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菫川ヒイロ

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愛人はお嫌いですか?

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「今帰ったよ、エミリア」


 彼は奥さんとハグをします。
 私はそれを微笑ましく見ておりました。
 
 
「こちらの方は? 」


 奥さんが私の事を紹介するように彼に催促します。
 
 
「そうだね、彼女はアジョーラと言うんだ。君に紹介しておきたくてね」


「どうも、私、アジョーラと申します」


 私は挨拶をした。


「私、妻のエミリアですわ」


 奥さんも名乗ってくれた、実に初々しい。
 新婚という事で奥さんもまだ慣れていないのだろう。
 
 
「アジョーラはね、私の愛人なのだがね。こういう事は初めにしっかりと説明して
 おかないとと思ってね。よかった、よかった。上手くいきそうだね」
 
 
 彼はうんうんと納得しているようですが、奥さんはそうではないようです。
 
 
「ちょっと待って。今、何って? 愛人? 愛人って言ったわよね? どういう事
 ですの? そんな話聞いていませんが、あなた、一体何の話をしていますの? 」
 
 
「え? 愛人の話だが? 何をそんなに怒っているんだい? 私は君の為を思って
 こうしてアジョーラを紹介する事にしたというのに」
 
 
「私の為? 何を言っているのか分かっているんですか? どうして愛人が私の為
 になるというのですか! そんな話聞いた事ありませんよ! 寧ろ愛人なんて
 作らない事が私の為でしょ! それなのにこんなどうどうと紹介までして、
 どういうつもりなのですか! 私がはい、そうですかって言うとでも思っていた
 のですか? そんな訳ないでしょ! 」
 
 
「いや、でも……愛人だよ? 」


 奥さんが理解出来ないように、彼も理解出来ないようです。
 私が思うに彼の説明不足なだけの気がしますが。
 
 
「それに貴女もよくここに来れましたね! 図々しいにも程がありますよ! 」


 こっちにまで火の粉が降って来た。
 
 
「彼女は関係ないだろ! 私が頼んだんだから! 」


「頼んだ? 私は何も頼んでなどいませんよ! 」


 大きな声で怒鳴る奥さんに私は出直そうと考えた。
 
 
「日を改めますか? 」


 私が彼にそう聞けば
 
 
「二度と来ないで! アンタなんか必要ないのよ! 何を偉そうに、愛人風情が
 男にすがるしか能のないくせに、アンタなんか必要ありません! 」
 
 
 そこまで言われては私も黙っている訳には行きません。
 
 
「そうですか! 分かりました、では私は失礼します。二度と来ませんのでご心配
 なく! どうぞ彼の趣味に付き合ってあげて下さいね、奥さん」
 
 
「アジョーラ! 」


 彼の制止を振り切り私は出て行く。
 もう知った事ではない! 彼の趣味がどんなものかも知らずに嫁いで来ている
 時点でその程度の女なのだろう。
 
 
 私はこれでもプロ意識を持って愛人をしているが、あんなに馬鹿にされてまで
 彼に付き合ってやるつもりはない。せいぜい奥さんに満足させて貰えばいい。
 
 
 彼が奥さんに私の事を紹介してくれると言うから来たのに、愛人というだけで
 あんなにいきり立って。新婚だからと大目に見てあげていましたがもうどうでも
 いい。
 
 
 これだから勘違い令嬢は嫌いなのだ。
 
 
 
 
 
 
 


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