3 / 14
牢屋
しおりを挟む
瑞歩を見ながら口をパクパクとさせ驚いたままのマルコたちを見て面白くなり、瑞歩の怒りも少し落ち着いた。
するとマルコたちの様子も少しずつ落ち着いていった。
「こ、この者を捉えよ!! 牢に入れた後、明日国外追放に処す!」
気を取り直したマルコが叫んだことで、屈強な兵士に両サイドから腕を取られ乱暴に移動させられた。ミズホの体は、小さい頃からの厳しい躾と言う名の虐待によって栄養不足なので、細く背も低く小柄だ。何も兵士2人がかりでなくても押さえつけられるような弱さのミズホの体を、兵士は下卑た笑みを浮かべながら引きずった。
ドサリ
「っ」
硬く冷たいコンクリートのような床に投げ出され、そのままガチャリと牢の鍵を閉められた。
「へへ。今夜はゆっくり休んでおけ。明日から大変だぞ」
兵士が瑞穂を見下ろし、そう言った。
確かに仮にも公爵令息として生きて来た瑞歩が、国外追放になり1人で生きていくとなればかなり大変なことだろう。瑞歩がそう思っていると、兵士は「くくっ」と喉を鳴らした。
「あんた、ここがどういう場所なのかなんも分かってないんだな」
「は……?」
「まぁ、明日になれば……いや、明日にならなくても分かるだろうな」
ニヤニヤと不快になるような笑みを浮かべ、思わせぶりな言葉を吐き、けれど最後までは言わずに兵士は元来た道を帰っていった。
「なんなんだよ」
ポツリと呟けば、コンクリートのような壁に響いた。
ただ、明日になればこんな場所からはおさらば出来るのだと思いながら、大の字に寝転がった。
「ぅ……、ぅ」
微かにだが、誰かの呻き声が聞こえた。
瑞歩の入れられた牢屋からは、他の場所は見えなかったが、城の地下に牢屋が1つとは考えづらい。
「誰かいるのか?」
少し大きめに出した声に、誰も応えることはなく、呻き声すら止まった。
「なぁ、聞いてただろうから分かるだろうけど、俺も今ここに入れられたんだ。呻き声が聞こえたんだけど、大丈夫か?」
「……ぃ」
微かにだが、誰かが何かを呟いた。
「え? 何だって?」
「いたい……痛い。ぅ、もう……やだ。たすけて」
声は幼い。掠れた声は辛そうで、瑞歩は焦った。
「痛いって……、どこが。いや、どうすれば……」
姿すら見せない兵士を大声で呼んだところで、牢の中の者を助けたりはしないだろう。
「……無駄だよ。ここは、魔力がないか、すごく弱い人が集められてる牢なんだ。あんたも、魔力なんてほとんどないんだろ? こいつは後少しで死ぬし、あんたも、ボロボロにされて死ぬんだよ」
痛がっていた子供とは違う声が呟いた。
その声も子供の声だ。
「お前は? どこも痛くないのか? というか、何人いるんだ」
「俺は今日はいつもよりはマシさ。こいつ……ヨキが俺を庇ったから」
「庇った?」
「……この国は、腐ってる。俺たちは何も悪いことなんてしてないのに、捕まえてサンドバッグにして……笑ってる。俺たちが痛がったりするのを、笑って見てるんだ」
「そんな……」
声からも幼さが伝わってくるほどの子供相手だ。
そんな非道なことがあって良いのか。
瑞歩の中に、再び怒りが湧いて来た。
ドクドクと音を立てながら血が騒いでいるような感覚が走る。
「ぅぅぅ」
「……ま、魔力? や、やめてよ。魔力を抑えて……。あんた、なんでそんな魔力があるのに、こんな牢に入れられたの? ヨキの体に障るから、抑えて」
先ほどまで普通に会話していた少年の声が、今度は怯えたように震えて瑞歩に訴えた。
「え……、俺、じゃないよ。俺、魔力はほとんどないって言われてるし」
「ぅ……本当、お願い……」
慌てて答える瑞歩に話していた少年すらも具合が悪そうに呻き出した。
「抑えるったってどうやって」
瑞歩は狼狽ながらも、ミズホの記憶を探った。
ミズホは魔力が弱いなりに、何か知識が使える時がくるかもと、領主教育の合間に魔術書も読み漁っていたようで、魔力の抑え方を思い出した。
魔術書に書いてあった手順通りに抑えてみると、少年が小さく息を吐くのがわかった。
「えっと、大丈夫か? 君が言うように魔力の発信源は俺だったみたい。ごめんな」
「……ううん」
力なく、それでも頷いてくれた少年にホッとする。
それから瑞歩は物は試しにと、魔術書で読んだ強化魔法を自分自身にかけてみた。
そのまま鉄格子を触ると、面白いくらいにぐにゃりと曲がり、瑞歩が出られるほどに穴が開いた。
するとマルコたちの様子も少しずつ落ち着いていった。
「こ、この者を捉えよ!! 牢に入れた後、明日国外追放に処す!」
気を取り直したマルコが叫んだことで、屈強な兵士に両サイドから腕を取られ乱暴に移動させられた。ミズホの体は、小さい頃からの厳しい躾と言う名の虐待によって栄養不足なので、細く背も低く小柄だ。何も兵士2人がかりでなくても押さえつけられるような弱さのミズホの体を、兵士は下卑た笑みを浮かべながら引きずった。
ドサリ
「っ」
硬く冷たいコンクリートのような床に投げ出され、そのままガチャリと牢の鍵を閉められた。
「へへ。今夜はゆっくり休んでおけ。明日から大変だぞ」
兵士が瑞穂を見下ろし、そう言った。
確かに仮にも公爵令息として生きて来た瑞歩が、国外追放になり1人で生きていくとなればかなり大変なことだろう。瑞歩がそう思っていると、兵士は「くくっ」と喉を鳴らした。
「あんた、ここがどういう場所なのかなんも分かってないんだな」
「は……?」
「まぁ、明日になれば……いや、明日にならなくても分かるだろうな」
ニヤニヤと不快になるような笑みを浮かべ、思わせぶりな言葉を吐き、けれど最後までは言わずに兵士は元来た道を帰っていった。
「なんなんだよ」
ポツリと呟けば、コンクリートのような壁に響いた。
ただ、明日になればこんな場所からはおさらば出来るのだと思いながら、大の字に寝転がった。
「ぅ……、ぅ」
微かにだが、誰かの呻き声が聞こえた。
瑞歩の入れられた牢屋からは、他の場所は見えなかったが、城の地下に牢屋が1つとは考えづらい。
「誰かいるのか?」
少し大きめに出した声に、誰も応えることはなく、呻き声すら止まった。
「なぁ、聞いてただろうから分かるだろうけど、俺も今ここに入れられたんだ。呻き声が聞こえたんだけど、大丈夫か?」
「……ぃ」
微かにだが、誰かが何かを呟いた。
「え? 何だって?」
「いたい……痛い。ぅ、もう……やだ。たすけて」
声は幼い。掠れた声は辛そうで、瑞歩は焦った。
「痛いって……、どこが。いや、どうすれば……」
姿すら見せない兵士を大声で呼んだところで、牢の中の者を助けたりはしないだろう。
「……無駄だよ。ここは、魔力がないか、すごく弱い人が集められてる牢なんだ。あんたも、魔力なんてほとんどないんだろ? こいつは後少しで死ぬし、あんたも、ボロボロにされて死ぬんだよ」
痛がっていた子供とは違う声が呟いた。
その声も子供の声だ。
「お前は? どこも痛くないのか? というか、何人いるんだ」
「俺は今日はいつもよりはマシさ。こいつ……ヨキが俺を庇ったから」
「庇った?」
「……この国は、腐ってる。俺たちは何も悪いことなんてしてないのに、捕まえてサンドバッグにして……笑ってる。俺たちが痛がったりするのを、笑って見てるんだ」
「そんな……」
声からも幼さが伝わってくるほどの子供相手だ。
そんな非道なことがあって良いのか。
瑞歩の中に、再び怒りが湧いて来た。
ドクドクと音を立てながら血が騒いでいるような感覚が走る。
「ぅぅぅ」
「……ま、魔力? や、やめてよ。魔力を抑えて……。あんた、なんでそんな魔力があるのに、こんな牢に入れられたの? ヨキの体に障るから、抑えて」
先ほどまで普通に会話していた少年の声が、今度は怯えたように震えて瑞歩に訴えた。
「え……、俺、じゃないよ。俺、魔力はほとんどないって言われてるし」
「ぅ……本当、お願い……」
慌てて答える瑞歩に話していた少年すらも具合が悪そうに呻き出した。
「抑えるったってどうやって」
瑞歩は狼狽ながらも、ミズホの記憶を探った。
ミズホは魔力が弱いなりに、何か知識が使える時がくるかもと、領主教育の合間に魔術書も読み漁っていたようで、魔力の抑え方を思い出した。
魔術書に書いてあった手順通りに抑えてみると、少年が小さく息を吐くのがわかった。
「えっと、大丈夫か? 君が言うように魔力の発信源は俺だったみたい。ごめんな」
「……ううん」
力なく、それでも頷いてくれた少年にホッとする。
それから瑞歩は物は試しにと、魔術書で読んだ強化魔法を自分自身にかけてみた。
そのまま鉄格子を触ると、面白いくらいにぐにゃりと曲がり、瑞歩が出られるほどに穴が開いた。
21
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
BL学園の姫になってしまいました!
内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。
その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。
彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。
何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。
歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる