。
1つの階層に3~4人いると予想したように、【塔】以外にも6階層に送られた殺人鬼がいる可能性は大いにあるし、いずれは出会って殺し合うにしても、今のコンディションでは絶対に出会いたくなかった。
(思えば、聖戦開始直後の私は自身を奮い立たせるためにも荒っぽく振る舞っていたふしがあったな。それで、気配がだだ漏れにでもなっていたのか、【塔】の野郎に簡単に見つかっちまった……。今度こそ誰にも見つからないように、気配を殺して慎重に進もう)
スパイアクション映画のように、物陰に隠れながら忍び足で進もう。濡れた服やら斧やら、荷物が多くて大変だけれど、ここでじっとしているわけにもいかないのだから、仕方ない。とにかく、着る物を早く手に入れたいと、寒さと戦闘の疲労で震える体に鞭打って歩き出した。
そうして歩き出して、僅か数分後。
曲がり角に差しかかった時のことだった。
背後をちらちらと警戒しながら、角の向こうを覗き込もうと身を乗り出すと、同じように出てきた少女と衝突した。
「いでっ」「あいた!?」
……しばらくは誰とも出会いたくないという私の祈り、滑稽なほどに無駄だったよ。笑ってくれ。
どうやら2人とも気配を消していたお陰で、お互いがお互いに気づかずにばったり鉢合わせするというギャグのような、最悪の展開になったようだ。
軽くぶつかっただけだというのに、大袈裟なほど少女はよろめいて、後ろに下がり床にへたり込んだ。そして私を見て、一言。
「……ろ、露出狂ですかっ……!?」
「違うわい!」
血で汚れた服の替えを探しに出て数分しか経っていないので、確かに今の私は下着姿にレインコートというだいぶマニアックな格好をしているが、好きでこの格好でいるわけじゃない。露出狂扱いなど甚だ心外だ。
(いや待て、少女? 何でこんな場所に、こんな華奢な少女がいるんだ? マジでこの子も殺人鬼なのか?)
見たところ年齢は16か17くらいで、学生鞄を持っており、学校の制服なのか赤いリボンの付いたワイシャツを着て、ダボっとしたパーカーを羽織っている。子猫のような柔らかな口に大きくてキラキラした瞳、特徴的な淡い桃色のツインテールと、あざといと思うほど可愛らしい美少女だった。
しかし、出会った場所が場所だ。普通であれば「可愛い子だなぁ」「もしかしてアイドルの子かな」なんて、のほほんとした感想が出るだろうが、今この状況では「楽に殺せそう」という物騒な感想くらいしか抱かなかった。
……なのだが、出鼻を挫かれたせいで、今更戦い辛い。私が【塔】との戦闘で疲れていることや、まともな服がないことも相まって、戦おうとする気すら起きなくなった。向こうから襲いかかって来れば当然応戦するが、向こうも戦意がないらしい。
というか、この子に襲われても勝負になる気がしない。私より年下の少女なんて、むしろ殺さない方が難しいまでもある。てっきり、私が聖戦で一番若いとまで思っていたのだが……一体どういう意図で、運営はこの子を参戦させたんだ。
「……私がこんな格好でいるのは、さっき出会ったクソ野郎をぶっ殺した時に、服が返り血で駄目になったからだよ。で、息つく暇もなくお前と出会っちまったわけだけれど……」
「ひぃぃ……っ」
「お前、いつまでへたり込んでるんだよ。殺し合う気があるんだったら、とっととかかって来い」
そう言って少女に斧を向けるが、少女は頭を抱えてぶるぶる震えている。もし、目の前の少女に歴戦の戦士のような風格があったのなら、一瞬の隙をついて殺すしか倒せなさそうであったなら、私は攻撃していただろうが、いつでも、どうとでも殺せそうだという印象が、逆に攻撃するのを躊躇わさせていた。
少女はへたり込んでいることを指摘されたからか、産まれたての子鹿のように震える足で立ち上がった。私は警戒してというよりは、様式として臨戦態勢をとる。しかし少女は戦うことはせず──
「こ……殺さないでくださいぃ……」
命乞いし始めた。
まぁ、こんな怯えようだと戦闘になるとは端から思っていなかったが、ならばどうしたものだろう? 正直、怯える少女を一方的に攻撃することなんてしたくないのだが。
「殺さないでって言われてもなぁ。知っての通り、聖戦で生き延びられるのは1人だけだし、私がお前を見逃すメリットもない。私にできることは精々、苦しませずに、痛みを感じることもなく殺すことだけだ」
「ひぅっ……その、きょ、協力、しましょう。生き残れるのが1人だけでも、途中まで手を組んだ方が、その、良いと思うんです……」
びくびくしながら、上目遣いで提案する。
協力……成る程、そういうスタンスもあったのか。生き残るのが1人だけだという聖戦の性質上、仲間を作るという選択肢を無意識に除外していた。
しかし……。
「協力って言っても、裏切らない保証がないし、戦力になるかも怪しいじゃねぇか……。流石に頷くわけにはいかないかな」
「そ、そんなぁ……ええと、う、裏切るとかは、ないです。信じてください。それに、戦うのは苦手ですけど、考えることとかは得意なので……」
しどろもどろな受け答えだ。半ば呆れて話を聞いていたが、次の瞬間、少女は学生鞄から1枚のカードを取り出した。それを見て私はハッとする。
「なので……この、配られたタロットカードの使い道も、わかっちゃいました。その、私と協力してくれるなら、教えますけど……」
少女が取り出したのは、【恋人】のカードだった。
(カードの使い道……! 確かにそいつは魅力的な提案だが、こいつ──【恋人】は本当にそんなもん知っているのか? いや、知らなければ直ぐ嘘がバレて私に殺されるだけだ。はったりとは思えない)
というか【恋人】は、私がカードの使い道を教わった後も律儀に協力すると思っているのだろうか。まぁ、私は嘘を吐いたり裏切ったりするのは嫌いなので、約束したからには協力するつもりでいる。なのでここで選ばなくてはならない。一匹狼を貫いて戦うか、カードの使い道を教わって2人で協力するか。
(カードの使い道は、今はまだわからなくても後々になって自力で理解するかもしれない。何より、協力の道を選ぶってのは、裏切られる危険性も孕んでいる。ちょっと惜しい気もするし、こんな少女を殺したくはないが、ここは──)
そう思って、協力要請を断ろうとした。
「すまねぇが──」
ぐぎゅるるる~~~……
お腹が鳴った。
そういや私は腹が減ったから、食い物を探しに行って、それで【塔】と出会ったんだった。やばい。恥ずかしくて顔が赤くなってきた。
いっそのこと、【恋人】を殺せば今の醜態を知る人間はいなくなる──……駄目だ【世界】共がカメラ越しに見てるんだった。
悶々としていると、【恋人】が名案を思いついたと言わんばかりに、ぱちんと手を叩いてこう言った。
「ご飯、作りましょうか?」
見事【塔】に勝利した私が、思わずそう呟いてしまうほど、今の気分は最悪だった。原因は、生きるか死ぬかの賭け云々などではなく、トドメの一撃にあった。斧で【塔】をアジの開きのように掻っ捌いたせいで、返り血やら脳漿やら臓腑やらが飛び散って、私にかかったのだ。
初めて人を殺した時も返り血くらいは浴びたけれど、あの時は素早く動き回っていて、尚且つ急所に一撃入れて仕留めていたから少量で済んでいたのか。
……いや、そんなことはどうでも良い。
キッチンの流しで、できる限り血を洗い流す。素肌に付着した血は簡単に落ちたけれど、着ていた服の血はそう簡単に落ちない。どうにか綺麗にしようと奮闘するが、結局血と水でびしょ濡れになってしまった。寒い。
仕方ないので下着姿になるが、これで戦うわけにもいかない。戦闘において露出度高めの装備が許されるのはゲームやアニメの中くらいだ。それに普通に恥ずかしいし、相変わらず寒い。
幸いここは屋敷がモチーフになっているので、もしかしたらクローゼットに服でも入っているかもしれない。そう思って探しに行こうとした瞬間、部屋の隅にキラリと光るレンズが見えた。
……そういえば、今まで気にしていなかったけど、インフェルノ内に仕掛けられたカメラやマイクで、今もこの場面を【世界】や世界中のお偉いさん方が見てるわけで……。
「……死ねッ!」
斧をぶん投げてカメラを破壊した。勢い余って「死ね」なんて言ってしまったが、まぁ言われて当然の仕打ち(殺し合いへの強制参加)をされているので気にしないでおこう。
一応、インフェルノに来て最初に過ごした部屋にあったノートに、仕掛けられたカメラやマイクを故意に破壊するのは禁止と書かれていたけれど、『故意に』ということは戦闘の余波で壊したり今のようにうっかり(?)壊した場合はセーフなはずだ。
……セーフだよな?
(そういえば、【世界】がタロットカードが必要になるって言ってたよな?)
カメラを壊したことをきっかけに、【世界】とのやり取りを思い出した。床に転がっているグロテスクな死体に目をやる。死んだからなのか、体を損傷したからか、既に『帯電体質』は失われていた。あれを調べるなんて凄く嫌なのだが、調べないわけにはいかないだろう……。
途中で吐きそうになったけれど、ようやく懐にしまってあった【塔】のカードを発見し手に入れた。これで役に立たなかったらどうしよう。怒り狂うかもしれない。
ついでに、手のひらサイズのスタンガンも入手した。本来なら散々私を苦しめてきたバトンタイプのスタンガンを貰っていきたかったが、嵩張るし、扱い慣れていないので下手に振り回せば私自身が感電しかねない。
そして、【塔】からドロップしたアイテムを見ていくうちに、【塔】が脱ぎ捨てたレインコートを思い出した。フードの付いた白いレインコートは、脱ぎ捨てられた時と同じように廊下にあった。何故こんなものを着ていたのか謎だが、取り敢えず、服が見つかるまでこれを羽織っておこう。それに、また同じように血飛沫を浴びてもレインコートなら簡単に落とせる。
「……しばらくは、誰とも出会いませんよーに」
そう祈って、リビングルームのドアを閉める。リビングルームにあったライトの光が遮断されて、周りが一気に薄暗くなる。
1つの階層に3~4人いると予想したように、【塔】以外にも6階層に送られた殺人鬼がいる可能性は大いにあるし、いずれは出会って殺し合うにしても、今のコンディションでは絶対に出会いたくなかった。
(思えば、聖戦開始直後の私は自身を奮い立たせるためにも荒っぽく振る舞っていたふしがあったな。それで、気配がだだ漏れにでもなっていたのか、【塔】の野郎に簡単に見つかっちまった……。今度こそ誰にも見つからないように、気配を殺して慎重に進もう)
スパイアクション映画のように、物陰に隠れながら忍び足で進もう。濡れた服やら斧やら、荷物が多くて大変だけれど、ここでじっとしているわけにもいかないのだから、仕方ない。とにかく、着る物を早く手に入れたいと、寒さと戦闘の疲労で震える体に鞭打って歩き出した。
そうして歩き出して、僅か数分後。
曲がり角に差しかかった時のことだった。
背後をちらちらと警戒しながら、角の向こうを覗き込もうと身を乗り出すと、同じように出てきた少女と衝突した。
「いでっ」「あいた!?」
……しばらくは誰とも出会いたくないという私の祈り、滑稽なほどに無駄だったよ。笑ってくれ。
どうやら2人とも気配を消していたお陰で、お互いがお互いに気づかずにばったり鉢合わせするというギャグのような、最悪の展開になったようだ。
軽くぶつかっただけだというのに、大袈裟なほど少女はよろめいて、後ろに下がり床にへたり込んだ。そして私を見て、一言。
「……ろ、露出狂ですかっ……!?」
「違うわい!」
血で汚れた服の替えを探しに出て数分しか経っていないので、確かに今の私は下着姿にレインコートというだいぶマニアックな格好をしているが、好きでこの格好でいるわけじゃない。露出狂扱いなど甚だ心外だ。
(いや待て、少女? 何でこんな場所に、こんな華奢な少女がいるんだ? マジでこの子も殺人鬼なのか?)
見たところ年齢は16か17くらいで、学生鞄を持っており、学校の制服なのか赤いリボンの付いたワイシャツを着て、ダボっとしたパーカーを羽織っている。子猫のような柔らかな口に大きくてキラキラした瞳、特徴的な淡い桃色のツインテールと、あざといと思うほど可愛らしい美少女だった。
しかし、出会った場所が場所だ。普通であれば「可愛い子だなぁ」「もしかしてアイドルの子かな」なんて、のほほんとした感想が出るだろうが、今この状況では「楽に殺せそう」という物騒な感想くらいしか抱かなかった。
……なのだが、出鼻を挫かれたせいで、今更戦い辛い。私が【塔】との戦闘で疲れていることや、まともな服がないことも相まって、戦おうとする気すら起きなくなった。向こうから襲いかかって来れば当然応戦するが、向こうも戦意がないらしい。
というか、この子に襲われても勝負になる気がしない。私より年下の少女なんて、むしろ殺さない方が難しいまでもある。てっきり、私が聖戦で一番若いとまで思っていたのだが……一体どういう意図で、運営はこの子を参戦させたんだ。
「……私がこんな格好でいるのは、さっき出会ったクソ野郎をぶっ殺した時に、服が返り血で駄目になったからだよ。で、息つく暇もなくお前と出会っちまったわけだけれど……」
「ひぃぃ……っ」
「お前、いつまでへたり込んでるんだよ。殺し合う気があるんだったら、とっととかかって来い」
そう言って少女に斧を向けるが、少女は頭を抱えてぶるぶる震えている。もし、目の前の少女に歴戦の戦士のような風格があったのなら、一瞬の隙をついて殺すしか倒せなさそうであったなら、私は攻撃していただろうが、いつでも、どうとでも殺せそうだという印象が、逆に攻撃するのを躊躇わさせていた。
少女はへたり込んでいることを指摘されたからか、産まれたての子鹿のように震える足で立ち上がった。私は警戒してというよりは、様式として臨戦態勢をとる。しかし少女は戦うことはせず──
「こ……殺さないでくださいぃ……」
命乞いし始めた。
まぁ、こんな怯えようだと戦闘になるとは端から思っていなかったが、ならばどうしたものだろう? 正直、怯える少女を一方的に攻撃することなんてしたくないのだが。
「殺さないでって言われてもなぁ。知っての通り、聖戦で生き延びられるのは1人だけだし、私がお前を見逃すメリットもない。私にできることは精々、苦しませずに、痛みを感じることもなく殺すことだけだ」
「ひぅっ……その、きょ、協力、しましょう。生き残れるのが1人だけでも、途中まで手を組んだ方が、その、良いと思うんです……」
びくびくしながら、上目遣いで提案する。
協力……成る程、そういうスタンスもあったのか。生き残るのが1人だけだという聖戦の性質上、仲間を作るという選択肢を無意識に除外していた。
しかし……。
「協力って言っても、裏切らない保証がないし、戦力になるかも怪しいじゃねぇか……。流石に頷くわけにはいかないかな」
「そ、そんなぁ……ええと、う、裏切るとかは、ないです。信じてください。それに、戦うのは苦手ですけど、考えることとかは得意なので……」
しどろもどろな受け答えだ。半ば呆れて話を聞いていたが、次の瞬間、少女は学生鞄から1枚のカードを取り出した。それを見て私はハッとする。
「なので……この、配られたタロットカードの使い道も、わかっちゃいました。その、私と協力してくれるなら、教えますけど……」
少女が取り出したのは、【恋人】のカードだった。
(カードの使い道……! 確かにそいつは魅力的な提案だが、こいつ──【恋人】は本当にそんなもん知っているのか? いや、知らなければ直ぐ嘘がバレて私に殺されるだけだ。はったりとは思えない)
というか【恋人】は、私がカードの使い道を教わった後も律儀に協力すると思っているのだろうか。まぁ、私は嘘を吐いたり裏切ったりするのは嫌いなので、約束したからには協力するつもりでいる。なのでここで選ばなくてはならない。一匹狼を貫いて戦うか、カードの使い道を教わって2人で協力するか。
(カードの使い道は、今はまだわからなくても後々になって自力で理解するかもしれない。何より、協力の道を選ぶってのは、裏切られる危険性も孕んでいる。ちょっと惜しい気もするし、こんな少女を殺したくはないが、ここは──)
そう思って、協力要請を断ろうとした。
「すまねぇが──」
ぐぎゅるるる~~~……
お腹が鳴った。
そういや私は腹が減ったから、食い物を探しに行って、それで【塔】と出会ったんだった。やばい。恥ずかしくて顔が赤くなってきた。
いっそのこと、【恋人】を殺せば今の醜態を知る人間はいなくなる──……駄目だ【世界】共がカメラ越しに見てるんだった。
悶々としていると、【恋人】が名案を思いついたと言わんばかりに、ぱちんと手を叩いてこう言った。
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