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しおりを挟むそれは昔からずっとそうだった。
俺の周りにはいつも誰かが居て、それが当たり前の事だと思っていたから何の
疑問も持たずに過ごしていた。それにみんな優しかったから俺はみんなの事が
大好きだったんだ。
「もういい加減にしてよ! ずっと何を言っているのよ一人で」
母親にそう言われた時、俺は何を言われているのかが理解出来なかった。
だって俺は一人ではなかったから。でも母親には俺が一人に見えるのだという。
それがどういう事なのかを理解した時、俺は教会で過ごすようになっていた。
「それはとても素晴らしい事なんだよ」
神父様は俺にそう教えてくれたけど、実際にそれを素晴らしい事だと理解して
くれる人は神父様以外誰も居なかった。
俺の見えている者は他の人には見えない。
それはどう仕様も出来ない違いで、その差を埋める術を俺は持ち合わせてはいな
かったから結局理解して貰えないという状況に変わりはなく、そんな中でも
どうにか俺がやって来れたのはラトゥスが居たからだ。
教会の子供であるラトゥスにも俺と同じように見えているらしい。
ただ俺ほどはっきりとは見えていないので最初から区別がついたそうだ。
人ではない、その影がいつも何かを言っていると状況がずっと続いてるという事
はラトゥスにとって苦痛でしかなかったという。
でもそいつらにはちゃんと顔も名前もあって意思疎通が出来るという事が
俺の話から知ってからは安心したらしい。理解が出来るという事がラトゥスに
とっては福音だった。
お互いが間に入る事で全てがうまく回りだした。
「連絡がついた、迎えがすぐ来るよお嬢さん」
「嫌よ、帰らないわ! 私はあんな家に帰るつもりはないもの」
戻って来たラトゥスの言葉に反応して女が騒ぎ出したがそんな事は無視して
俺は聞いた。
「そうか、ならよかった。これでその爺も安心するだろう」
今も女を側で見守る爺が深々と頭を下げるのが見えるが、別にそこまでされる
ような事をしているつもりはない。俺は別にいい人間ではないのだから。
「それはよかった」
そして俺達は今回の報酬の話を始めるのだ。
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