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19 サプライズ
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「おい! 具合悪いのか!?」
椅子に座って俯いて固まっていた桜介に声がかかった。
そして、その声は嫌でも聞き覚えのある声だった。
「蓮……さん?」
「ああ。お前の計画してた場所回ってもいねぇし、だが、チェックインはまだしてねぇだろうしって思って探すの時間かかっちまった! くそ。どこが具合悪いんだ? 病院行くぞ」
慌てた様子の蓮に桜介の頭は追いつかない。
「蓮さん……なんでここに……?」
「仕事終わってから、サプライズで俺も来ようと思ってたんだよ」
そう良いながら蓮は桜介の体を軽々と抱え上げ、横抱きにした。
「わっ、ちょ、俺自分で歩けるからっ。具合も悪くないし! お、降ろして」
「だめだ。病院行かねぇとどこが悪いのか分からねぇだろ」
「どこも悪くないってば! 降ろしてよ」
旅館のロビーということもあり、2人はヒソヒソ声で言い合った。
「どこも悪くねぇやつが旅行中にロビーで俯いてたりしねぇよ」
「それは……」
ここであの女性を見たことを言ってしまったら、もう蓮とは別れることになってしまうのだろうか。いや、そう覚悟していたじゃないか。いや、いっそのこと、桜介に好きな人が出来たことにして別れを切り出した方がいいのだろうか。桜介は心の中でこれから来る別れを考え葛藤した。
「それはなんだ?」
「……話すから、とりあえず降ろしてよ。もうチェックインできる時間になったはずだから部屋の中で話そう」
「分かった。だが本当に具合は悪くないんだよな?」
「うん」
そうして2人はチェックインを済ませ、部屋に入った。
机の上に置いてあったお茶セットでお茶を入れ蓮の前に置く。
「ありがとう」
蓮がお礼を言って受け取って1口飲むのを見届けてから、桜介は重い口を開いた。
「俺、この1年ほんと幸せで楽しかったよ」
「? 俺もそうだ」
蓮は桜介の言葉にはてなの浮かんでいそうな顔で答え、その後にわずかにハニカんだ。
「蓮さんには……悪いと思うんだけどさ、俺、好きな人ができたんだ」
桜介は静かな声で告げた。
桜介に好きな人ができたと知れば、蓮は安心して別れられるだろう。
「…………は?」
けれど蓮はポカンとした顔をして、その顔は徐々ににショックを受けたようになった。
「俺、その人の家に住むことにしたからさ、ここから帰ったらあの部屋は出ていくよ」
「……誰だ」
「え?」
「その好きな人ってのは誰だ。一緒に住むってことはもう相手もお前のことが好きってことか」
「え、あ、うん」
「じゃあなんでお前はあんな風に項垂れてた」
「ちょっと疲れちゃっただけだよ。別に項垂れていたわけじゃない」
「具合が悪くないってんなら、何か辛いことがあったんだろ?」
「ないよ、何も」
桜介は勤めて明るく笑顔で答えた。
けれどそんな桜介の体を蓮が優しく抱きしめた。
ふわりと蓮の香りがする。
こんな状況でも桜介はその香りに落ち着いた。
「なぁ」
いつもより低い声が耳元から聞こえた。蓮の体と密着している部分にはその声の振動が伝わるほどだ。
「なぁ、桜介。俺は別れる気はないからな」
「な、なんで」
「なんで? なんでもクソもあるか。俺が愛せるのは桜介だけだからだ。お前は違ったみたいだが」
桜介を蔑むようなその声音に、カッと怒りが沸いた。
「俺しか愛せないなんて、そんなの嘘じゃん」
気づけばそんなことが口から溢れていた。
「なに?」
蓮の体はぴくりと動き、地を這うような低い声で言われれば、桜介は本能的な恐怖で震え始めてしまった。
蓮はその震えに気がついたのか、わずかに腕の力を弱めたが桜介を腕の中から開放しようとはしなかった。
「……彼女が、いるんだろ」
「彼女?」
「蓮さんは、やっぱり女の方がいいんだろ。俺のことなんか気にすることないよ。だって俺にだって好きな人ができたんだ、から」
「ちょっと待て。まじで何言ってんだ」
「……分かってたんだ、俺。最近蓮さんの様子がおかしいって。来客があっても俺に見られないようにすぐに玄関まで走って行くし、ポストに入った郵便物もチェックしたら怒るし、デートだってしてくれなくなった。それで今日は……旅行に、朝、家でてから家の前まで戻って、それで」
「ああ。見てしまったのか」
蓮がボソリとそう言って桜介はズキっと胸が痛んだ。
蓮はもう彼女の存在を隠す気がなくなってしまって、そして桜介と別れるのだ。
けれど、桜介を抱きしめる蓮の腕の力は強まった。
椅子に座って俯いて固まっていた桜介に声がかかった。
そして、その声は嫌でも聞き覚えのある声だった。
「蓮……さん?」
「ああ。お前の計画してた場所回ってもいねぇし、だが、チェックインはまだしてねぇだろうしって思って探すの時間かかっちまった! くそ。どこが具合悪いんだ? 病院行くぞ」
慌てた様子の蓮に桜介の頭は追いつかない。
「蓮さん……なんでここに……?」
「仕事終わってから、サプライズで俺も来ようと思ってたんだよ」
そう良いながら蓮は桜介の体を軽々と抱え上げ、横抱きにした。
「わっ、ちょ、俺自分で歩けるからっ。具合も悪くないし! お、降ろして」
「だめだ。病院行かねぇとどこが悪いのか分からねぇだろ」
「どこも悪くないってば! 降ろしてよ」
旅館のロビーということもあり、2人はヒソヒソ声で言い合った。
「どこも悪くねぇやつが旅行中にロビーで俯いてたりしねぇよ」
「それは……」
ここであの女性を見たことを言ってしまったら、もう蓮とは別れることになってしまうのだろうか。いや、そう覚悟していたじゃないか。いや、いっそのこと、桜介に好きな人が出来たことにして別れを切り出した方がいいのだろうか。桜介は心の中でこれから来る別れを考え葛藤した。
「それはなんだ?」
「……話すから、とりあえず降ろしてよ。もうチェックインできる時間になったはずだから部屋の中で話そう」
「分かった。だが本当に具合は悪くないんだよな?」
「うん」
そうして2人はチェックインを済ませ、部屋に入った。
机の上に置いてあったお茶セットでお茶を入れ蓮の前に置く。
「ありがとう」
蓮がお礼を言って受け取って1口飲むのを見届けてから、桜介は重い口を開いた。
「俺、この1年ほんと幸せで楽しかったよ」
「? 俺もそうだ」
蓮は桜介の言葉にはてなの浮かんでいそうな顔で答え、その後にわずかにハニカんだ。
「蓮さんには……悪いと思うんだけどさ、俺、好きな人ができたんだ」
桜介は静かな声で告げた。
桜介に好きな人ができたと知れば、蓮は安心して別れられるだろう。
「…………は?」
けれど蓮はポカンとした顔をして、その顔は徐々ににショックを受けたようになった。
「俺、その人の家に住むことにしたからさ、ここから帰ったらあの部屋は出ていくよ」
「……誰だ」
「え?」
「その好きな人ってのは誰だ。一緒に住むってことはもう相手もお前のことが好きってことか」
「え、あ、うん」
「じゃあなんでお前はあんな風に項垂れてた」
「ちょっと疲れちゃっただけだよ。別に項垂れていたわけじゃない」
「具合が悪くないってんなら、何か辛いことがあったんだろ?」
「ないよ、何も」
桜介は勤めて明るく笑顔で答えた。
けれどそんな桜介の体を蓮が優しく抱きしめた。
ふわりと蓮の香りがする。
こんな状況でも桜介はその香りに落ち着いた。
「なぁ」
いつもより低い声が耳元から聞こえた。蓮の体と密着している部分にはその声の振動が伝わるほどだ。
「なぁ、桜介。俺は別れる気はないからな」
「な、なんで」
「なんで? なんでもクソもあるか。俺が愛せるのは桜介だけだからだ。お前は違ったみたいだが」
桜介を蔑むようなその声音に、カッと怒りが沸いた。
「俺しか愛せないなんて、そんなの嘘じゃん」
気づけばそんなことが口から溢れていた。
「なに?」
蓮の体はぴくりと動き、地を這うような低い声で言われれば、桜介は本能的な恐怖で震え始めてしまった。
蓮はその震えに気がついたのか、わずかに腕の力を弱めたが桜介を腕の中から開放しようとはしなかった。
「……彼女が、いるんだろ」
「彼女?」
「蓮さんは、やっぱり女の方がいいんだろ。俺のことなんか気にすることないよ。だって俺にだって好きな人ができたんだ、から」
「ちょっと待て。まじで何言ってんだ」
「……分かってたんだ、俺。最近蓮さんの様子がおかしいって。来客があっても俺に見られないようにすぐに玄関まで走って行くし、ポストに入った郵便物もチェックしたら怒るし、デートだってしてくれなくなった。それで今日は……旅行に、朝、家でてから家の前まで戻って、それで」
「ああ。見てしまったのか」
蓮がボソリとそう言って桜介はズキっと胸が痛んだ。
蓮はもう彼女の存在を隠す気がなくなってしまって、そして桜介と別れるのだ。
けれど、桜介を抱きしめる蓮の腕の力は強まった。
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