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 初めて会った時、君は怪我をしていたね。
 それに君はとても怯えていた。
 伸ばした私の手を振り払った事は今でも覚えているよ。
 
 
 それでも私は君を助けたかったから構わず怪我の手当てをした。
 君は最初、とても嫌がっていたけどやがて私を受け入れてくれたね。
 それが私にはとても嬉しかったよ。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
「めでたい事だ。家から選ばれるものが出るとは……本当にめでたい事だ」


 父はそう口にするが、顔はまったく笑っていなかった。
 母は弟を抱きしめながら何も言葉を発しなかった。
 ばあちゃんは何やら料理を作ってくれていて、じいちゃんは集会からまだ戻って
 来てはいなかった。
 
 
 『私はきっと悪い子なのだろうな』
 
 
 そんな事をふと考えてしまって、だから私は言う。
 
 
「いや~、私ってやっぱり選ばれる運命なんだね。さすが私だね! 」


 そんな言葉に誰も何も言ってはくれなかった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 じいちゃんが帰って来てから食事が始まり、今日はいつもよりも豪華な食事で
 私はモリモリ食べた。
 
 
「おお、美味いな! こんなに豪華なのはいつぶりだろうな、うれしいな! 」


「そうか、よかったな! ほら、俺の分も食べていいぞ! 」


 父が私の皿に自分の分を分けてくれた。
 
 
「うほ~、いいの? じゃあ食べるよ! おいしいな! 楽しいな! 」


「ほうか、ほうか」


 ばあちゃんが相槌をうってくれ、じいちゃんはいつも通り何も言わずにいる。
 母は相変わらず弟を抱きしめたままだった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 ぶるっと私は身震いをした。
 身を清める為に水浴びをした為だが、流石にまだ水は冷たい。
 そして綺麗な布を纏った。
 
 
 私は担がれて山を登って行く中ずっと空を見ていた。
 何処までも高い空を見ながら思う。
 
 
 『私も飛べればいいのにな』
 
 
 そして私は祭壇に祀られた。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 ビュンビュンと風を切る音がした。
 そして空から降りて来たそれは大きな音を響かせる。
 
 
「ぐぎゅうお~~~」


 私はずっと目を瞑っていた。
 でも何も起こる気配がまったくない。
 だから少しだけ目を開けて見た。
 
 
 そこにはとても大きなドラゴンが居た。
 
 
「ぐわ、ぐわう、ぐわ、ぐわう」


 ドラゴンが啼いた。
 その声に私は思い出した。
 あの時、助けたドラゴンだと。
 
 
 なんという運命だろうと思う。
 あの時、助けたドラゴンにまた会えた。
 そして私は……
 
 
「いいよ。君になら私は」


 私の言葉が分かったのだろうか?
 ドラゴンは大きな声を上げた。
 
 






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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
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菫川ヒイロ
2021.08.20 菫川ヒイロ

ありがとうございます。

解除

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