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婚約破棄する側か、される側か。
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しおりを挟む俺はその日、婚約破棄をする為に婚約者のコマールを呼び出していた。
何故婚約破棄をするのか? そんな事は決まっている。
俺の目の前に運命の相手が現れたからだ!
だってそうだろ?
どうして自分の意思とは関係なく決められた奴と俺が一緒にならなければ
いけないのだろう。 そんなものはごめんだった。
大体、俺は伯爵である。
どうして我慢なんぞしなくてならないのだ!
そんなものは私ではなく、そこらの有象無象にさせればいいのだ!
だから俺はコマールが現れたらすぐに言ってやろうと思っていた。
はっきり言ってこんな事をしてやる事にすら、イライラしていたが、
一応、風習は守らなくてならない。
婚約破棄をする場合は必ず本人に告げなけばならないという
昔からの風習があるのだ。
貴族としてそれくらいの教養は持っていないと笑われてしまう。
そしてやって来たコマールに俺はすぐに言ってやった。
「コマール、お前との婚!! 」
俺がさっさとすましてしまおうとした時、バチン! と音が鳴った。
それが自分の頬を叩かれた音だと理解するのに少し時間がかかってしまったのは
頭の中にその選択肢が無かったからだ。
これは一体どういう事なのだろうか?
俺が、この俺が頬を叩かれただと?
生まれてから今まで一度も叩かれた事などない、この俺を叩いた!
「おい、コマール! どういうつもりだ! どうしてお前ごときが俺に手を上げる
事が出来るんだ! ふざけやがって! お前とは婚!! 」
また鳴り響く音。
信じられない! こいつ二度も叩いた、この俺を二度もだ!
さすがに今度は俺もすぐに反応し、コマールの頬を叩こうとするが
俺の腕は簡単に止められて、もう一発叩かれた。
嘘だろ? 何だよこれ? どうして俺がこんな目に遭わなくてならない?
ただ婚約破棄しようとしているだけなのに!
「コマール、聞いてくれ! 」 バチン!
「俺は」 バチン!
「お前に」 バチン!
「ただ」 バチン!
「婚」 バチン! バチン!
バチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッ
バチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッ
バチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッバチッ
寄せては返す波のように、何度もコマールの手が俺の頬を打ち、
パンパンに膨らんだ俺の頬ではもう何も言う事は出来なくなってしまっていた。
そんな俺を見て彼女も満足したのか叩くの止め、こう言った。
「私は貴方との婚約を破棄します! 」
こうして俺は婚約破棄する側から、される側になった。
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