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菫川ヒイロ

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コインランドリー

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 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
 回る回る回る回る回る回る回る
 
 
 ドンガラガッシャン! と大きな音を立てているのに流石に心配になって
 洗濯機の中を覗いてみたけど問題は無いようだった。
 だから僕は再びコインランドリーの中に置いてあった誰かの忘れ物であろう雑誌
 をピラピラとめくった。
 
 
 特に面白そうな記事がある訳でもなく、心躍るようなグラビアがある訳でもない
 その雑誌のメインは結局広告なのだろうが、生憎俺の琴線に触れるような品物は
 掲載されてはいなかった。
 
 
 ピーピーと洗濯の終わりを教えてもらったので俺は蓋を開けて中の洗濯物を取り
 出す。そしてまたピーピーと隣の洗濯機から音がしたので俺は仕方なく蓋を開け
 るのだ。
 
 
「いつも悪いね」


 別にお礼を言って欲しくて開けた訳ではないからそんな事はどうでもいいのだが
 洗濯機の中から出て来た男は海水パンツにシャンプーハットというスタイルで
 床をびちゃびちゃにしていた。
 
 
 正直開けないでおこうかと何度か考えた事はある。
 そうすれば関わらないで済むのだからそれが一番いい方法なのだろうけど、
 もし誰も開けなければこの人は一体どうやってここから出るのだろうか?
 という疑問とそして何よりも備え付けの防犯カメラが俺を動かすのだ。
 
 
 犯罪者にはなりたくはない。
 
 
 俺が蓋を開ける理由の第一位がそれである。
 この人に何かあった場合に俺が開けなかったという証拠が確実に録画されている
 のだ。こんな事で犯罪者の烙印を押されるのは嫌だった。
 だから俺は蓋だけを開けて、後はまったく会話はしない。
 
 
 極力関わらない事が正解だと思っているからだ。
 別に仲良くしないといけない理由なんてないのだからそれでいい。
 都会ってそういう所だと教わった。
 
 
 俺は自分の洗濯物を手早くカバンにつめてコインランドリーを出た。
 外は生ぬるい風が吹いていて肌にまとわりつくその感覚が如何にもだ。
 これが都会なのだと自分に言い聞かせながら家までの道のりを歩く。
 自転車よりもまずは洗濯機を買おうと決めたその日は満月だった。
 
 
 






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