5 / 21
5 メッセージ
しおりを挟む
「いらっしゃいませ~。って今日は一人?」
「うん」
「え!? 一人なの!?」
「だからそうだってば。聞いといて何だよ」
「いや、だってここに一人で来たことなんてなくない? どういう風の吹き回し?」
「別に。今日は一人で居たくなかっただけ」
「あ~、今日はイブイブだから?」
「そんなの、関係ないけど」
「ふーん。ま、じゃあ今日はカウンターでいいね? こちらへどうぞ~」
佐々木に案内され桜介は今まで一度も座ったことのないカウンター席に座った。
「ビールと、炒り銀杏と、他に何がいい?」
「その二つは決まってるの?」
「え? 違うの?」
「違わないけど」
「じゃ、決まりだね。残りはゆっくり考えといて」
桜介をカウンターに一人残し、佐々木はビールを注ぎに行った。
と言ってもカウンター席からはその様子が全て見える。
他にも中で作業する店員の姿が見え、桜介の心は落ち着いて来た。
「はいよっ。あとこのたこわさは俺からのサービス」
「えっいいの?」
「いいの。俺に口説かれてくれるならねっ」
「はは。それは無理だけど」
「じゃ、何でそんな暗い顔してるのかくらいは教えてよ」
「別に~。ただ振られただけ」
「え!?」
桜介の言葉に佐々木は嬉しそうに叫んだ。
「何で喜ぶんだよ。俺、振られたって言ったんだけど」
「そりゃ、口説いてる相手が振られたってなったら誰でも嬉しいでしょ」
「じゃあ、店長は世の中の人が振られるたびに喜んでるんだ」
「なにそれ。もしかして俺、手当たり次第口説いてるように見えてるってこと!?」
「違うの?」
「違わないけど。でも本気なのは桜介くんだけなんだけどなぁ」
「ははっ、それ誰にでも言ってるだろ」
佐々木が笑わせてくれるので、その日はしこたま飲んで、家に帰り着いた頃にはまぶたを上げているのがやっとの状態だった桜介は、何も考えることなく眠りについた。
数日後に蓮からメッセージが届いたときは、桜介は夢なのではないかと頬以外の体もつねりまくった。
あの日はお酒を飲んでいたからごまかされて、デートに行ってもらえないかもしれないと思っていたからだ。
『来週の、火曜日はどうだ?』
桜介はメッセージの文面を何度も見て噛み締めた後、震える指で返信した。
『大丈夫! 楽しみにしてる』
それからデート当日まで桜介の仕事は絶好調だった。
最初で最後の桜介のためだけのデートに桜介は、寂しい気持ちよりも楽しい気持ちだけを拾おうと必死だった。
ーー蓮さんの好きなタイプはずっと笑顔の人。幸せそうに笑う人。
桜介は心の中で繰り返した。
「うん」
「え!? 一人なの!?」
「だからそうだってば。聞いといて何だよ」
「いや、だってここに一人で来たことなんてなくない? どういう風の吹き回し?」
「別に。今日は一人で居たくなかっただけ」
「あ~、今日はイブイブだから?」
「そんなの、関係ないけど」
「ふーん。ま、じゃあ今日はカウンターでいいね? こちらへどうぞ~」
佐々木に案内され桜介は今まで一度も座ったことのないカウンター席に座った。
「ビールと、炒り銀杏と、他に何がいい?」
「その二つは決まってるの?」
「え? 違うの?」
「違わないけど」
「じゃ、決まりだね。残りはゆっくり考えといて」
桜介をカウンターに一人残し、佐々木はビールを注ぎに行った。
と言ってもカウンター席からはその様子が全て見える。
他にも中で作業する店員の姿が見え、桜介の心は落ち着いて来た。
「はいよっ。あとこのたこわさは俺からのサービス」
「えっいいの?」
「いいの。俺に口説かれてくれるならねっ」
「はは。それは無理だけど」
「じゃ、何でそんな暗い顔してるのかくらいは教えてよ」
「別に~。ただ振られただけ」
「え!?」
桜介の言葉に佐々木は嬉しそうに叫んだ。
「何で喜ぶんだよ。俺、振られたって言ったんだけど」
「そりゃ、口説いてる相手が振られたってなったら誰でも嬉しいでしょ」
「じゃあ、店長は世の中の人が振られるたびに喜んでるんだ」
「なにそれ。もしかして俺、手当たり次第口説いてるように見えてるってこと!?」
「違うの?」
「違わないけど。でも本気なのは桜介くんだけなんだけどなぁ」
「ははっ、それ誰にでも言ってるだろ」
佐々木が笑わせてくれるので、その日はしこたま飲んで、家に帰り着いた頃にはまぶたを上げているのがやっとの状態だった桜介は、何も考えることなく眠りについた。
数日後に蓮からメッセージが届いたときは、桜介は夢なのではないかと頬以外の体もつねりまくった。
あの日はお酒を飲んでいたからごまかされて、デートに行ってもらえないかもしれないと思っていたからだ。
『来週の、火曜日はどうだ?』
桜介はメッセージの文面を何度も見て噛み締めた後、震える指で返信した。
『大丈夫! 楽しみにしてる』
それからデート当日まで桜介の仕事は絶好調だった。
最初で最後の桜介のためだけのデートに桜介は、寂しい気持ちよりも楽しい気持ちだけを拾おうと必死だった。
ーー蓮さんの好きなタイプはずっと笑顔の人。幸せそうに笑う人。
桜介は心の中で繰り返した。
39
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
【BL】声にできない恋
のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ>
オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる