9 / 9
9
しおりを挟む聖職者は王子としての日々を送っていた。
もう昔を懐かしむ事はない、勇者が無事だという事が分かった日から
彼は全てを受け入れる事にした。
あの状況の中で、少しは覚悟した。
でも何とか死なせずに済んだ。
『勇者を守る事が出来た』
それが彼にとっての全てだったし、その事で満足してしまったのだ。
勇者が生きていてくれるのなら何も望む事はない。
真緒は聖職者の身内に手を出す事はなかったし、それならば何も心配はせずに
結婚出来ると思った。
チャペルの中を歩く。
ゆっくりと一歩ずつ。
練習した通りに歩く。
隣には真緒がまっすぐ前だけを見ていた。
神父の後ろから七色の光が射し込む。
何となく、ただ何となくその煌めくステンドグラスを見ていた。
だからすぐに気付く事が出来た、勇者が飛び込んで来るのが。
「君は私が守るって言ったでしょ? 」
そう言って僕の手を取る勇者に僕は頷き、走り出す。
僕には彼女が全てだった。
「どういうつもりかな? 私よりも弱い奴が、負け犬風情が、私の王子を何処へ
連れて行くっていうの? 」
真緒はすぐに追ってきたりしないのは簡単に追いつけると知っているから。
自分が一番強いと知っている、強さは全てを肯定する。
「そのまま行け」
戦士が走る二人に声をかけ、間に立ちはだかった。
両手にはラッキーグローブを装着しているのが目の端に映る。
そこには戦士としての覚悟があった。
チャペルを出れば魔法使いが立っていた。
「受けた恩は必ず返すのが魔法使いだって知ってるか?
準備は万端、全て予定通り、振り返るなよ!
嗚呼、それとありがとうな助けてくれて」
魔法使いは指さす方へと僕達は走る。
決して振り返ったりはしない。
分かっている、もう会えない事は。
良い仲間だった。
過ごした日々は楽しかった。
だからもう一度冒険に出たかった。
轟音が鳴り響く中、僕達の冒険が始まった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる