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されど初恋
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しおりを挟むすっかり寒くなり人肌が恋しくなるような季節でも私には関係がなかった。
だって私には彼氏がいるし、別に寂しいとか孤独だとかそんな不安定な気持ちに
なんてなる事はもうない。朝起きて不意に涙が出るなんて事はもうないのだ。
正直、私は自分がこんなにも弱い人間だなんて知らなかった。
たかが恋、されど初恋。それがこんな形で終わってしまうなんて事を私には予想
するなんて事は到底無理で、だからこそ無防備すぎたのだろう。
あれは裏切りだった。
シーラからヨギと付き合う事になったと聞かされた時、私が一番に思ったのは
どうしてそんな事をしたのかだった。だって私には確かに彼の気持ちが分かって
いたからだ。だから彼がシーラを選んだ理由がまったく理解できなかった。
確かに彼女はとてもいい子だ。
幼い時からずっと一緒だったのだからそれぐらいの事は分かっているけど、でも
だからといって私ではなく彼女を選ぶという理由が分からない。だって私達の間
には確信めいたものがあったのだから。
あと少しだった。
彼が告白してくれたなら私は必ず首を縦に振ったし、その準備は出来ていた。
でもそうはならなかった。
何かがくずれたような、手からこぼれ落ちていったようなそんな感覚があった。
それはあまりにも残酷で私の心はめちゃくちゃになってしまった。
もう何も手につかない、全てがどうでもいいと思え自暴自棄になっていた私の前
に現れたのがアスラだった。不意に現れた彼に優しくされたら付き合う事になっ
ても何もおかしくはないだろう。
別にタイプではない。
顔も性格も何もかもが私が今まで忌避してきたような彼ではあったけれど、それ
でもよかった。ただ優しくしてくる人が欲しかっただけだ。別にそれでもいいで
はないか、何も悪い事なんかしてはいない。
私には彼が必要だった。
だから私も彼に必要とされれば差し出すのは当然の事で、別に後ろめたい気持ち
があったという訳ではないはずだ。ただ自分が少しだけ汚されたような気分にな
ったというだけなのだからそれぐらいは仕方がない。
そして私の世界は確実に変わって行った。
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