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牢屋

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瑞歩を見ながら口をパクパクとさせ驚いたままのマルコたちを見て面白くなり、瑞歩の怒りも少し落ち着いた。
するとマルコたちの様子も少しずつ落ち着いていった。

「こ、この者を捉えよ!! 牢に入れた後、明日国外追放に処す!」

気を取り直したマルコが叫んだことで、屈強な兵士に両サイドから腕を取られ乱暴に移動させられた。ミズホの体は、小さい頃からの厳しい躾と言う名の虐待によって栄養不足なので、細く背も低く小柄だ。何も兵士2人がかりでなくても押さえつけられるような弱さのミズホの体を、兵士は下卑た笑みを浮かべながら引きずった。

ドサリ

「っ」

硬く冷たいコンクリートのような床に投げ出され、そのままガチャリと牢の鍵を閉められた。

「へへ。今夜はゆっくり休んでおけ。明日から大変だぞ」

兵士が瑞穂を見下ろし、そう言った。
確かに仮にも公爵令息として生きて来た瑞歩が、国外追放になり1人で生きていくとなればかなり大変なことだろう。瑞歩がそう思っていると、兵士は「くくっ」と喉を鳴らした。

「あんた、ここがどういう場所なのかなんも分かってないんだな」
「は……?」
「まぁ、明日になれば……いや、明日にならなくても分かるだろうな」

ニヤニヤと不快になるような笑みを浮かべ、思わせぶりな言葉を吐き、けれど最後までは言わずに兵士は元来た道を帰っていった。

「なんなんだよ」

ポツリと呟けば、コンクリートのような壁に響いた。
ただ、明日になればこんな場所からはおさらば出来るのだと思いながら、大の字に寝転がった。

「ぅ……、ぅ」

微かにだが、誰かの呻き声が聞こえた。
瑞歩の入れられた牢屋からは、他の場所は見えなかったが、城の地下に牢屋が1つとは考えづらい。

「誰かいるのか?」

少し大きめに出した声に、誰も応えることはなく、呻き声すら止まった。

「なぁ、聞いてただろうから分かるだろうけど、俺も今ここに入れられたんだ。呻き声が聞こえたんだけど、大丈夫か?」
「……ぃ」

微かにだが、誰かが何かを呟いた。

「え? 何だって?」
「いたい……痛い。ぅ、もう……やだ。たすけて」

声は幼い。掠れた声は辛そうで、瑞歩は焦った。

「痛いって……、どこが。いや、どうすれば……」

姿すら見せない兵士を大声で呼んだところで、牢の中の者を助けたりはしないだろう。

「……無駄だよ。ここは、魔力がないか、すごく弱い人が集められてる牢なんだ。あんたも、魔力なんてほとんどないんだろ? こいつは後少しで死ぬし、あんたも、ボロボロにされて死ぬんだよ」

痛がっていた子供とは違う声が呟いた。
その声も子供の声だ。

「お前は? どこも痛くないのか? というか、何人いるんだ」
「俺は今日はいつもよりはマシさ。こいつ……ヨキが俺を庇ったから」
「庇った?」
「……この国は、腐ってる。俺たちは何も悪いことなんてしてないのに、捕まえてサンドバッグにして……笑ってる。俺たちが痛がったりするのを、笑って見てるんだ」
「そんな……」

声からも幼さが伝わってくるほどの子供相手だ。
そんな非道なことがあって良いのか。

瑞歩の中に、再び怒りが湧いて来た。
ドクドクと音を立てながら血が騒いでいるような感覚が走る。

「ぅぅぅ」
「……ま、魔力? や、やめてよ。魔力を抑えて……。あんた、なんでそんな魔力があるのに、こんな牢に入れられたの? ヨキの体に障るから、抑えて」

先ほどまで普通に会話していた少年の声が、今度は怯えたように震えて瑞歩に訴えた。

「え……、俺、じゃないよ。俺、魔力はほとんどないって言われてるし」
「ぅ……本当、お願い……」

慌てて答える瑞歩に話していた少年すらも具合が悪そうに呻き出した。

「抑えるったってどうやって」

瑞歩は狼狽ながらも、ミズホの記憶を探った。
ミズホは魔力が弱いなりに、何か知識が使える時がくるかもと、領主教育の合間に魔術書も読み漁っていたようで、魔力の抑え方を思い出した。
魔術書に書いてあった手順通りに抑えてみると、少年が小さく息を吐くのがわかった。

「えっと、大丈夫か? 君が言うように魔力の発信源は俺だったみたい。ごめんな」
「……ううん」

力なく、それでも頷いてくれた少年にホッとする。
それから瑞歩は物は試しにと、魔術書で読んだ強化魔法を自分自身にかけてみた。

そのまま鉄格子を触ると、面白いくらいにぐにゃりと曲がり、瑞歩が出られるほどに穴が開いた。
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