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そして天使がやってくる
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しおりを挟むどうしてこうなった? こんな奴が居るとか聞いていないぞ! 一体どうなって
いるんだ! ロミダカルドの奴め、まったく使えないじゃないか! どうするん
だよこれ! こんな状況じゃあもうどうする事も出来ないじゃないか!
悪魔大公クロヲは今、温泉に入っている。
何故なのか? ここは戦場ではなかったのか? どうして敵と一緒に温泉なんぞ
に入らなければならないのか? そんな疑問なんて何の意味もなかった。分かっ
ているのだ、圧倒的な力の差があるという事が。だから命令されてしまえば従わ
ないといけないのは道理である。
そもそも魔王軍に道理なんてものが通用するのか? なんて思うかもしれないが
意外とそういう所はちゃんとしているのだ。要はタテ社会、上下関係がはっきり
としている魔王軍では上の者に逆らうなんて事が許される訳がないのである。力
が全てを決める魔王軍の中でそれなりの地位で居ようともそれは身に染みついて
いるのでどうしようもない。
だからこの謎の男に入れと言われれば温泉に入らないといけないのだ。
どんなにそれが理不尽だと思う事であろうともそんな事は関係がない、上の言う
事は絶対であり、だからこそ誰もが頂点である魔王を目指すのである。もちろん
悪魔大公であるクロヲも魔王を目指していた。ただ今次はタイミングが悪かった
というだけで、決して悪くはなかったのだ。
今次の魔王とはたまたま相性が悪かったと言うだけのこと、本当ならば我が魔王
になっていてもおかしくはなかったと思ってはいるが、口に出した事はない。
そんな事を口にしてしまえばどうなるかなんてわかり切っていることをする程、
クロヲは馬鹿ではないのである。
だからこそこうして先陣を切って来たというのに、こんな事なら他の奴に任せて
おけばよかった。わざわざ下調べまでさせ満を持して来てみれば、こんな化け物
みたいな奴と遭遇してしまうなんて聞いていない。何という不運なのだろうか?
こんな事はどれぐらいの確率で起こるだろう、雷にあたって死ぬぐらいの確率か
それともママの浮気現場を目撃するぐらいの確率だろうか?
「あ~、結構いいお湯なんじゃね? 」
温泉につかりながらそんな事を言っている化け物はいつの間にか露天風呂を作っ
てしまった。言っている俺も意味が分からないが、実際に出来上がっているのだ
からそういうしかない。本当についさっきまでここは戦場だったのに、どういう
感覚をしていればこんなことを思いつくのだろうか? そもそも魔法体系があま
りにも異質すぎた。
「まあ、確かにね。悪くないわ~」
そして隣にいる奴は明らかに天使であろう。だって羽が生えているからね。まさ
か天使なんぞに出くわすなんて事は想像していなかったから認識するのが遅れて
しまったが、こんな所でウロチョロしていて欲しくはなかった。というか会いた
くはない相手であろう。
「おい、お前。 名前は何だったか……」
「く、クロヲです」
「そうだそうだ。そうだった。お前はずっとクロヲだったよな。雨の日も風の日も
晴れの日も暑い日も寒い日も、湿気の多い日も乾燥している日も、ちょうどいい
気候でついつい歌い出したくなるような日でもお前はいつもそうだったよ。何も
変わらずに頭の先からつま先までずっとクロヲできっと死ぬ時もお前はクロヲで
死ぬんだ。そういうものだ。嗚呼、そういうものだ。世界なんてそんなものでし
かないのだから何も気になどする必要はないのだよクロヲ君。だからそんな顔を
するんじゃあない。お前は今俺が何を言っているのかまったく理解していないの
だろうけど、これはきっとお前が大きくなった時に分かる事なのではないだろう
か? 」
「はあ、そうですか」
本当に意味が分からなかったのでそう返事をするしかなかったし、選択肢はそれ
しかなかったのだからそうするべきなのだ。ここで何も言わないのは違うという
事は確かだった。
「そんな訳あるか! 言ってる俺ですら何を言っているのか分からないのにどうし
てお前に分かるんだ! お前はエスパーか何かなのか! 」
どうやら選択肢を間違えてしまったようだが、じゃあ正解なんてものがあったと
いうのかといえば、そんなものは存在などしないのだ。久しぶりに味わう理不尽
に何とも言えぬ懐かしさを感じながら、これが嫌だったのだと思い出した。そし
てあの頃のように、目先の保身などを考える事など止めてただただ嫌いなこいつ
の事を殺す事に決めたのだ。
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