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一人相撲
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しおりを挟むその日私は初めて婚約者と会う事になっていた。
「ねえ、一体どういうつもりなの? 」
「ちょっとアンタこそ何を言っているの! 失礼でしょ! 」
私は彼に聞く。
母には悪いが、これは聞かないといけない事なのだ。
なぜなら、その初めての顔合わせの場所へ現れた彼は確かに昨日、
私が振った男なのだから。
「どう? 驚いた? 」
だというのにこの男はそんな事を言って来た。
この感情は何なのだろうか?
確かに顔を見た瞬間、『えっ! 』とはなった。
それはそうでしょ? だって昨日振った男をまた見る事になったのだから。
でもこれは驚いたと言っていいのだろうか?
今の私の感情は確実に苛立っているし、そして頭の中ではこの訳の分からない
やり口にどういう意図があるのかを今必死に考えている最中なのだ。
こんな事をして何が楽しいのか?
何が目的だ?
誰が得をしている?
「何をそんな難しい顔をしているんだい? さあ、座って座って。
これから僕達は家族になるというのに。僕は楽しい家庭を作って行きたいと
思っているんだよ。その方がいいに決まっているよね? そう思いますよね、
お義父さん、お義母さん? 」
「ええ、そうですね。それはもちろんです」
何も知らない親はそう答えるしかないだろう。
でも私は違うのだ。
「ねえ。私が昨日、アンタに何って言ったか覚える? 」
「ああ、もちろんさ! お前みたいなクズなんかと一緒になる奴なんか何処にも
いない。さっさと消えろ。だったかな? 」
「そうよ! 何が、僕の三番目の妻にならないか? よ。そんな馬鹿みたい事に
首を縦に振る馬鹿は居ないのよ! だからアンタなんかと私は婚約しないわ!
破棄よ、破棄。こんな婚約は破棄するわ! 」
だから私は当然の事を言ったつもりだった。
「それでいいのかい? 彼女はこう言っていますがどうしますか、お義父さん、
お義母さん? 」
「何よさっきから! 親は関係ないでしょ! 」
やたら親にばかり話を向けて、何が目的だ。
親が何を言った所で私の答えは変わったりはしないのだ。
「お前は黙っていないさい! 」
でも父は声を荒げ、そして両親は頭を下げた。
「娘が失礼な事を、すみません。どうかこんな娘ですがよろしくお願いします」
「何をしているのよ……」
「君はね、分かりやすく言えば借金のカタなんだよ。君のご両親は僕に借金をして
いるんだが、君が嫌なら仕方がないね。この話は無かったという事にしよう。
お貸ししたお金は明日までに返してもらえばいいですよ? お父さん、お母さん」
私のまったく知らない話。
借金があったなんて私は知らないし、私がその借金のカタだった事なんてもっと
知らない。
そもそも娘を差し出してまでする借金って何よ!
一体、今家はどういう状況なのよ!
「ちょっと待ちなさいよ! 」
私は帰ろうとする彼を呼び止めた。
「何か? 」
分かり切っている癖に、何も知らない振りをするこの男に私はこれから……
なんて一人相撲。
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