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しおりを挟む角度が急な長い階段がある。
そこの中腹辺りで俺はいつものように腰を下ろした。
ここからの景色は俺のお気に入りなのだ。
街全体を見下ろせるのが何よりもいい。
「おや、信二じゃないか! こんな所に居たのかい。まったく早く帰らないとまた
怒られるよ。いくら気に入らないからってね、みんなあんたが心配なんだよ。
それが親心ってもんさね。ほら、みかんあげるからちゃんと帰るんだよ」
そう言って俺にアメを渡して階段を上がって行った婆さん。
よくもまああんなに曲がった腰でと思いながらお礼をいう。
「ありがとうよ婆ちゃん。婆ちゃんも気をつけるんだぜ」
俺がそう大声で言えば婆ちゃんは片手をあげて背中で返事をするその様は中々に
見栄えがするが危ないので止めて欲しい。転がり落ちて来たらまた上まで運ぶの
は俺なのだから。
そんな未だに名前も素性も分からない婆ちゃんとの出会いがあった夕暮れに
そいつはやって来た。
「なあ、俺にホームランの打ち方を教えてくれよ」
やって来たそいつはまだ小学生ぐらいだろうか?
わざわざこんな所まで上がって来たのだからと俺はすぐに返事をした。
「嫌だよ糞ガキが。玉蹴りでもしてろ」
醜悪な顔をした俺にそんな事を言われればすぐに泣き出すかと思ったが意外と
我慢強い漢だった。見どころのあるガキだからという理由で俺は婆ちゃんに貰っ
たアメをガキに渡した。
「ほら、みかんをやるから帰んな」
俺がそう言えばガキは手渡されたアメをじっと見つめて言うのだ。
「これアップルだよ? 」
よく見れば確かにアップルと書いてあったが俺はガキに言い聞かせる。
真っ当な事しか言えないガキに俺は大人っぽく言うのだ。
「これがみかんになったらホームランが打てるようになるんだ」
「そんな訳がないじゃないか。もういいよ、教えるつもりがないなら」
まあ実際真っ当な奴にホームランなんて打てる訳がないのだからそんなに間違っ
た事を言っている訳でもない。だからとぼとぼと階段を下りて行くガキを俺は
笑って見送った。
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