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好きに
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「おう。ミズホ、来たのか」
カランカランと涼しげな音を鳴らしながら入店すると、エドウィンがグラスを拭きながらチラリと瑞歩を見やった。
「うん」
うなずきながら席に着くと、後から護衛として付けられた臣下がやってきて瑞歩から少し離れた席に座った。ロノエゼトリーは瑞歩と知り合いだとエドウィンに顔が割れているので、別の臣下が護衛になったのだ。
このバーに来るのは2回目だと言うのに、エドウィンは何も聞かずに瑞歩の前にショーンドディスディンのストレートと、数種類のナッツとジャーキーを置いた。
「この間、久しぶりに見た顔にびっくりしてお通し出し忘れてたから、ナッツは今日のお通しで、ジャーキーはこの間の分ってことで。あとこのウィスキーは俺から奢りで」
「律儀だなぁ。でも、ありがとう」
「おう」
エドウィンが瑞歩よりも後に店に入って来た臣下達の注文を聞きに行っているのを眺めていると、彼らはアルコール度数が低めのカクテルで夏っぽいものをと注文しているのが聞こえた。
エドウィンは爽やかに笑いながらうなずいて、銀色の綺麗なシェイカーに瑞歩の知らない数種類の液体を入れ、シャカシャカと振り始めた。
その様子は手慣れていてかっこいい。
しばらくして出来上がったカクテルがグラスに注がれると鮮やかな青色がとてもきれいだった。
臣下達ははしゃぎながら1口飲んで「うまっ」と連呼している。
「すごいね。かっこいい」
瑞歩のもとへ戻って来たエドウィンにそう伝えたが、エドウィンはもはや言われ慣れている言葉なのか「そりゃあどうも」と曖昧に笑われた。
「今度俺も頼もうかな」
「なら、そん時はウイスキーで作ってやるよ」
「それ、いいね。美味しそう」
嬉しくなってグラスを傾けてウイスキーを飲めば、いつも城で飲んでいるものよりも美味しく感じる。同じ酒でも飲む場所が変われば全然違うらしい。
このバーの落ち着いた雰囲気は居心地が良い。
エドウィンと最初に会ったときには人間のことを信用できないと突っぱねられたが、今もまだそうなのだろうかと気になった。
ーーそうだとしたら、なんだか寂しいな
「最近、街の様子はどう?」
「どうってなんだ。お前も街をうろついてるだろ?」
訝しげなエドウィンに、瑞歩は曖昧に笑った。
「いや、まぁ。でも、バーのマスターの意見が聞きたいなって思ってさ」
「ふーん。まぁ、街っつうか、今の王様はなんだか良いよな。もちろん、獣人の扱いが良くなったってのは一番嬉しいポイントだが、ちょっと前に孤児院ができただろ?」
「ああ、うん」
「それ以外にも種族問わず子供達が無料で通える学校とか、人の少ない業種とかの学校は大人も無料で受けられるし、今はまだそれで働いてる奴はいないが、少ししたら無職だった奴も働けるようになる。そしたら、この国で生活している全員が人並みな生活を送れるようになるのは夢じゃないと思う」
思ったよりもしっかりした意見が返って来て、瑞歩はなんだか嬉しくなった。
「マスター、お会計お願いします」
「はい」
護衛の声に返事をし、瑞歩から離れていくエドウィンを見ながらも、瑞歩はなんと無く落ち着かない気持ちでいた。しっかりした意見が返って来たのも嬉しかったが、それ以上にただ単純に褒められたのが嬉しかったのだ。
「次は何を飲む?」
いつの間にかお会計を終えて戻ってきたエドウィンが、瑞歩の残り2、3口のグラスを見て言った。
「あ、いや。俺ももう会計で。ごめん、今日はあんま売り上げに貢献できなかったね。また近いうちに来るから」
「気にするな。また待ってる」
席のチャージ料と本日分のお通し代と少しのチップを払って店を出た。
護衛と共に帰る間も、気分が上昇していていた。
それからは、何度も通った。
バーに行くと数日は、めんどくさい書類仕事でも前のめりに仕事ができた。
瑞歩はその間に、すっかりエドウィンのことを恋愛の意味で好きになっていた。
意外に優しい一面があって、シェイカーを振ってる姿がカッコ良くて、話すのも楽しくて、これで好きにならないと言う方がおかしいのだと、バーからの帰り道は心の中で悪態を吐くのが日課になっていた。
カランカランと涼しげな音を鳴らしながら入店すると、エドウィンがグラスを拭きながらチラリと瑞歩を見やった。
「うん」
うなずきながら席に着くと、後から護衛として付けられた臣下がやってきて瑞歩から少し離れた席に座った。ロノエゼトリーは瑞歩と知り合いだとエドウィンに顔が割れているので、別の臣下が護衛になったのだ。
このバーに来るのは2回目だと言うのに、エドウィンは何も聞かずに瑞歩の前にショーンドディスディンのストレートと、数種類のナッツとジャーキーを置いた。
「この間、久しぶりに見た顔にびっくりしてお通し出し忘れてたから、ナッツは今日のお通しで、ジャーキーはこの間の分ってことで。あとこのウィスキーは俺から奢りで」
「律儀だなぁ。でも、ありがとう」
「おう」
エドウィンが瑞歩よりも後に店に入って来た臣下達の注文を聞きに行っているのを眺めていると、彼らはアルコール度数が低めのカクテルで夏っぽいものをと注文しているのが聞こえた。
エドウィンは爽やかに笑いながらうなずいて、銀色の綺麗なシェイカーに瑞歩の知らない数種類の液体を入れ、シャカシャカと振り始めた。
その様子は手慣れていてかっこいい。
しばらくして出来上がったカクテルがグラスに注がれると鮮やかな青色がとてもきれいだった。
臣下達ははしゃぎながら1口飲んで「うまっ」と連呼している。
「すごいね。かっこいい」
瑞歩のもとへ戻って来たエドウィンにそう伝えたが、エドウィンはもはや言われ慣れている言葉なのか「そりゃあどうも」と曖昧に笑われた。
「今度俺も頼もうかな」
「なら、そん時はウイスキーで作ってやるよ」
「それ、いいね。美味しそう」
嬉しくなってグラスを傾けてウイスキーを飲めば、いつも城で飲んでいるものよりも美味しく感じる。同じ酒でも飲む場所が変われば全然違うらしい。
このバーの落ち着いた雰囲気は居心地が良い。
エドウィンと最初に会ったときには人間のことを信用できないと突っぱねられたが、今もまだそうなのだろうかと気になった。
ーーそうだとしたら、なんだか寂しいな
「最近、街の様子はどう?」
「どうってなんだ。お前も街をうろついてるだろ?」
訝しげなエドウィンに、瑞歩は曖昧に笑った。
「いや、まぁ。でも、バーのマスターの意見が聞きたいなって思ってさ」
「ふーん。まぁ、街っつうか、今の王様はなんだか良いよな。もちろん、獣人の扱いが良くなったってのは一番嬉しいポイントだが、ちょっと前に孤児院ができただろ?」
「ああ、うん」
「それ以外にも種族問わず子供達が無料で通える学校とか、人の少ない業種とかの学校は大人も無料で受けられるし、今はまだそれで働いてる奴はいないが、少ししたら無職だった奴も働けるようになる。そしたら、この国で生活している全員が人並みな生活を送れるようになるのは夢じゃないと思う」
思ったよりもしっかりした意見が返って来て、瑞歩はなんだか嬉しくなった。
「マスター、お会計お願いします」
「はい」
護衛の声に返事をし、瑞歩から離れていくエドウィンを見ながらも、瑞歩はなんと無く落ち着かない気持ちでいた。しっかりした意見が返って来たのも嬉しかったが、それ以上にただ単純に褒められたのが嬉しかったのだ。
「次は何を飲む?」
いつの間にかお会計を終えて戻ってきたエドウィンが、瑞歩の残り2、3口のグラスを見て言った。
「あ、いや。俺ももう会計で。ごめん、今日はあんま売り上げに貢献できなかったね。また近いうちに来るから」
「気にするな。また待ってる」
席のチャージ料と本日分のお通し代と少しのチップを払って店を出た。
護衛と共に帰る間も、気分が上昇していていた。
それからは、何度も通った。
バーに行くと数日は、めんどくさい書類仕事でも前のめりに仕事ができた。
瑞歩はその間に、すっかりエドウィンのことを恋愛の意味で好きになっていた。
意外に優しい一面があって、シェイカーを振ってる姿がカッコ良くて、話すのも楽しくて、これで好きにならないと言う方がおかしいのだと、バーからの帰り道は心の中で悪態を吐くのが日課になっていた。
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