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四丁目の交差点の角のタバコ屋の二階に住んで居るレイチェル
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しおりを挟むまた始まったと思った。
俺はただ傍観していた、タバコ屋の店番をしながら事の成り行きを見守るのも
俺の仕事だったからである。
レイチェルはその容姿からは想像が出来ないくらいに口が悪い。
どうしてそんな事になってしまったのかはまあ足が動かないという事も影響して
いるのだろう。だから彼女は鳥籠の中の鳥のようにあそこから出る事は出来ない
のだ。そんな彼女が外との交流するにそれぐらいしかなかったからなんて理由
で納得できるかは人次第だろうけど。
「お前なあ、あんまりやり過ぎるとどうなるか分からないぞ? 」
彼女の部屋へ食事を持っていった俺は彼女に注意をする。
「何よ、バイトの癖に! よくそんな偉そうに言えたものね、この私に」
そして彼女はいつだってそう言って自分との立場の違いを強調するのだ。
俺はここで雇われているだけで、彼女はここの店主の孫である。
でもこれは俺の仕事に含まれているので、俺も言うのを止めない。
そもそもここら辺がそんなに治安がいい場所ではないから余計に言っておかない
といけないのだ。
「だいたい私はここで干からびて死ぬ運命なんだから、どうなったって平気よ」
そしていつもの捨てゼリフ。
彼女だってそのくらいは分かっているけど、それでも外に憧れてしまうのだろう。
でも彼女をここから連れ出してくれるような王子様はこんな所に立ち寄ったりは
しないのだ、残念ながら。
だからせいぜい俺程度の奴が一応居るという状況を作り上げるぐらいが店主の
悪あがきだった。正直俺一人で何が出来るなんて事はないのだが、居ないよりも
居た方がマシだという程度のお守りにすら劣るバイトだった。
いつものと常連の客が金と一緒にそういうから俺はいつものようにタバコを渡す。
「後、これ。祭りのチラシを張っておいてくれるか? 」
そう言って用事をさっさと済ませて行ってしまう常連の名前を俺は未だに知らな
が、それでもその常連に言われた通りにチラシを張ろうとして目に留まったのは
歌謡コンテストの文字。いつもあれだけ文句を言っているのだから、こう言うの
でストレスを発散させるのも悪くないだろうという安易な考えだった。
「おい、レイチェル。歌とかに興味はないか? 」
そう言って見せたチラシ。
興味無さげに見ながら彼女は言う。
「馬鹿ね、私がどうやって会場に行くっていうのよ。忘れたの? 私、足が動かな
いのよ? 」
「そんなもの、俺がどうにかする。出るか出ないかだけを言えよ」
俺の事を訝しげに見ながらも外への憧れは抑える事が出来ない彼女の選択は
「じゃあ、出る」
だった。だから俺も彼女をどうやって連れて行くのかを考える。
取り敢えずはコンテストにエントリーをしないといけないし、彼女が座る椅子を
確保しないといけない。なにやらいろいろとやる事があるけど、それでも彼女の
為ならとやる気が出せる俺はきっと彼女の事が好きなのだろう。
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