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ご主人様視点 3

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そんな中、私の出張中に妻だった女が帰ってきたらしい。
使用人からの嬉しそうな声での連絡でそれを知り、そのすぐ後に方一に取り付けたGPSが屋敷から出ていった。

大人しく屋敷で待っていると約束した方一が、屋敷から出たのだ。
どす黒い感情が腹の奥で渦巻いた。

空港からすぐに屋敷に引き返した。

「方一……。方一。私から逃げるなど許さない。私は忠告したはずだ。もしも逃げたら必ず見つけ出して、その手足を取ってしまうと」

運転手にはGPSの位置情報で場所を指示し、古くからの友人に電話をして方一の手術の予約を取った。
GPSが示していたのは橋だった。
近くで暖かいココアを買い中に薬を入れてから橋の下に降りれば膝を抱えて寒そうに丸くなった方一がいた。

「方一」

呼び掛ければ、顔を上げ私を見て目を丸くさせた。

「ご……ご主人様」

悪いことをしたという自覚があるのか、声を震わせる方一のもとにゆっくりと近づいた。

「私は家でおとなしくしておくように言ったよね?」
「ぁ……だ、だって……。あ、れ、出張は、あと1週間はこの辺りにい、いらっしゃらないはずじゃ」

分かっていて、私のいない間に屋敷から出たのだから確信犯だ。

「そう。そのはずだったけどね。君につけたGPSが家から離れたのを確認して、すぐに戻って来たんだよ」
「GPS ……?」

方一。君は私から逃げることなど出来はしない。

「方一が身につけているものがあるでしょう? ピアスにも、貞操帯にもGPSはつけてある。言ったでしょう。君がもしも逃げたとしたら、必ず見つけ出してその手足を取ってしまうよ。とね」

方一は私の言葉で顔を青くした。
怯えている様子の方一は可愛いが、今回のことは許すつもりはかけらもない。

「で、でも、ご主人様には、姉が……。屋敷に、姉が戻ってきたんです」

だからなんだと言うのだ。
アレが帰ってきたからと言って方一が私から解放される未来などあるわけがないのに。
ともかく、アレがいるから方一が出ていくのだと言うのなら、屋敷から出ていってもらわなければいけないな。

方一はこれから手足を失うのか。
可哀想に。
だが、手足を失った方一もとても可愛いだろうな。

「さぁ、病院に行こうか。大丈夫、痛くないようにしてくれるはずだ」
「な……なに、を」
「君は頭が悪くて本当に可愛い。だが、私から逃げ出そうとするのは良くないね。方一がもう二度とそんな間違いを犯すことがないように、不必要なものは取ってあげるんだよ」
「ぁ……い、いやです。ごめんなさい! 大人しく帰るからっ」
「方一は、今朝大人しく家にいるように言った私の言葉に“はい”と返事をしたね。でも、大人しく家には居ないで、こうして家出をした」
「あ……ご、ごめんなさい、もうしない、もう二度と屋敷から出たりしない、から」

謝れば許してもらえると思っているのなら、私も舐められたものだな。

「ふっ。はは。私に、そんな懇願が通用すると思うかい?」

本当に、本当に、方一は愚かで、愛くるしいな。

「さぁ、これを飲みなさい」

睡眠薬入りのココアを渡すと、中に何かが入っていると分かった方一は、けれど意を決したように飲み始め、ふっと体から力を抜いた。倒れないようにすぐに抱え上げ病院に運び、すぐに手術は行われた。

やはり、手足を失った方一はとても可愛かった。
妊娠中は優しく抱いたし、出産中も存分に愛した。

けれど、慶太が歩けるようになり、方一のお腹の中で明日香が大きくなってきた頃、それは起こった。

屋敷に侵入者が入り、方一が襲われたのだ。
奴らは、私の元妻が帰ってきたことを喜び、方一が家出した際に気がつくこともできなかったため解雇した連中だ。もちろん、森の中にも監視カメラは設置していたが、普段方一がそちらに行くことはなかったため使用することはあまりなかった。
だが、そこで襲われている方一を見て、私は急いで屋敷に戻った。
イヤホンで音声を聴きながら庭を走り方一の元へ向かう。
イヤホンからは過呼吸のような症状を出しながら、必死で私に助けを求める声が聞こえてきた。

助けなければ。

助けなければ。

それしか頭になかった。

『ごしゅ、じんさま。慶太と、お腹の子をどうか、よろしくお願いします』

諦めたような声で私に子供達を託す方一の声。

助けなければ。

けれど、駆けつけて男達を蹴り飛ばした私に、方一は言った。

「ああ……。僕、一度でいいから、あなたに大事に……抱かれてみたかった」

方一の体からスッと、力が抜けたのを見て、ドッと心臓が早まるのを感じた。

なんだ、それは。

私は、方一を大切に抱いていただろう。
愛していただろう。

方一、方一。

死にかけて、最後に願うことが子供達のことと、それか?

最後にそう思わせるほどに方一にとって私とのセックスはそれほどまでに辛いものだったのか?

いや、そんなこと今考えている場合ではない。とりあえず方一を病院に連れていかなければ。
病院に連れて行き、手当てをしてもらい家に連れ帰ってからも、私はずっと考えた。
けれどどうすれば正解だったのか私には分からない。

方一が寝ている間に、明日香を取り上げ、明日香も問題なくスクスクと育った。私は毎日のように方一に語りかけた。

大切に抱くということがどう言うことなのか分からないこと。
慶太や明日香は元気に過ごしていること。
愛していること。
その日にあった出来事。
なんでも話した。

そんな日々が日課になり5年ほど経ったある日、方一は突然目を覚ました。
信じる神などいないが、この時は思わず神に感謝した。

もう二度と、失敗はしない。

大切に抱くというのが分からない私は、とりあえず方一の体に少しも負担がかからないように、方一がイッったら終わりにすることにした。

方一を傷つけないように。
きっと、大切に抱くと言うのはこういう感じなのだろう?

私は分からないなりになんとか方一の望む形を取ろうと必死だった。
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