姉の話は退屈だ

菫川ヒイロ

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 今日も一日頑張った。
 頑張った俺、超偉い。最高だね! 天才だね! きっと救世主だね!
 
 
 どうにか自分に言い聞かせて家に帰った俺を姉ちゃんが出迎えた。
 
 
「よく帰った弟よ、褒めてつかわすぞ」


 返ってそうそう面倒臭い絡み方をしてきたので昇天しそうになった。
 
 
「なんだ姉ちゃん、帰ってたのかよ」


 姉は婚約者の所へ入り浸っており、たまにしか家に帰って来ないので最近は
 寛げていたというのに、最悪のタイミングだった。
 
 
「ごはんが出来てるから食べるがよろしい、最高の出来だぞ☆ 」


「もしかして姉ちゃんが作ったの? 」


「バカめ! どうして私がごはんを作らないといけないんだ、母のお手製だ! 
 子供は母の手料理で育つのだぞ☆ 」
 
 
 姉のウインクに吐き気を催しながら着替えて食卓へ向かへば夕餉の準備は出来て
 いた。
 
 
「いただきます」


 手を合わせ食事を始めるが姉は俺の前の席からこちらをニヤニヤしながらずっと
 こっちを見て来る。
 
 
「なんだよ、まだ何かあるのかよ」


 こういう時は確実に面倒臭くなるのは長年の経験で知っていたが、聞かないと
 終わらないのでさっさと聞いてしまうのが一番である。


「私さ、婚約破棄されたんだけどその話、聞く? 」


「は!? 」


 まさかの展開だった。一体姉は何を考えているのかさっぱり分からない。
 
 
「母さんは知ってるのかよ」


「もちろん」


「父さんは? 」


「………」


 言える訳がないよね、久々に家に帰ってきたらこれなのだから。
 最悪だ、確実に俺を巻き込もうとしている。
 
 
「で? 」


「そうかい、そうかい。そんなに聞きたいのなら話してあげようじゃないか。
 私が婚約破棄をされた話を! 耳の穴、かっぽじって聞くがいいさ」
 
 
 姉が言うにはこうだった。
 婚約者との同棲生活はそれなりにうまく行っていたのだ、初めうちは。
 でも当然、姉の家事が一切出来ないというポンコツ具合がバレたそうだ。
 
 
「料理はどうしてたんだよ? 」


「母が作ったのを食べさしていた」


 そうしてどうにか誤魔化していたらしい。
 もちろん掃除も出来ないので、婚約者が居ない間に母さんが掃除をしに行って
 いたそうだ。これじゃあ母さんと結婚するみたいだ。
 
 
「うまく行っていたのよね、ほんとびっくりするくらいさ。案外気付かないもの
 なのね。男ってバカよね~」
 
 
 しみじみという姉。
 姉ちゃんにだけは言われたくはない!
 
 
「でもさ、洗濯物の場所を聞かれてさ。私が閉まった訳じゃないからそんなの
 知る訳ないじゃない? だから適当に答えたら見つからなくてさ、喧嘩になった
 のよ。でさ、言ってやったのよね全部母がやっていたんだって。アンタが毎日
 うまいうまいって言って食べていたのは母が作った物だったんだって教えて
 あげたらさ無茶苦茶怒って、婚約破棄だって。どう思う? 」
 
 
 どうもこうも自業自得じゃないかとしか言いようがない。
 
 
「酷くない? 家事が出来ないだけで婚約破棄とかさ、ウケる」


 何が?
 面白い要素なんてどこにもないよ姉ちゃん!
 
 
「だからこれからまた姉と暮らせるのだぞ、嬉しいだろ弟よ? 」


「わーい。やったー。超うれしい」


 全部棒読みで返事してやった。
 
 
「そうだろう、そうだろう。だから父に怒られないように協力して、お願い! 」


 姉が手を合わせるが俺に何が出来るというのか? 
 父さんが怒る相手が一人増えるだけで、俺が怒られ損になってしまう。
 
 
「それは無理だな姉ちゃん」


「そう言わずにさ、私達の仲だろ? 」


「姉弟でも無理なものは無理だ」


「何でよ! 」


「私が居るからだ」


「父! 」


 姉ちゃんの退屈な話をしている間に父さんが帰って来てしまっていた。
 これはもうどうしようもない。しっかり父さんに怒られてくれ姉ちゃん。
 
 
 姉ちゃんが怒られるのを見ながら食べる夕餉は美味しくって母さんの偉大さを
 感じた。やっぱり家事が出来た方が得だという事を後で姉ちゃんに教えて
 あげようと思った、そんな夜だった。











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