アルカナバトル

しまだしろ

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【塔】の殺人鬼録

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タワー

《本名》バッド・スカイ
・通称、カミナリ。
・男性、年齢は26歳。
・顔の右半分が焼け爛れており、髪も右側は少し禿げている。金髪で、右目が赤く左目が青いオッドアイ。
・幼い頃に雷に打たれて、身体に電気を溜め込み自在に放出するという特殊能力に目覚める。本人はその能力を『帯電体質』と名付けている。実は、発電能力はないため、使い所を間違えると直ぐに電気が足りなくなってしまう。
・内蔵した電気の刺激により筋力を増強することができる。そのため身体能力が高い。

《殺害人数》94人
・本人は半分も覚えていなかったが、手口が限定的なので楽に調査できた。
・全員感電死。

《凶器》スタンガン
・あらかじめ充電しておけば、自分の身体がスタンガン代わりになるため素手でも犯行が可能。その際は漏電防止用に絶縁のレインコートを着ていた。

◎好きなもの
・音楽(特にラップ)
・ホラー映画

◎嫌いなもの
・家族
・勉強
・暑い場所

『生い立ち』
 母子家庭に生まれる。兄がいたが、兄弟揃って母親にネグレクトされていた。兄からは日常的に暴力を振るわれており、友達もいなかったためずっと1人だった。ある日、外で遊んでいる際に雷に打たれて『帯電体質』を会得する。この能力のお陰で兄から身を守れるようになったが、成長するに連れて「自分には特別な能力があることを世に知らしめたい」という自己顕示欲が暴走し、有名になるために殺人を犯していった。
 長期に渡って場当たり的な犯行を繰り返してきたが、警察は特殊能力を用いた殺人ということに気付けず、結果94人もの被害者が出た。
 殺人鬼となってから音楽にハマり、趣味でラップの作詞をしていた。ラップの腕前は普通、しかし気にせず所構わず歌い出す。とうとう殺し合いの最中にまでも歌い出した。

『殺人の特徴』
 普段は事前に充電し、相手を羽交い締めにした際に感電死させている。余裕がある時は薄暗い森や路地裏などに潜み、相手をテーザー銃やスタンガンなどで気絶させて隠れ家に運び込み、痛ぶった後で感電死させていた。



***



 薄暗い森の中を、懐中電灯片手に進む男がいた。もう片方の手に握られた拳銃が、じっとりと手汗で湿っている。心臓はうるさいくらい高鳴り、息が荒くなる。緊張と恐怖で動けなくなりそうだが、ここで帰るわけにはいかない。せっかくこの森に、連続殺人鬼──通称『カミナリ』が現れるという情報を掴んだのだから。
 警察が現れるより先に奴を見つけ出し、殺す。それが男の目的だった。そして、恐らくはカミナリによって殺されたであろう自分の娘への弔いだった。
 男の娘は何年か前に、暗くて狭い路地裏で感電死した状態で発見されていた。当時は事件なのか事故なのかもわからず、警察の捜査も早々に打ち切りとなってしまう。そのことに納得がいかなかった男は探偵を雇い、娘の死の真相を解き明かそうとした。そして、警察が謎の連続感電死が人為的に引き起こされた事件であることを公表したのとほぼ同時に、雇った探偵が犯人の居場所を割り出した。直ぐに警察に連絡するよう促されたが、男は自分の娘の死を碌に捜査しなかった警察を頼る気にはなれなかった。
 犯人が警察に捕まる前に、娘の仇を取る。男がそう決意するのに、時間はかからなかった。



 不意に、背後からガサリッと音がする。
 即座に振り返り、拳銃を草むらに向けて構える。ざっと見渡す限り、人が潜んでいるようには見えなかった。だが今の音は断じて風で草木が揺れた音ではない。何かが動いた音だ。
 恐る恐る、一歩踏み出す。そして足音を立てないように進む。地面には木の葉や小枝が大量に散らばっているので、随分と神経を使った。

 ……しかし、人の気配に反応して草むらから出てきたのは一羽のカラスだった。カァー、カァーと呑気に鳴きながら、あっという間に夜空へ飛び立ち、暗闇に溶けて見えなくなった。
 ほっとした。身体の震えが止まって、力が抜ける。そりゃあ、こんな深い森の中には、カラスはもちろん様々な動物がいて当然だ。慎重なのは良いことだが、警戒し過ぎても気疲れしてしまう。

 気を取り直して、深呼吸する。そして元来た道へ引き返そうと振り返り──……



「こんな真夜中に何やってんだヨォ」



 そいつがいた。
 目が合った時にはもう遅かった。テーザー銃の電極の針が男の胴体に突き刺さる。激痛が走り「うぅぅ」と呻き声が漏れて、膝から崩れ落ちた。そいつ──連続殺人鬼カミナリの近づく音がする。どうにか拳銃を向けようとするが痺れて動けず、とうとう意識を失った。






「……んっ……!?」

 目が覚めたら、見覚えのない場所にいた。木造の小屋の中だろうか、ボロボロで物が少なく殺風景な部屋にいる。窓から見える森が先ほどまで探索していた森であるならば、そう遠く離れた場所に連れてこられたわけではないようだが……。
 動こうとして、気づく。男の身体が、今座っている椅子に固定されていた──つまりは拘束されている。猿轡もかまされて声も出せない。
 このままではまずい。殺される──!
 そう思って、男はどうにか逃げ出そうと身を捩る。しかし拘束はびくともせず、ガタガタと椅子が揺れるだけだった。

 そして、物音から男が目覚めたことを察したカミナリが背後から声をかける。

「ようやくお目覚めかヨ、くくく……。オメー、最高にツイてねぇなァ。こんな夜中に出歩いて、ばったり俺と出会っちまうなんてヨォ」
「……んんん……!」

 当然、男は振り返ることも声を上げることもできない。それに構わずに、カミナリは上機嫌に語り出す。

「いや、よく考えたら拳銃を持って散歩ってのもおかしい話だ。くくく……もしかして、最初から俺を殺す気で来たのか? だとすると、この隠れ家がバレるのも時間の問題というわけか……教えてくれてありがとう!」
「──っ!」

 カミナリは、嫌味ったらしく感謝する。そして大声で嘲笑った。男は絶望感と悔しさが頭の中を埋め尽くして、涙をポロポロ流し始めた。次第に嗚咽する声が漏れ出す。そんな男の様子を見ても、カミナリはどこ吹く風といった体で、気にせずに殺人の準備を始める。ワイヤーを男の身体に巻き付け、懐から棒状のスタンガンを取り出した。

「そういえばヨォ、オメーのポケットに入ってたこの写真……見覚えがあるぜ。確か、何年か前に俺がぶっ殺した餓鬼だ。俺の推理じゃ、オメーはこの餓鬼の親か何かで、その敵討ちに来たんだろォ?」
「……っんんん!!」

 男の事情は、完全にバレていた。そして今、他ならぬ犯人の口から娘を殺害したことが自供された。男は顔を真っ赤にして怒り狂い、ジタバタと暴れ出すが、拘束は解けない。想像以上に頑強に縛られているようだ。真に拘束すべき人間は、すぐ後ろにいるというのに。

「くくく……残念。まァ、その熱意に──或いは殺意に免じて、長々と苦しませることなく、手短にぶっ殺してやろう……!」

 『免じて』などと言うが、もちろん方便だ。別にカミナリは、男に同情したわけではない。そもそも人に同情する良心など持ち合わせていない。単に今いる隠れ家は早めに捨てた方が良いと判断しただけに過ぎない。
 たんっと音を立てて、身軽に椅子の肘掛けに──正確には、肘掛けに縛り付けられた男の腕の上に飛び乗る。男は声にならない叫び声を上げるが、カミナリはまったく気にせずに、背もたれの部分に座る。腕の負担は軽減したが、これから殺されるという恐怖により、精神的負担はむしろ増した。
 カミナリは男の目の前に、延長コードとプラグをぶら下げて見せた。

「オメーが座ってる椅子はな、ただの椅子じゃあねぇ。このプラグを挿し込めばあっという間に、『電気椅子』へと早変わりする処刑器具だ! 最高に痺れる最期にしてやるぜぇ……! ぎゃははははぁ———っはははは!」
「んんんんんっ!!」

 そしてカミナリは、一切の躊躇なくプラグを挿した。先ほどの説明に嘘偽りは一切なく、男の座っていた椅子には高圧電流が流れ出し、男の身体を焼き焦がしていく。最早叫び声を上げることも出来ずに痙攣する。視界が真っ白になり、呻き声が漏れて、肉が焼ける匂いがした。カミナリは尚も笑い続けて、あろうことか、ダメ押しとばかりにスタンガンを男に巻き付けておいたワイヤーに押し当てた。

 バチバチバチバチッ!

 地獄のような苦しみの中、男はただ一刻も早く死んで楽になりたいという思いで心の中が埋め尽くされていた。しかし、それでも最期には願わずにはいられなかった。どうかこの、悪魔のような殺人鬼に、最悪で残虐な最期が訪れますようにと……。
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