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しおりを挟む「どうしよう、なんだか緊張して来ちゃった」
そんな事を言い出す母に私は笑ってしまう。
「どうしてお母さんが緊張するのよ。ただ挨拶に来るだけなんだから、
お母さんが緊張する事なんてないでしょ? むしろ私の方がするべきなのに」
私はまったく緊張していなかった。
寧ろ早く彼が来ないか楽しみで仕方がなかったのだ。
バラ色の未来を思い描く私には何も怖いものなどなかった。
今日は婚約者のノルが両親へ挨拶に来る事になっていた。
これでも私もお嫁さんになるのかと思うと感慨深い。
でもそう思うと少しばかり寂しくなったりもする。
これがマリッジブルーって奴なのかもしれない。
「だって、私、ノル君に会うの初めてじゃない? なんだかんだで会えなかった
からこうして会う事になって緊張しているのよ。大丈夫かな、私、変じゃない?」
「大丈夫よ、変じゃないわ」
そう言って母を落ち着かせるが、さっきから父がうろうろしていた。
時計を何度も確認しながらぶつぶつとつぶやいている。
「私は認めんぞ! 娘はやらん! あ、あっ。 ちゃんと幸せにすると約束出来る
んだろうな! あ、あっ。そこまで言うのならまあ、認めてやろう。 あ、うん。
よし、これで行こう」
どうやら父にはプランがあるらしい。
でもそんなものは必要ないのだ。
だから父には言っておかないといけない。
「父さん、そういうのはいいから。普通にしてて」
「何がいいんだ? こういうのは最初にガツンと言っておかないと駄目なんだぞ。
そうじゃないとお前が困る事になるんだからな」
よく分からない理屈をこねる父に私がどうしたものかと思っていたら彼がやって
来た。そして漸く私も緊張して来たのだった。
*****
僕は初めて目が合った時に「見つけた! 」と思った。
きっと彼女が僕の運命の相手なのだと思ったし、運命とはこんなにも突然に
やって来るのだと知った。
でもこれは運命なのだ、それならば僕がどうするべきかなんて決まっていて、
当然のように彼女に結婚を申し込む事にしたのだ。そこに迷いなどは皆無だった。
何を迷う事なのだとあろうか? だって僕達は運命で結ばれているのだから!
「奥さんと結婚させて下さい! 」
「私は認めんぞ! 妻はやらん! 」
当然のようにおお義父さんは反対した。
まあその程度の反応は分かっていた、でも僕達は運命でつながっているのだ。
ならこんな所で諦めはしない。
*****
意味が分からない事が起きていた。
私は今、何処にいるのだろうか?
どこか異次元に飛ばされたのだろうか?
私の婚約者が求婚しているのだ、私の母に?
なんだこれ? 夢かな? 夢なのか?
夢なら早く覚めて欲しい。
「確かにその気持ちは分かります。突然の事で驚いているのかもしれません。
でもこれだけは言えます、僕達は運命で繋がっているんです! そんな僕達を
引き離す事なんて誰も出来ないんですよお義父さん! 」
何を言っているの?
確かに驚いたけど、驚きすぎて意味が分からないけれども!
運命って何よ! 私との運命はどうしたのよ!
「ちゃんと幸せにすると約束出来るんだろうな! 」
いやいやいやいや。
幸せにするとか以前の問題が大ありなんですが?
どんな質問してるのよ!
「ええ、もちろんです! 僕が必ず奥さんを幸せにしする事を誓います。
何があろうとも必ず、絶対に! 」
何を誰に誓ってるのよ!
違うでしょ? それを誓う対象は私でしょ?
絶対とかそうそう簡単に使う言葉じゃないよね?
「そこまで言うのならまあ、認めてやろう」
認めるの?
何を認めたか分かってるの?
どんな感性してるよ!
こんな事誰も認めたりなんかしないからね!
何がどうなってこうなった?
どうしてお母さんはちょっと嬉しそうにしているのよ、意味わかんない!
てか、これは何なのよ!
「ちょっとノル! 」
私は叫んだ。
「嗚呼、ごめん。君との婚約は破棄させてもらうよ」
今なの? それを言うのはこのタイミングなの?
違う! そういう事が聞きたかったんじゃない!
駄目だ、もう頭がおかしくなっちゃう!
「もう帰ってよ~」
私は泣きながらそう言った。
応援ありがとうございます!
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