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7.怒涛 止まらない送電塔
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全身からパチパチと静電気が発生して、痛みでむず痒くなる。そういえば、意を決して──というより、空腹に耐えかねて部屋を出た際にも静電気が発生していた。
あれは前兆だったのだろうか。目の前の、【塔】と名乗る男と戦うことになるという。それとも【塔】が私を追跡していた際に漏れ出た電気が静電気を引き起こしただけなのだろうか。
……どちらでも良いか。
今はとにかく、この状況を何とか好転させなければならない。
「小競り合いはもう散々だ! 食らわすぜ俺のサンダー!」
「やかましい!」
スタンガンによる攻撃を、私は蹴りで迎え討つ。先程のように靴底のゴム部分で攻撃すれば感電はしないだろう。実際、感電している人を助けるためには自分も感電してしまわないようにドロップキックするのが良いと聞く。問題は、いくら私が喧嘩慣れしているとはいえ蹴りだけでどうにかなる相手ではないということだ。
案の定、【塔】の攻撃を蹴りで防ぐか、躱すことしかできなくて、防戦一方の状態だ。このままでは押し切られる。そう判断した私は、勢いよく後ろへ飛び跳ねてドアの前に着地する。テーザー銃の電極が当たって小さな傷ができた、木製の大きなドアだ。
すかさず詰め寄り攻撃してこようとした【塔】だが、寸前でよろけた。私が最初に食らわした打撃のダメージは、なくなったわけではないらしい。良いことだ。これ幸いと、私はドアノブを捻り奥の部屋へと逃げ込む。どのような部屋なのかは知る由もないが、このまま廊下で戦っても不利なだけだ。
急いでドアを閉めて押さえて、ざっと室内を見渡してみる。広々としていて、テーブルやソファ、お洒落な飾り棚があり、奥にはキッチンが見える。どうやらキッチンが同じ部屋にあるタイプのリビングルームのようだ。
【塔】はドアを開こうとして、私がドアを押さえていることに気付いたようだ。体当たりでもしたのかダンッと大きな音が立ち、大きな衝撃を感じた。
何か武器になりそうなものはないかと部屋を物色していると、突然右手に激痛が走る。
「痛だっ!?」
思わず飛び退く。あの野郎、どうやらドアノブに電気を流したようだ。偶然にもドアノブに触れていた右手が火傷したようにヒリヒリする。そして、この隙を狙って【塔】が部屋に入ってきた。
「逃がさねぇヨ、死ね」
「死ぬかバーカ、食らえ!」
飛び退いた先にあった、ダイニングテーブルの脚をがっしりと掴んで持ち上げる。相当重かったが、今はその重さが頼もしい。これが直撃すればかなりの破壊力を生むだろう。こうして遠距離から物を投げれば、少なくとも電気による反撃は食らわない。陳腐な作戦だけれど無策よりマシだ。
「……おいおいマジかヨォ!?」
ドガシャァ———ァァァンッ!!!
けたたましい音を立てて、放り投げられたダイニングテーブルが落下する。【塔】はギリギリで躱したようだが、衝撃で倒れた飾り棚にぶつかって転倒した。近づいて斧を振り下ろしたい衝動に駆られるが、斧が通電して一緒にお陀仏なんて展開にも成りかねない。今はぐっと我慢しよう。
近くにあった椅子を適当に投げつけながら、私はキッチンへと移動する。ここならある筈だ──『包丁』という、主婦の皆様御用達の刃物が。
早速シンク下の収納棚の扉を開く。ここで何本か包丁を手に入れて投げナイフの代わりにでもすれば、遠くからでも有効な攻撃ができる──なんて、考えていた。
「……何だこりゃ」
お玉しかなかった。何で?
(いやいやいや何でだよ。普通シンク下の扉の裏とかに包丁差しとかあるだろ! デスゲームなんだから刃物くらい用意しとけよ運営……!)
そりゃ、ここはあくまで屋敷の中を再現しただけのデスゲーム会場なのだから、屋敷としての、人が住む間としての実用性は度外視してあるのだろう。だからキッチンに調味料がなくても、リビングなのにテレビがなくても文句は言うまい。だがデスゲーム会場のくせして刃物があってしかるべき場所に何もないとはどういう了見だ。
(ちっ……刃物がダメなら何か他に、使えるものはないか……?)
キッチンを見回すが、ちゃちな食器や飲料水の入ったペットボトルくらいしか見つからない。もっとじっくりと探せば何か見つかるかもしれないが、そんな余裕はない。既に【塔】は起き上がってこちらへ向かって来ている。とにかく、物を投げつけて牽制しようと適当にゴミ箱を掴んだ。
(ん? 待てよ……ゴミ箱?)
キッチンにゴミ箱があること自体は自然なことだ。なので私が気になったことは別のこと……注目すべきなのは、箱にセットされているゴミ袋の方だ。私の記憶が正しければビニールの袋は絶縁体──電気を通さない。
私は急いでゴミ袋を取り外す。当然何も捨てられていないのでスムーズに取り外せた。そして斧の柄にぐるぐると巻き付ける。
「……チッ……面倒臭え」
その様子を見ていた【塔】が忌々しそうな顔をする。私の作戦に気付いたようだ。とはいえ、私はゴミ袋越しに斧を握って戦わなくてはならないし、触れただけで感電するのは相変わらずなので先程のように圧倒することは難しい。
結果、両者互角の戦いが続いた。
戦闘の場が廊下からリビングルームへ移るに連れて、動きは激しさを増してくる。【塔】がソファや棚を踏み台にして、斧による攻撃をアクロバティックに躱し続ける。隙を見てスタンガンで殴りかかってくるが、私はそれを斧で的確に防御する。本来なら、斧の弱点である隙の大きさを体術でカバーできたのだが、奴の帯電体質がそれをさせない。このまま攻めあぐねるのかと思っていたが、転機は唐突に訪れた。悪い方向に。
一旦お互いに距離を取って睨み合っていると、【塔】が何か思いついたようにして後ろを見る。激しい攻防の末に位置が入れ替わり、【塔】の背後にキッチンがあった。そしてキッチンに置かれていた飲料水の入ったペットボトルを素早く手に取り、キャップを外した。
何をしているのかはわからないが、このまま好きにさせるわけにはいかないと思い、飛びかかる。だがこの場合、近づいたのは失敗だった。【塔】は私の方へ向き直ると、ペットボトルを投げつけた。
ブォンッと音がして、水をダバダバと零して回転しながら、私の額へ向かって飛んでくる。咄嗟に手でキャッチしたのでぶつかりはしなかったが、柔らかいペットボトルはそれだけでぐしゃりと潰れて中の水が勢いよく噴き出た。
「あっ」
思わず声が出る。咄嗟だったので、潰さないように力加減ができなかった。結果、せっかく守った額へ水鉄砲のように水が発射された。全身がびしょびしょに濡れて、そこでようやく事の重大さに気づく。
「斧もビニールも、オメー自身も水で濡らせばヨォ……もう電気を阻むもんはなくなったってわけだよなぁ!」
【塔】の右手が、斧の柄を掴む。目には見えないが、内蔵していた電気を一気に放出しているようだ。
「──ぅぐっ」
今までとは比にならない激痛が走り呻き声が漏れる。ほんの数秒の出来事だったが、効果は絶大だった。奴の右手が離れると同時に、私は後ろへよろめく。斧を引きずっていたのでガリガリと音を立てながら二、三歩下がって膝をついた。息が荒くなり、全身が痙攣している。
斧を杖の代わりにして、何度か立ち上がろうとするけれど、その都度倒れ込む。床にできていた小さな水溜りから飛沫が上がる。その様子を見て、【塔】は勝利を確信したようだ。
「決着をつける時が来た! ってところかな……。もう動けないだろうがヨォ、無駄な抵抗やめて大人しく感電死するんだなァ———ッ!」
スタンガンが派手に火花を散らしながら、私に向けて振り下ろされる。傍から見れば絶体絶命の状況だろう。だが、人間勝ちを確信した瞬間が最も無防備になる。私は内心、ほくそ笑んでいた。
サッとスタンガンの一撃を躱す。
【塔】が信じられないというかのように、驚愕してこちらを見る。が、もう遅い。仰向けに寝た状態から奴の股間に蹴りを入れる。俗に言う金的だ。【塔】が痛みに苦悶している隙に起き上がって、今度は勢いよく人中に蹴りを入れる。
私の本気の蹴りを急所に食らったのだ。それだけで絶命してもおかしくないダメージを負っただろう。【塔】は絶命こそしていないものの、口と鼻から血が噴き出て、折れた歯が床に転がっていた。
「うご……け……?」
「死んだふりならぬ、痺れたふりだ……。仇になったな、その能力……!」
【塔】は納得がいかないといった様子で、何か言おうとしてくる。まぁ確かに、先程の電撃は強烈だった。麻痺どころか感電死するかと思うくらいに。
では何故無事に動けるのかというと、私は咄嗟に斧を床に付けたのだ。たったそれだけで、特別なことは何もしていない。しかし、いくら全身びしょ濡れといえど柄までも金属でできた斧の方が電気を通しやすい。そして多量の水をぶち撒けたお陰で、床に水溜りもできていた。斧は見事にアース線の役割を果たして、床へ電気を分散させてくれていたのだ。
それでも私の方に流れてきた電気はゼロではなかったし、正直上手くいくかもわからなかった。何らかの要因で失敗して、痺れて動けなくなれば確実に死んでいただろう。作戦勝ちというよりも、一か八かの賭けに勝ったような気分だ。
「ったく……。生きるか死ぬかの賭けってのは、勝てても良い気分にはならねぇなぁ。こんな戦いが、まだまだ続くのか」
斧に巻き付けたゴミ袋を取り、袋を裏返す。こうして濡れていない面を表にすれば、再び電気を断絶してくれるだろう。【塔】は諦めずにふらふらと千鳥足で向かってくるが、既に戦闘不能の状態なのか、私が何もしなくても勝手に攻撃を外し、何もない場所で躓いて転ぶ。しかしそれでも立ち上がってくる。その点は見上げた根性だ。
とっとと楽にしてやろう。
勝ちを確信しながらも油断せず、私は斧を振り下ろした。
あれは前兆だったのだろうか。目の前の、【塔】と名乗る男と戦うことになるという。それとも【塔】が私を追跡していた際に漏れ出た電気が静電気を引き起こしただけなのだろうか。
……どちらでも良いか。
今はとにかく、この状況を何とか好転させなければならない。
「小競り合いはもう散々だ! 食らわすぜ俺のサンダー!」
「やかましい!」
スタンガンによる攻撃を、私は蹴りで迎え討つ。先程のように靴底のゴム部分で攻撃すれば感電はしないだろう。実際、感電している人を助けるためには自分も感電してしまわないようにドロップキックするのが良いと聞く。問題は、いくら私が喧嘩慣れしているとはいえ蹴りだけでどうにかなる相手ではないということだ。
案の定、【塔】の攻撃を蹴りで防ぐか、躱すことしかできなくて、防戦一方の状態だ。このままでは押し切られる。そう判断した私は、勢いよく後ろへ飛び跳ねてドアの前に着地する。テーザー銃の電極が当たって小さな傷ができた、木製の大きなドアだ。
すかさず詰め寄り攻撃してこようとした【塔】だが、寸前でよろけた。私が最初に食らわした打撃のダメージは、なくなったわけではないらしい。良いことだ。これ幸いと、私はドアノブを捻り奥の部屋へと逃げ込む。どのような部屋なのかは知る由もないが、このまま廊下で戦っても不利なだけだ。
急いでドアを閉めて押さえて、ざっと室内を見渡してみる。広々としていて、テーブルやソファ、お洒落な飾り棚があり、奥にはキッチンが見える。どうやらキッチンが同じ部屋にあるタイプのリビングルームのようだ。
【塔】はドアを開こうとして、私がドアを押さえていることに気付いたようだ。体当たりでもしたのかダンッと大きな音が立ち、大きな衝撃を感じた。
何か武器になりそうなものはないかと部屋を物色していると、突然右手に激痛が走る。
「痛だっ!?」
思わず飛び退く。あの野郎、どうやらドアノブに電気を流したようだ。偶然にもドアノブに触れていた右手が火傷したようにヒリヒリする。そして、この隙を狙って【塔】が部屋に入ってきた。
「逃がさねぇヨ、死ね」
「死ぬかバーカ、食らえ!」
飛び退いた先にあった、ダイニングテーブルの脚をがっしりと掴んで持ち上げる。相当重かったが、今はその重さが頼もしい。これが直撃すればかなりの破壊力を生むだろう。こうして遠距離から物を投げれば、少なくとも電気による反撃は食らわない。陳腐な作戦だけれど無策よりマシだ。
「……おいおいマジかヨォ!?」
ドガシャァ———ァァァンッ!!!
けたたましい音を立てて、放り投げられたダイニングテーブルが落下する。【塔】はギリギリで躱したようだが、衝撃で倒れた飾り棚にぶつかって転倒した。近づいて斧を振り下ろしたい衝動に駆られるが、斧が通電して一緒にお陀仏なんて展開にも成りかねない。今はぐっと我慢しよう。
近くにあった椅子を適当に投げつけながら、私はキッチンへと移動する。ここならある筈だ──『包丁』という、主婦の皆様御用達の刃物が。
早速シンク下の収納棚の扉を開く。ここで何本か包丁を手に入れて投げナイフの代わりにでもすれば、遠くからでも有効な攻撃ができる──なんて、考えていた。
「……何だこりゃ」
お玉しかなかった。何で?
(いやいやいや何でだよ。普通シンク下の扉の裏とかに包丁差しとかあるだろ! デスゲームなんだから刃物くらい用意しとけよ運営……!)
そりゃ、ここはあくまで屋敷の中を再現しただけのデスゲーム会場なのだから、屋敷としての、人が住む間としての実用性は度外視してあるのだろう。だからキッチンに調味料がなくても、リビングなのにテレビがなくても文句は言うまい。だがデスゲーム会場のくせして刃物があってしかるべき場所に何もないとはどういう了見だ。
(ちっ……刃物がダメなら何か他に、使えるものはないか……?)
キッチンを見回すが、ちゃちな食器や飲料水の入ったペットボトルくらいしか見つからない。もっとじっくりと探せば何か見つかるかもしれないが、そんな余裕はない。既に【塔】は起き上がってこちらへ向かって来ている。とにかく、物を投げつけて牽制しようと適当にゴミ箱を掴んだ。
(ん? 待てよ……ゴミ箱?)
キッチンにゴミ箱があること自体は自然なことだ。なので私が気になったことは別のこと……注目すべきなのは、箱にセットされているゴミ袋の方だ。私の記憶が正しければビニールの袋は絶縁体──電気を通さない。
私は急いでゴミ袋を取り外す。当然何も捨てられていないのでスムーズに取り外せた。そして斧の柄にぐるぐると巻き付ける。
「……チッ……面倒臭え」
その様子を見ていた【塔】が忌々しそうな顔をする。私の作戦に気付いたようだ。とはいえ、私はゴミ袋越しに斧を握って戦わなくてはならないし、触れただけで感電するのは相変わらずなので先程のように圧倒することは難しい。
結果、両者互角の戦いが続いた。
戦闘の場が廊下からリビングルームへ移るに連れて、動きは激しさを増してくる。【塔】がソファや棚を踏み台にして、斧による攻撃をアクロバティックに躱し続ける。隙を見てスタンガンで殴りかかってくるが、私はそれを斧で的確に防御する。本来なら、斧の弱点である隙の大きさを体術でカバーできたのだが、奴の帯電体質がそれをさせない。このまま攻めあぐねるのかと思っていたが、転機は唐突に訪れた。悪い方向に。
一旦お互いに距離を取って睨み合っていると、【塔】が何か思いついたようにして後ろを見る。激しい攻防の末に位置が入れ替わり、【塔】の背後にキッチンがあった。そしてキッチンに置かれていた飲料水の入ったペットボトルを素早く手に取り、キャップを外した。
何をしているのかはわからないが、このまま好きにさせるわけにはいかないと思い、飛びかかる。だがこの場合、近づいたのは失敗だった。【塔】は私の方へ向き直ると、ペットボトルを投げつけた。
ブォンッと音がして、水をダバダバと零して回転しながら、私の額へ向かって飛んでくる。咄嗟に手でキャッチしたのでぶつかりはしなかったが、柔らかいペットボトルはそれだけでぐしゃりと潰れて中の水が勢いよく噴き出た。
「あっ」
思わず声が出る。咄嗟だったので、潰さないように力加減ができなかった。結果、せっかく守った額へ水鉄砲のように水が発射された。全身がびしょびしょに濡れて、そこでようやく事の重大さに気づく。
「斧もビニールも、オメー自身も水で濡らせばヨォ……もう電気を阻むもんはなくなったってわけだよなぁ!」
【塔】の右手が、斧の柄を掴む。目には見えないが、内蔵していた電気を一気に放出しているようだ。
「──ぅぐっ」
今までとは比にならない激痛が走り呻き声が漏れる。ほんの数秒の出来事だったが、効果は絶大だった。奴の右手が離れると同時に、私は後ろへよろめく。斧を引きずっていたのでガリガリと音を立てながら二、三歩下がって膝をついた。息が荒くなり、全身が痙攣している。
斧を杖の代わりにして、何度か立ち上がろうとするけれど、その都度倒れ込む。床にできていた小さな水溜りから飛沫が上がる。その様子を見て、【塔】は勝利を確信したようだ。
「決着をつける時が来た! ってところかな……。もう動けないだろうがヨォ、無駄な抵抗やめて大人しく感電死するんだなァ———ッ!」
スタンガンが派手に火花を散らしながら、私に向けて振り下ろされる。傍から見れば絶体絶命の状況だろう。だが、人間勝ちを確信した瞬間が最も無防備になる。私は内心、ほくそ笑んでいた。
サッとスタンガンの一撃を躱す。
【塔】が信じられないというかのように、驚愕してこちらを見る。が、もう遅い。仰向けに寝た状態から奴の股間に蹴りを入れる。俗に言う金的だ。【塔】が痛みに苦悶している隙に起き上がって、今度は勢いよく人中に蹴りを入れる。
私の本気の蹴りを急所に食らったのだ。それだけで絶命してもおかしくないダメージを負っただろう。【塔】は絶命こそしていないものの、口と鼻から血が噴き出て、折れた歯が床に転がっていた。
「うご……け……?」
「死んだふりならぬ、痺れたふりだ……。仇になったな、その能力……!」
【塔】は納得がいかないといった様子で、何か言おうとしてくる。まぁ確かに、先程の電撃は強烈だった。麻痺どころか感電死するかと思うくらいに。
では何故無事に動けるのかというと、私は咄嗟に斧を床に付けたのだ。たったそれだけで、特別なことは何もしていない。しかし、いくら全身びしょ濡れといえど柄までも金属でできた斧の方が電気を通しやすい。そして多量の水をぶち撒けたお陰で、床に水溜りもできていた。斧は見事にアース線の役割を果たして、床へ電気を分散させてくれていたのだ。
それでも私の方に流れてきた電気はゼロではなかったし、正直上手くいくかもわからなかった。何らかの要因で失敗して、痺れて動けなくなれば確実に死んでいただろう。作戦勝ちというよりも、一か八かの賭けに勝ったような気分だ。
「ったく……。生きるか死ぬかの賭けってのは、勝てても良い気分にはならねぇなぁ。こんな戦いが、まだまだ続くのか」
斧に巻き付けたゴミ袋を取り、袋を裏返す。こうして濡れていない面を表にすれば、再び電気を断絶してくれるだろう。【塔】は諦めずにふらふらと千鳥足で向かってくるが、既に戦闘不能の状態なのか、私が何もしなくても勝手に攻撃を外し、何もない場所で躓いて転ぶ。しかしそれでも立ち上がってくる。その点は見上げた根性だ。
とっとと楽にしてやろう。
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