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姉サイド1

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オメガの名門である実家に生まれた私は、いわゆる勝ち組というやつ。
だって12歳年下の弟は幼い頃の検査でベータと診断され、早々に捨てられた。
私は自分でも自覚するほどに甘やかしてもらったし、多少の体の弱さはあったけど周りの人にはいつも気を使われていた。

旦那様と結婚したのは政略結婚だったけど、欲しいものは何でも与えてくれるのは変わらなかったし、セックスも乱暴にされたりせずちゃんと大事に愛してくれた。
旦那様はアルファらしく優秀で、若くしていくつかの会社の社長をしているような人で、見目も美しく、私の相手として申し分なかった。

旦那様は常に優しかったし、大切にしてくれてると思ってはいたけど、私の中にはずっと何か物足りなさがあった。
そんな日々の中、私は出逢ってしまった。
相手はベータの男で、1人でショッピングを楽しんでいた中の1つのお店の店員だった。
連絡先を渡されて、連絡をとって、デートを楽しんで、私は彼にのめり込んだ。
旦那様に隠れてホテルにもしょっちゅう行ったし、泊まりで旅行に行ったこともある。
女オメガの私は、ベータの男の子供を身籠る可能性はある。
だからきっちりと避妊して、楽しむだけ楽しんでいた。

そんな風に毎日を楽しく過ごしているときに、弟がどこかの資産家に引き取られたらしいと両親から連絡を受けた。私はそんなことはどうでもよかったけど、両親は惜しいことをしたと後悔していた。
ベータだとしても気に入った子を引き取る物好きなアルファがいるけれど、まさかあの地味な弟がそうなるとは思ってなかったらしい。国が運営する孤児院で、調べても引き取り先の情報は資産家であるということくらいしか分からなかったと両親はうなだれていた。

そんなある日、普段、私の言うことを何でも笑って『そうなんだね』『そうか』とうなずくだけの少々詰まらない性格の旦那様に、弟の話を振られた。

「君には弟がいたんでしょう?」
「え? ああ。おりました。けど、ベータでしたのですぐに孤児院に捨てられました。もしかしたら今頃は孤児院からも捨てられてるかもしれません」

何の役にも立たないベータの弟だ。引き取った資産家にも捨てられている可能性の方が高いだろう。だったら孤児院に捨てられたも同じだ。

「ベータだとしても弟でしょう。心配などはないのかい?」
「心配なんてそんな。ふふ。旦那様はおかしなことをおっしゃるのですね。あの子は何の役にも立たない存在だから捨てられたのに」
「役に立たないわけがない」

ボソリと呟いた旦那様は、いつもの柔和な感じがなくとても冷たい目をした。
けれどそれも一瞬で、そのあとは旦那様自身が自分の発言に驚いたような顔をした。

「ベータなんて何の役にも立たないでしょう? 少なくとも私の実家ではそうでした」
「そうか……。それは今君が付き合っている彼にも同じことを言えるのかい?」
「え……?」

優しく微笑んで首を傾げる旦那様に一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「ああ。まさか気がついていないとでも思っていた? そうだろうね。君はそんな状況を楽しんでいたようだから……。私はね、気がついていたよ。そう言ったことを報告してくれる人たちがいるからね。まぁ、その人たちがいなければ私が知ることもなかっただろうけど」

報告してくる人がいなければ気がついていなかったなんて、やっぱり旦那様は仕事が出来てもどこか抜けてる。浮気されても怒りもしない。物足りない詰まらない男だ。けれどそれでも周りの誰もが羨む相手。金はあり何でも買い与えてくれるこの人を逃すわけにはいかない。

「ほ、ほんの出来心だったんです。私には旦那様だけ……。信じてください」

こうやって涙目で弱々しく縋っていれば大体は許してもらえる。

「気にしないで?」

ほら、現に旦那様は微笑んで私を見ている。

「私は、君がどう過ごそうが、誰と遊んでいようが興味がないのだから。君は今まで通り遊んでいてくれて構わないんだよ?」
「え?」
「むしろね、君には感謝している。君と結婚し、君がお遊びをしてくれていたおかげで、その報告とともに、私は宝物を見つけてしまった」

旦那様はいつもの柔和な笑みではなく、どこか仄暗い……、けれど心の底からに見える笑い方をした。その時、私は唐突に気がついた。
旦那様が私に優しいのは、私を大切に思っているからではない。
ただ、私に興味がなかっただけなんだ。
あのいつも穏やかな笑顔や返事は、ただの他人に対する反応と同じなんだ。
私は旦那様の心を手に入れていなかった。
それなのに、不倫をしてバレるかバレないかのそのスリルを味わった気でいた。
そのことに気がついた時、私の心には焦燥にかられた。
旦那様は私の不倫に気がついても、結局は優しく笑って許してくれると思っていた。
そしてその考えは間違ってはいないだろう。
私の考えていたような理由ではないけど。

だけど、私を好きにならないのは、私のプライドが許さない。
いや、旦那様は気がついていないだけだ。
自分の感情にきっと疎いのだろう。
旦那様は私を好きなことに自分で気がついていないだけ。

私が屋敷からいなくなれば、この私にかけらも興味を示していないように見える旦那様も少しは焦ったりするだろうか。私がいなくなれば私の事が本当は好きだったのだと、この鈍い旦那様でも気がつくんじゃないの?
そうだ。屋敷を抜け出して、旦那様が迎えにくるのを待っていてあげよう。
そう思い私は屋敷を抜け出した。
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