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勇者編
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しおりを挟む「マクベ、何処かに行くの? 」
別に弟と重ねている訳じゃないが、それでも気になる事は無くしておきたかった
から俺は自分で作った立体パズルを渡した。分かってしまえば簡単な仕掛けでは
あったがそれなりに楽しめるだろう。
「ちょっと魔王を倒してくる。何かあったらそれに願えば俺がどうにかしてやるよ」
そんな事さえ言ってしまう程の感情移入はあまりいいとは言えないけど、これは
ばかりは仕方がないのだ。最悪、自分でどうにか出来るようにさえすればいいと
いう結論だった。
そして俺は勇者パーティーとして旅立ったのだ。
*****
道中は何も心配な事などなかったが、ただ俺は知らなかったのだ。
この勇者とヒーラーの力がどの程度のものかという事をまったく理解していな
かった。そもそもそんなものを知る機会がなかったから、なんとなく強いのだ
ろうと思っていた。
だって選ばれた者達なのだ。
強いに決まっていると勝手に思い込んでいた。
勇者と名乗るからには強くて特別な存在なのだとばかり思っていたから、俺も
精々サポートが出来ればいいと考えていた。
「最悪だ、まさかこんな所でドラゴンと遭遇するとか」
勇者はそう言うが俺には何が問題なのかが理解出来ない。
たかだかドラゴン一匹程度で何を騒ぐ事があるというのか?
それとも俺が知らない何かがあのドラゴンにあるのだろうか?
「仕方ないです。遠回りになるけど別のルートを進みましょう」
ヒーラーも勇者の意見に納得している。
それならそういう事なのだろうと俺も納得した。
まあ無駄に戦う事はない、要は魔王を倒せば何もかもが解決するのだから。
そう思っていた時期は確かにあった。
でもそんな都合のいい事なんてなかったのだ。
「あれ? お前が勇者だったけ? 」
魔王は俺にそう聞いて来るが何か言えるような状況ではなかった。
魔王のその手が勇者に貫通していたからだ。それは戦闘が始まってすぐの出来事
で俺は理解するのに時間がかかった。だって思っていた事と全然違う事が目の前
で起こっていたからだ。
こんな展開を俺は知らない。
こんなに簡単に倒される勇者を俺は知らない。
嘘だろ?
あんなに息巻いていたのにこんなにも簡単にやれてしまうとか許されるのか?
勇者なのだろ? もっと主人公としてやるべき事があるだろ? 見せ場は?
お前の良い所を俺は何も見ていない。こんな終わり方は勇者じゃないだろに。
「嘘よ、こんな事ある訳がない! 勇者がこんな簡単に殺されるなんて……
何なのよ、魔王って! こんなに強いのに勝てる訳がないじゃない! 」
確かにヒーラーの言う事に俺は賛同出来るのだ。
こんな事がある訳がないし、あってはならない。
でも間違っている事がある。魔王が決して強い訳ではない、勇者が弱すぎるのだ。
こんなに弱いのに勇者になれるという方がおかしいのだ。
そしてヒーラーは俺を残して逃亡した。
その先は森である。ドラゴンが生息している森。
微かに悲鳴が聞こえた気がした。
「お前は逃げなくていいのか? 」
今度の魔王の質問には俺は答える事が出来た。
「嗚呼、問題ない。俺はお前よりも強いからな」
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