だから僕は、

１

　その日も考えていたんだ、婚約者のエミーゴの事を。
　僕の頭の中は彼女の事で一杯だった。
　寝ても覚めてもエミーゴ、エミーゴ、エミーゴ。
　
　
　いつも待ち合わせに遅れて来るエミーゴ
　ついに、この前は待ち合わせ場所にすら現れず、何かあったのではと心配して
　家まで行ってみれば「忘れてた」と一言だけ言ってドアを閉められた。
　
　
　僕が話しかけるとまず舌打ちするエミーゴ
　返事が舌打ちだけの時や、唾を吐いたりもするし、最近ではそれすらも面倒
　なのか、ただ睨みつけてくるという事が多く、彼女の心を読むのも一苦労だ。
　
　
　だからお店で注文する時は大変だ。
　エミーゴが欲している物以外を注文しようものなら、脛を蹴られてしまう。
　そうならない為には彼女の動向をつねにチェックしておかないといけないのだ。
　
　
　毎日のようにエミーゴの事を書き綴ったノートはもう50冊を超えた。
　彼女の行動パターンや仕草、目線、服装に天気まで、あれこれと書き出したら
　止まらなくなってしまった結果なのだが……
　
　
　そのノートを見返していて思ったんだ。
　「どうして僕はこんな事をしているんだろう？　」って。
　そう思ってしまったら、今までの全てがまったくもって意味が分からない！
　
　
　どうして僕がここまでしてあげないといけないんだ！
　どうして僕がこんなに我慢しないといけないんだ！
　一体何の意味があったというのだろう、もう限界だ！
　
　
　こうなってしまっては止める事なんて出来ないこの感情。
　歯をギリギリさせながら、感情が高ぶって手は震えている。
　だから僕は決めたんだ、婚約破棄しようって。
　
　
　僕はすぐに行動に移した。
　夜更けに彼女の家へと行くドアを叩く。
　何事かと出て来たメイドにエミーゴを呼んでくるように命令した！
　
　
「チッ」


　出て来たエミーゴは目をこすりながら僕の顔を見るとすぐに舌打ちした。
　なんて失礼な奴なんだ！　良かったよ、いつも通りの君で。
　これなら何の罪悪感もなく言える。
　
　
「エミーゴ！　も、もう我慢の限界だ！　君とは婚約破棄させてもらよ！　」


　声が裏返りはしたが、言ってやった、言ってやったぞ！
　これで僕はもう自由なんだ！　全ての事から解き放たれたこの気持ち良さは
　最高だった。
　
　
「遅えんだよ！　どれだけ待たせんだよ、このクズが！　こっちはお前がさっさと
　婚約破棄しねえからイライラしてたんだ！　お前、そうとうイカれるぞ？
　まあいい、これでやっと私も自由だ。ご苦労さん。二度と私の前に顔出すんじゃ
　ねえぞ！　」
　
　
　バタン！　と勢いよくドアが閉められ、僕は呆然としていた。
　ほんの少し前まで最高の気分だったのに、今は最悪な気分だ。
　もう女なんて嫌いだ！
　
　
　だから僕はロバートと一緒に暮らしている。