僕の彼女は勇者

菫川ヒイロ

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 聖職者は王子としての日々を送っていた。
 もう昔を懐かしむ事はない、勇者が無事だという事が分かった日から
 彼は全てを受け入れる事にした。
 
 
 あの状況の中で、少しは覚悟した。
 でも何とか死なせずに済んだ。
 
 
 『勇者を守る事が出来た』
 
 
 それが彼にとっての全てだったし、その事で満足してしまったのだ。
 勇者が生きていてくれるのなら何も望む事はない。
 真緒は聖職者の身内に手を出す事はなかったし、それならば何も心配はせずに
 結婚出来ると思った。
 
 
 チャペルの中を歩く。
 ゆっくりと一歩ずつ。
 練習した通りに歩く。
 隣には真緒がまっすぐ前だけを見ていた。
 
 
 神父の後ろから七色の光が射し込む。
 何となく、ただ何となくその煌めくステンドグラスを見ていた。
 だからすぐに気付く事が出来た、勇者が飛び込んで来るのが。
 
 
「君は私が守るって言ったでしょ? 」


 そう言って僕の手を取る勇者に僕は頷き、走り出す。
 僕には彼女が全てだった。
 
 
「どういうつもりかな? 私よりも弱い奴が、負け犬風情が、私の王子を何処へ
 連れて行くっていうの? 」
 
 
 真緒はすぐに追ってきたりしないのは簡単に追いつけると知っているから。
 自分が一番強いと知っている、強さは全てを肯定する。
 
 
「そのまま行け」


 戦士が走る二人に声をかけ、間に立ちはだかった。
 両手にはラッキーグローブを装着しているのが目の端に映る。
 そこには戦士としての覚悟があった。
 
 
 チャペルを出れば魔法使いが立っていた。
 
 
「受けた恩は必ず返すのが魔法使いだって知ってるか?
 準備は万端、全て予定通り、振り返るなよ! 
 嗚呼、それとありがとうな助けてくれて」
 
 
 魔法使いは指さす方へと僕達は走る。
 決して振り返ったりはしない。
 分かっている、もう会えない事は。
 良い仲間だった。
 過ごした日々は楽しかった。
 だからもう一度冒険に出たかった。
 
 
 
 
 轟音が鳴り響く中、僕達の冒険が始まった。
 
 
 
 
 
 
 




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