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魔王
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地下と地上をつなぐ長い長い階段。
そこを登っている間、最初は兵士たちとはすれ違わなかった。
だが上に近づくに連れ、1人、2人と兵士が転がっている。
その兵士を魔力で持ち上げ地上に行くついでに上に運んだ。
瑞歩はなぜ急に魔力を……、それもかなり多くの魔力を使えるようになったのか分からなかった。転生が影響しているのかもしれない。けれど、使えるのならばそれを十二分に使い、全ての種族が住みやすい世界を作ろうと思った。
そう。それはつまり。
「俺が支配しよう」
その仄暗い決意と同時に、階段を上り切り扉を開いた。
着いた先は大広間だ。
城に来ていた貴族も、王も、兵士も、みんな平等に気を失い地面に倒れている。
瑞歩から漏れ出た魔力が強すぎるためだろう。
コントロールが難しかった。
小さな蟻を潰すのは簡単でも、生きたまま摘むことは少しコツがいるように、魔力を必要な分量で出すには練習が必要そうだ。
階段から魔力で浮かせて持って来た兵士をドサリと下ろした時、数メートル先に手を広げたくらいの大きさの魔法陣が現れた。その魔法陣は紫色に光り、次に怪しげな黒い煙を出した。
魔法陣がその煙に覆われ、まるで真っ黒い穴のような見た目になったあと、そこからスッと男性が現れた。
「……魔王陛下、貴方様の忠実なる臣下。ロノエゼトリー、ただいま参上仕りました」
片膝を床につき、右手を胸に当てた男性は恐ろしいほどに見目が整っている。
黒い髪、鋭い目つきの中に光ったように見える赤い瞳。
「魔王陛下? 俺に言ってるのか?」
瑞歩の周りには意識を失っている人間しかおらず、必然的にこの魔法陣から現れた男性が話しかけているのは瑞歩だろうと結論づけたが、言われた意味が分からず瑞歩は首を傾げた。
「はい。陛下」
「俺は魔王陛下じゃないよ。人違いじゃないかな」
「いえ……。私が、いえ。魔族の誰も陛下を間違うことなどあり得ません」
自信満々のロノエゼトリーに、瑞歩は困惑した。
「そうは言っても、人違いですとしか言いようがないんだけど」
なおも、人違いであることを主張する瑞歩に、ロノエゼトリーは小さく笑った。
「人間で、魔王に選ばれた方は貴方様が初めてです。ですが、貴方様は魔王陛下になる条件をお満たしになられました。その魂の形も申し分ない。これは私たち魔族が崇める魔神陛下の御決定です」
「何だよそれ。今の魔王はどうなってんの? そういうのって、よく分からないけど前の魔王を殺してなったりとか」
瑞歩の言葉にロノエゼトリーはおかしそうに目を細め「くく」と喉を鳴らした。
「まぁ、どのような御伽噺を信じていらっしゃっても、貴方様が魔王陛下として選ばれたことは覆りません。ああ、ですが貴方様が辞退された場合は、強制はできませんが」
そこで言葉を切り、ロノエゼトリーは少し屈んで瑞歩の顔を覗きこんだ。
ミズホの体が小柄であることを考慮してもロノエゼトリーの背はかなりでかい。
「『俺が支配しよう』。そう思われたでしょう? 魔王陛下にぴったりな心がけではありませんか。貴方様が魔王になることに、何の問題もないようにお見受けしますが」
にっこりと微笑まれ瑞歩はたじろいだ。
けれど、瑞歩の目標は言ってしまえば世界征服に他ならない。
無駄な争いや差別などが起きない世の中にするためには多少手荒なことも必要だろう。
「私たち魔族は、貴方様に忠誠をお誓いいたします。貴方様の手となり足となり、働きます」
考えを後押しするようにそう言って微笑むロノエゼトリーに、瑞歩は小さくうなずいた。
「……分かった。これから、よろしく頼む」
「はい」
ロノエゼトリーは花が咲くようにパッと笑顔を見せた。
いきなり貴方は魔王ですなんて言われて“はいそうですか”と信用することはできないが、自分一人で世界征服など簡単なことではない。魔王といえど王という地位や臣下という協力者がいることは何よりも役に立ちそうだ。
「では、これより他の者達にも伝えて参ります。今夜はパーティーですよ。何せ、千年ぶりに選ばれた魔王陛下ですから」
「はい?」
ロノエゼトリーの言葉に驚く瑞歩をよそに、彼はホクホク顔で魔法鳥を呼び出し、紙を持たせた。魔法鳥はキラキラと光って彼が持たせた紙と一緒に目的の場所へと消えていく。
「魔族には、必ずしも王が必要というわけではないのですよ。ですから、ここ千年は魔王の地位は空席でした。ですが、その席が埋まるというのは、長い年月を惰性に過ごす魔族にとってお祝いなのです」
「惰性って」
ちゃんと仕事をしてもらえるのか、瑞歩は不安になった。
「はぁ……。パーティーは明日以降にして。とりあえずここに転がってる奴ら、全部地下牢にぶち込んで。地下牢にいる獣人達は、獣人達の街に送ってやって」
「承知いたしました」
ロノエゼトリーに指示を出すと先ほどまでのお祝いムードを一瞬でかき消して、生真面目に返事を返した。
ーーなんかせっかくお祝いっぽかったのに、水を差したかな。
可哀想なことをしたかもと思ったので、代わりに明日以降に開かれるパーティーとやらは派手にやってもらおうと決意した。
その後、ロノエゼトリーは他の臣下を呼び寄せて、命じた仕事は全てすぐにこなしてくれた。
そこを登っている間、最初は兵士たちとはすれ違わなかった。
だが上に近づくに連れ、1人、2人と兵士が転がっている。
その兵士を魔力で持ち上げ地上に行くついでに上に運んだ。
瑞歩はなぜ急に魔力を……、それもかなり多くの魔力を使えるようになったのか分からなかった。転生が影響しているのかもしれない。けれど、使えるのならばそれを十二分に使い、全ての種族が住みやすい世界を作ろうと思った。
そう。それはつまり。
「俺が支配しよう」
その仄暗い決意と同時に、階段を上り切り扉を開いた。
着いた先は大広間だ。
城に来ていた貴族も、王も、兵士も、みんな平等に気を失い地面に倒れている。
瑞歩から漏れ出た魔力が強すぎるためだろう。
コントロールが難しかった。
小さな蟻を潰すのは簡単でも、生きたまま摘むことは少しコツがいるように、魔力を必要な分量で出すには練習が必要そうだ。
階段から魔力で浮かせて持って来た兵士をドサリと下ろした時、数メートル先に手を広げたくらいの大きさの魔法陣が現れた。その魔法陣は紫色に光り、次に怪しげな黒い煙を出した。
魔法陣がその煙に覆われ、まるで真っ黒い穴のような見た目になったあと、そこからスッと男性が現れた。
「……魔王陛下、貴方様の忠実なる臣下。ロノエゼトリー、ただいま参上仕りました」
片膝を床につき、右手を胸に当てた男性は恐ろしいほどに見目が整っている。
黒い髪、鋭い目つきの中に光ったように見える赤い瞳。
「魔王陛下? 俺に言ってるのか?」
瑞歩の周りには意識を失っている人間しかおらず、必然的にこの魔法陣から現れた男性が話しかけているのは瑞歩だろうと結論づけたが、言われた意味が分からず瑞歩は首を傾げた。
「はい。陛下」
「俺は魔王陛下じゃないよ。人違いじゃないかな」
「いえ……。私が、いえ。魔族の誰も陛下を間違うことなどあり得ません」
自信満々のロノエゼトリーに、瑞歩は困惑した。
「そうは言っても、人違いですとしか言いようがないんだけど」
なおも、人違いであることを主張する瑞歩に、ロノエゼトリーは小さく笑った。
「人間で、魔王に選ばれた方は貴方様が初めてです。ですが、貴方様は魔王陛下になる条件をお満たしになられました。その魂の形も申し分ない。これは私たち魔族が崇める魔神陛下の御決定です」
「何だよそれ。今の魔王はどうなってんの? そういうのって、よく分からないけど前の魔王を殺してなったりとか」
瑞歩の言葉にロノエゼトリーはおかしそうに目を細め「くく」と喉を鳴らした。
「まぁ、どのような御伽噺を信じていらっしゃっても、貴方様が魔王陛下として選ばれたことは覆りません。ああ、ですが貴方様が辞退された場合は、強制はできませんが」
そこで言葉を切り、ロノエゼトリーは少し屈んで瑞歩の顔を覗きこんだ。
ミズホの体が小柄であることを考慮してもロノエゼトリーの背はかなりでかい。
「『俺が支配しよう』。そう思われたでしょう? 魔王陛下にぴったりな心がけではありませんか。貴方様が魔王になることに、何の問題もないようにお見受けしますが」
にっこりと微笑まれ瑞歩はたじろいだ。
けれど、瑞歩の目標は言ってしまえば世界征服に他ならない。
無駄な争いや差別などが起きない世の中にするためには多少手荒なことも必要だろう。
「私たち魔族は、貴方様に忠誠をお誓いいたします。貴方様の手となり足となり、働きます」
考えを後押しするようにそう言って微笑むロノエゼトリーに、瑞歩は小さくうなずいた。
「……分かった。これから、よろしく頼む」
「はい」
ロノエゼトリーは花が咲くようにパッと笑顔を見せた。
いきなり貴方は魔王ですなんて言われて“はいそうですか”と信用することはできないが、自分一人で世界征服など簡単なことではない。魔王といえど王という地位や臣下という協力者がいることは何よりも役に立ちそうだ。
「では、これより他の者達にも伝えて参ります。今夜はパーティーですよ。何せ、千年ぶりに選ばれた魔王陛下ですから」
「はい?」
ロノエゼトリーの言葉に驚く瑞歩をよそに、彼はホクホク顔で魔法鳥を呼び出し、紙を持たせた。魔法鳥はキラキラと光って彼が持たせた紙と一緒に目的の場所へと消えていく。
「魔族には、必ずしも王が必要というわけではないのですよ。ですから、ここ千年は魔王の地位は空席でした。ですが、その席が埋まるというのは、長い年月を惰性に過ごす魔族にとってお祝いなのです」
「惰性って」
ちゃんと仕事をしてもらえるのか、瑞歩は不安になった。
「はぁ……。パーティーは明日以降にして。とりあえずここに転がってる奴ら、全部地下牢にぶち込んで。地下牢にいる獣人達は、獣人達の街に送ってやって」
「承知いたしました」
ロノエゼトリーに指示を出すと先ほどまでのお祝いムードを一瞬でかき消して、生真面目に返事を返した。
ーーなんかせっかくお祝いっぽかったのに、水を差したかな。
可哀想なことをしたかもと思ったので、代わりに明日以降に開かれるパーティーとやらは派手にやってもらおうと決意した。
その後、ロノエゼトリーは他の臣下を呼び寄せて、命じた仕事は全てすぐにこなしてくれた。
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