恋愛倉庫

菫川ヒイロ

文字の大きさ
上 下
317 / 425
ハッピーバースデイ

しおりを挟む




 身だしなみを整えて、家を出た。
 もちろん時間に余裕はあるし、食パンなんかを齧りながらしゃべったりはしない。
 曲がり角は十分に注意をはらって通るから見も知らぬ男子とぶつかったりなんて
 事もない。そうやって私は今日も無事に学園へ到着した。
 
 
 ガラガラガラ
 
 
 教室のドアを開ければ誰も居ないのでは? と思うくらいの静寂の中で少女が
 一人佇んでいた。窓から外を眺めているその姿はまるで幽霊の様。
 きっと枯れ尾花ってこういう感じなんじゃないのかなって思ったので声を掛けた
 のだ、本当に幽霊になられても困るし。
 
 
「おはよう! 今日も早いね」


「おはよう杉原さん。そしてようこそ、私達の世界へ」


 そう言って私を迎えてくれた長野さんは婚約破棄連盟の会長だった。
 連盟に参加する為にはもちろん婚約破棄をされなければならいのだが、
 どうやらもう私が婚約破棄をされた事はとっくに知れ渡っているらしい。
 婚約破棄連盟って恐ろしい。
 
 
 そして私の机の上には既に連盟に参加する為の誓約書が一枚。
 
 
「長野さん。私はこういうのはいいかな? 」


「どうして? 」


 私が言い終わるより早く顔を近づけて来た長野さんに私は息を止めた。
 
 
「貴女は名誉ある婚約破棄連盟に参加する事が出来るのよ? 
 それを断るというの? 会員になればいろんな特典も受けられるわよ?
 食堂のプリンがタダにもなるのよ? 貴女、プリン好きでしょ? 」
 
 
 確かにプリンは好きだった。
 食堂のプリンが美味しい事も知っているし、争奪戦になる事もしっている。
 まあその原因が連盟の人達の所為だという事も知っている。
 そして限界だった。
 
 
 はぁ~~~~
 
 
 息を止めるのはそんなに得意ではない。
 それも準備も無しに止めたら限界なんてすぐにやって来る。
 そして吐き出された私の息は彼女の顔にダイレクトにかかる。
 もちろん夜中に食べたニンニク醤油ラーメンの香りがである。
 
 
 その時私は初めて目を見開いた彼女の顔を見た。
 いつも伏し目がちな彼女が意外と目が大きい事を私はその時初めて知り、
 そして彼女が訛っているという事を知った。
 
 
「なして!!! 」


 
 
 *****
 
 
 
 
 私は彼女が訛っている事を黙っている代わりに、婚約破棄連盟に入らずに済んだ。
 それはまあよかったと言っていいだろう。でも周りの人からは当然のように
 疑問が沸く。どうやってそんな事が出来たのだろう? でもその理由を教える
 事は出来ないのだ。
 
 
「ええと、今日は14日だから……杉原。答えてみろ」


 出席番号が今日の日にちと同じというだけで私へ答えを求める数学教師に
 納得出来ない私はつい声が出てしまった。
 
 
「なして! 」


 決してワザとではない。
 
 
 
 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で…… 10/1追記 ※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。 ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。 また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。 きんもくせい 11/9追記 何一つ完結しておらず中途半端だとのご指摘を頂きましたので、連載表記に戻させていただきます。 紛らわしいことをしてしまい申し訳ありませんでした。 今後も自分のペースではありますが更新を続けていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。 きんもくせい

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...