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2.最後の審判 ②
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「殺したいから殺した……そのセリフが聞けて良かったです」
「あん?」
「殺人は、純然たる殺意を以て行わなくてはなりません」
いきなり怖いことを言い出した。
今の言いぶりだと、まるで実際に誰かを殺したように感じてしまう。私の曖昧な返答を気に入ってくれたのは良かったことだが。
「そろそろ僕のことも話しましょうか」
「ああ……そういや、互いのことを話し合うって言ってたっけ。とっとと済ませてくれ」
「わ~……完全に飽きてますね。僕も長く話し過ぎたと思いますし、僕のことは手短に、端的に話しますね」
話し合いには飽きていたが、柔和な笑顔を浮かべるユニスの正体は依然として不明なままだ。その点は興味がある。学生に思えるほど若い見た目をしているユニスが、監獄に何の用だろうか。思えば、性別すらわかっていない。
多分、『僕』って言ってるし男……いや、ボクっ娘の可能性も?
「そんなにジロジロ見なくても話しますよ」
「ん? あ、いやー」
「この監獄を含め警察組織や軍を牛耳り、大企業に政府高官までをも支配した、とある秘密組織のトップ──それが、僕でして」
「んぁ?」
思わず変な声が出た。
気にせずユニスは続ける。
「それでいて、あなたと同じく殺人鬼であります!」
その一言を聞いて、私の感じていた退屈が困惑に変わった。
殺人鬼とは何か。
知っての通り、何人もの人を殺した悪人のことを鬼に例えた呼び名である。だけど優しげな雰囲気を醸し出すユニスが人殺しなんて、想像ができない。いや、それ以前にも驚くことを言っていた。秘密組織のトップ? 何だそれ?
ユニスが平凡な一般家庭の子だとしても、それならそれで『何でこんなとこにいるんだ』という意味で驚くが、それにしたって秘密組織のトップはやり過ぎである。まるで小学生が考えたような設定で、非現実的だ。
「何か、僕について質問とかありますか?」
そう聞かれて、はっとする。
呆気にとられている場合ではない。
「待て待て待て待て……秘密組織? 支配? 何言ってんだお前。挙げ句の果てに殺人鬼だと……?」
「ようやく飄々とした態度を崩せましたね。ナイスリアクションです」
「何なんだよそりゃ……。今言ったこと、証明……とか? できんのかよ……」
例えユニスが嘘をついていようと私には関係ない話だろうし、学のない私には嘘を見破る知恵もないのだが、聞かずにはいられなかった。
いや、本来ならこんな突拍子なことを言われれば『嘘つけ』と軽く返すだけだっただろう。だが、監獄の中へ入り死刑囚にこんな与太話をしている異常さが、話の信憑性を増していた。
「証明と言われると難しいですね。しかし神に誓って嘘は申していませんよ。『組織』に関する情報は言えませんが、世界中の社会と経済を陰から支配しています。そしてもう1つの面はこれからわかりますよ。僕の、殺人鬼の一面は」
「殺人って……おい? まさか今の話が、本題とやらに関わってくるのか?」
「察しが良いですね! 言ってしまえば、本題というのは、僕がこれから行う『ゲーム』についてなんですよ」
「……はぁ?」
ゲーム?
唐突に話がズレた。さっきから困惑しまくりだ。もういちいち突っ込むのも馬鹿らしくなった私は、黙って続きを聞くことにした。
だが次に語られるユニスの台詞は、単純でわかりやすくて、突っ込む余地もなかった。
「総勢『21名』もの殺人鬼を、この監獄の巨大な地下施設に集結させ! たった1人の生存者を決めるべく殺し合う! そんなデスゲーム──名付けて、『秘密の聖戦』を行おうと思うのです!」
「デス……ゲーム……?」
「喜んで下さいレザリックさん。死刑になって、ただ死ぬだけだったあなたも、このゲームに勝てば生き残れますよ!」
そう言って笑うユニスの目を見て、狂気の沙汰という言葉が真っ先に頭に浮かんだ。死刑を前にして全然緊張していなかった私も、怒涛の急展開に冷や汗が流れる。
「殺人鬼ってのは、そういうことか……? 今回が初めてってわけじゃなく、何回もこんなことを……」
「ええ、人狼ゲームや脱出ゲームなどに、死刑を兼ねる意で命を賭けさせて囚人を何人か参加させるのが趣味でして。デスゲームクリエイターとでもいうやつですかね。今回のゲームは、空前の大規模なバトルロワイヤルってことでワクワクしています♪」
『ワクワクしています』じゃねぇよ。
思わずそう言いかけた。危ない危ない、闇の大組織の長に失敬な発言をするべきではないだろう。死刑だけに。
しかし、納得はともかく、理解はできた。ユニスの言うことを全て鵜呑みにして信じれば、確かにこれはチャンスだった。
だが問題は──……
(21名? 私以外の、殺人鬼の死刑囚も同じ話を持ちかけられたってわけか!)
監獄に一年以上はいたが、私は他の囚人について全然知らない。一体どんなやつと殺し合うことになるのかはわからないが、事と次第によっては普通に死刑になる方がマシなのかもしれない。
断ってしまおうか?
「いや……拒否権なんてないか」
「あれ? 断りたいんですか?」
「どうだろう……。生き残る可能性があるなら挑戦するべきだとも思うし、このまま死刑になる方が良いんじゃないかとも思う」
「死刑は嫌じゃなかったんですか?」
「でもそれだけのことをしたと思うし、死ぬ覚悟だってできていた。だってのに、いきなりデスゲームなんて言われても困るよ」
思い悩むことに縁のない私だが、流石に即断即決とはいかなかった。拒否権はないだろうし参戦することにはなるのだろうが、それでも自分の中でスタンスを決めておくことは大切だ。
「そうですか。思い悩んでいるところすみませんが、ゲーム──『聖戦』のルールをある程度、説明させていただきます」
(……「聖」だなんて、似つかわしくないな)
「ステージはこの監獄に隠された地下施設『インフェルノ』の、最下層である地下6階から1階まで。立ち回りに関するルール指定は特になく、誰とも戦わず最後の1人になるまで逃げるのもありです。しかし、厄介な制約がない代わりに、聖戦の進行状況などを考慮して追加ルールが発生する場合があります」
「追加って……そっちの気分次第じゃ何でもありじゃねぇか」
「あくまで聖戦の進行状況が悪かった場合に、一部フロアを封鎖したり戦わざるを得ない状況にしたりするだけですので。ゲームでは基本的に『インフェルノ』の『上』を目指すことを勧めます。他の参戦者も上階を目指すように指示していますので自然とエンカウント率が高くなりますし、追加ルールでフロアを閉鎖するにしても下からですので。そして20名の参戦者が死に、優勝した1人の方は死刑を免除し、この監獄で悠々自適な生活を送る権利を得ることができます! 今までの監獄生活とは違って望むものは大抵手に入りますし、収容場所は広々としていて、スポーツやゲームも、ネットだってできちゃいます」
ここまでルールを聞いて最初に、ルールが形骸化しているといっても過言ではないほど自由だと思った。漫画や小説でデスゲームに巻き込まれてバトルロワイヤルが始まるとなれば、爆発する首輪やら制限時間やら、殺し合わせるための仕様がある筈だ。なのに、あるのは追加ルールという名の保険くらいだ。無理に追い込まなくたって、確実に殺し合いになるだろうと予期しているのだろう。
監獄に入れられようが、どうせ更生なんてしてないだろ?──そんなセリフが聞こえてくるようだ。
「あん?」
「殺人は、純然たる殺意を以て行わなくてはなりません」
いきなり怖いことを言い出した。
今の言いぶりだと、まるで実際に誰かを殺したように感じてしまう。私の曖昧な返答を気に入ってくれたのは良かったことだが。
「そろそろ僕のことも話しましょうか」
「ああ……そういや、互いのことを話し合うって言ってたっけ。とっとと済ませてくれ」
「わ~……完全に飽きてますね。僕も長く話し過ぎたと思いますし、僕のことは手短に、端的に話しますね」
話し合いには飽きていたが、柔和な笑顔を浮かべるユニスの正体は依然として不明なままだ。その点は興味がある。学生に思えるほど若い見た目をしているユニスが、監獄に何の用だろうか。思えば、性別すらわかっていない。
多分、『僕』って言ってるし男……いや、ボクっ娘の可能性も?
「そんなにジロジロ見なくても話しますよ」
「ん? あ、いやー」
「この監獄を含め警察組織や軍を牛耳り、大企業に政府高官までをも支配した、とある秘密組織のトップ──それが、僕でして」
「んぁ?」
思わず変な声が出た。
気にせずユニスは続ける。
「それでいて、あなたと同じく殺人鬼であります!」
その一言を聞いて、私の感じていた退屈が困惑に変わった。
殺人鬼とは何か。
知っての通り、何人もの人を殺した悪人のことを鬼に例えた呼び名である。だけど優しげな雰囲気を醸し出すユニスが人殺しなんて、想像ができない。いや、それ以前にも驚くことを言っていた。秘密組織のトップ? 何だそれ?
ユニスが平凡な一般家庭の子だとしても、それならそれで『何でこんなとこにいるんだ』という意味で驚くが、それにしたって秘密組織のトップはやり過ぎである。まるで小学生が考えたような設定で、非現実的だ。
「何か、僕について質問とかありますか?」
そう聞かれて、はっとする。
呆気にとられている場合ではない。
「待て待て待て待て……秘密組織? 支配? 何言ってんだお前。挙げ句の果てに殺人鬼だと……?」
「ようやく飄々とした態度を崩せましたね。ナイスリアクションです」
「何なんだよそりゃ……。今言ったこと、証明……とか? できんのかよ……」
例えユニスが嘘をついていようと私には関係ない話だろうし、学のない私には嘘を見破る知恵もないのだが、聞かずにはいられなかった。
いや、本来ならこんな突拍子なことを言われれば『嘘つけ』と軽く返すだけだっただろう。だが、監獄の中へ入り死刑囚にこんな与太話をしている異常さが、話の信憑性を増していた。
「証明と言われると難しいですね。しかし神に誓って嘘は申していませんよ。『組織』に関する情報は言えませんが、世界中の社会と経済を陰から支配しています。そしてもう1つの面はこれからわかりますよ。僕の、殺人鬼の一面は」
「殺人って……おい? まさか今の話が、本題とやらに関わってくるのか?」
「察しが良いですね! 言ってしまえば、本題というのは、僕がこれから行う『ゲーム』についてなんですよ」
「……はぁ?」
ゲーム?
唐突に話がズレた。さっきから困惑しまくりだ。もういちいち突っ込むのも馬鹿らしくなった私は、黙って続きを聞くことにした。
だが次に語られるユニスの台詞は、単純でわかりやすくて、突っ込む余地もなかった。
「総勢『21名』もの殺人鬼を、この監獄の巨大な地下施設に集結させ! たった1人の生存者を決めるべく殺し合う! そんなデスゲーム──名付けて、『秘密の聖戦』を行おうと思うのです!」
「デス……ゲーム……?」
「喜んで下さいレザリックさん。死刑になって、ただ死ぬだけだったあなたも、このゲームに勝てば生き残れますよ!」
そう言って笑うユニスの目を見て、狂気の沙汰という言葉が真っ先に頭に浮かんだ。死刑を前にして全然緊張していなかった私も、怒涛の急展開に冷や汗が流れる。
「殺人鬼ってのは、そういうことか……? 今回が初めてってわけじゃなく、何回もこんなことを……」
「ええ、人狼ゲームや脱出ゲームなどに、死刑を兼ねる意で命を賭けさせて囚人を何人か参加させるのが趣味でして。デスゲームクリエイターとでもいうやつですかね。今回のゲームは、空前の大規模なバトルロワイヤルってことでワクワクしています♪」
『ワクワクしています』じゃねぇよ。
思わずそう言いかけた。危ない危ない、闇の大組織の長に失敬な発言をするべきではないだろう。死刑だけに。
しかし、納得はともかく、理解はできた。ユニスの言うことを全て鵜呑みにして信じれば、確かにこれはチャンスだった。
だが問題は──……
(21名? 私以外の、殺人鬼の死刑囚も同じ話を持ちかけられたってわけか!)
監獄に一年以上はいたが、私は他の囚人について全然知らない。一体どんなやつと殺し合うことになるのかはわからないが、事と次第によっては普通に死刑になる方がマシなのかもしれない。
断ってしまおうか?
「いや……拒否権なんてないか」
「あれ? 断りたいんですか?」
「どうだろう……。生き残る可能性があるなら挑戦するべきだとも思うし、このまま死刑になる方が良いんじゃないかとも思う」
「死刑は嫌じゃなかったんですか?」
「でもそれだけのことをしたと思うし、死ぬ覚悟だってできていた。だってのに、いきなりデスゲームなんて言われても困るよ」
思い悩むことに縁のない私だが、流石に即断即決とはいかなかった。拒否権はないだろうし参戦することにはなるのだろうが、それでも自分の中でスタンスを決めておくことは大切だ。
「そうですか。思い悩んでいるところすみませんが、ゲーム──『聖戦』のルールをある程度、説明させていただきます」
(……「聖」だなんて、似つかわしくないな)
「ステージはこの監獄に隠された地下施設『インフェルノ』の、最下層である地下6階から1階まで。立ち回りに関するルール指定は特になく、誰とも戦わず最後の1人になるまで逃げるのもありです。しかし、厄介な制約がない代わりに、聖戦の進行状況などを考慮して追加ルールが発生する場合があります」
「追加って……そっちの気分次第じゃ何でもありじゃねぇか」
「あくまで聖戦の進行状況が悪かった場合に、一部フロアを封鎖したり戦わざるを得ない状況にしたりするだけですので。ゲームでは基本的に『インフェルノ』の『上』を目指すことを勧めます。他の参戦者も上階を目指すように指示していますので自然とエンカウント率が高くなりますし、追加ルールでフロアを閉鎖するにしても下からですので。そして20名の参戦者が死に、優勝した1人の方は死刑を免除し、この監獄で悠々自適な生活を送る権利を得ることができます! 今までの監獄生活とは違って望むものは大抵手に入りますし、収容場所は広々としていて、スポーツやゲームも、ネットだってできちゃいます」
ここまでルールを聞いて最初に、ルールが形骸化しているといっても過言ではないほど自由だと思った。漫画や小説でデスゲームに巻き込まれてバトルロワイヤルが始まるとなれば、爆発する首輪やら制限時間やら、殺し合わせるための仕様がある筈だ。なのに、あるのは追加ルールという名の保険くらいだ。無理に追い込まなくたって、確実に殺し合いになるだろうと予期しているのだろう。
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