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最近、真樹というオメガの患者から、やたらとストーカー行為をされはじめ、俺と結城とのデートはうまく行かないことが多くなった。
だが、あの妙に騒がしい感じはどこか既視感があって、どこか懐かしい気持ちになる。
最近、夢の中で誰だか分からないが先生、先生と俺を必死に呼ぶ声がする。
真樹のことは全く覚えていないが、あの騒がしさはそれに近い気がした。
それは誰の声なのかノイズがかかったようにはっきりしないが、それはきっと記憶をなくす前の俺の記憶で、とにかく俺はその声の主を愛しく思っているんだ。
あの声の主は、真樹なのだろうか。
けれども、今の俺はどうしようもなく結城が気になっている。
結城の指輪を贈った人物が俺だったのならどれだけ良かったか。
けれど、それならそうだと俺に伝えるだろうから、結城の相手が俺などとはありえない。
「先生やっぱりその人と付き合ってんの?」
そう聞いたのは俺と結城の花見デートの邪魔をした真樹だった。
「いや、付き合ってはねぇな」
俺のその答えに、真樹は気色満面の笑みで俺を見た。
「じゃあさ、俺が泉センセの恋人に立候補してもいい!?」
可愛らしい顔を作っているつもりか分からないが、その顔は自信に満ち溢れていて、まさか断られるなんて思ってもいないような顔だ。俺はこんな扱いにはうんざりなのに、記憶を無くす前の俺は、本当にこいつのことを愛しいと思っていたのだろうか。
「真樹には婚約者がいるだろ?」
「そんなの、親が勝手に決めたことじゃんっ。俺はセンセと結婚したいの。いーだろー? センセも満更でもないんじゃないの? だって俺ってこんなに可愛いんだから」
記憶をなくす前の俺なら、喜んでいたのだろうか。
今の俺からしたらただただ不愉快で仕方がない。
けれど、何か言わなければここから立ち去らないだろう相手に、俺は苛つきを最大限に抑えながら答えた。
「あー、そうだな。お前があと2年経ってそう思ってたら考えてやらんでもない」
その時になって俺の記憶が戻っていて、こいつのことが好きだったらそれで良いし、戻ってなかったら、考えた上で断れば良い。まぁ、どうせ2年もしないうちに俺に飽きるだろうが。
そんなことを考えながら喜び勇んで去っていく真樹を見送っていると、シャツの裾を遠慮がちに引っ張られた。
振り返ると、結城が悲しそうな顔で俺を見ていた。
「ん? どうした」
「先生、2年経ったらあの子と結婚するの?」
「ああ、2年経っても俺のこと好きなままなんてありえねぇだろ? ああ言っておけばしばらく静かに過ごせるかと思ってな」
あけすけにそう言えば、結城は少しだけショックそうな顔をした。
もしかしたら31歳の俺はもう少し紳士な振る舞いをしていたのかもしれない。
「俺、やだよ。先生があの子と結婚するの。俺も先生のことが好きだから」
「え?」
突然のことに、耳から入ってきた情報が頭に伝達されるのに少し時間がかかった。
「俺はずっと先生のことが好きだよ。先生が初恋だし、これから先も先生以外好きにならないと思う。だから、俺のこと真剣に考えてよ」
結城は真剣な目をしていた。
だが、全くもって頭は追いついていなかった。
だったら、その指輪を贈ったのは誰だ。
俺だったとしたら、なぜ言ってくれない?
やっぱり俺じゃないんじゃないか。
分からない。頭が爆発しそうだ。
「結城……」
「俺の名前、覚えてくれてたんだ先生」
結城がほのかに笑った。けれど、みるみるその口の端が歪んでいった。
「どうせなら、静って呼んでほしい」
懇願するような、切ない声に、俺の思考はますます追いつかない。
「しず、か」
「うん、返事は急がないから、俺のこと真剣に考えてよ」
俺はその言葉に甘えるように、分かったとしか言えなかった。
だが、あの妙に騒がしい感じはどこか既視感があって、どこか懐かしい気持ちになる。
最近、夢の中で誰だか分からないが先生、先生と俺を必死に呼ぶ声がする。
真樹のことは全く覚えていないが、あの騒がしさはそれに近い気がした。
それは誰の声なのかノイズがかかったようにはっきりしないが、それはきっと記憶をなくす前の俺の記憶で、とにかく俺はその声の主を愛しく思っているんだ。
あの声の主は、真樹なのだろうか。
けれども、今の俺はどうしようもなく結城が気になっている。
結城の指輪を贈った人物が俺だったのならどれだけ良かったか。
けれど、それならそうだと俺に伝えるだろうから、結城の相手が俺などとはありえない。
「先生やっぱりその人と付き合ってんの?」
そう聞いたのは俺と結城の花見デートの邪魔をした真樹だった。
「いや、付き合ってはねぇな」
俺のその答えに、真樹は気色満面の笑みで俺を見た。
「じゃあさ、俺が泉センセの恋人に立候補してもいい!?」
可愛らしい顔を作っているつもりか分からないが、その顔は自信に満ち溢れていて、まさか断られるなんて思ってもいないような顔だ。俺はこんな扱いにはうんざりなのに、記憶を無くす前の俺は、本当にこいつのことを愛しいと思っていたのだろうか。
「真樹には婚約者がいるだろ?」
「そんなの、親が勝手に決めたことじゃんっ。俺はセンセと結婚したいの。いーだろー? センセも満更でもないんじゃないの? だって俺ってこんなに可愛いんだから」
記憶をなくす前の俺なら、喜んでいたのだろうか。
今の俺からしたらただただ不愉快で仕方がない。
けれど、何か言わなければここから立ち去らないだろう相手に、俺は苛つきを最大限に抑えながら答えた。
「あー、そうだな。お前があと2年経ってそう思ってたら考えてやらんでもない」
その時になって俺の記憶が戻っていて、こいつのことが好きだったらそれで良いし、戻ってなかったら、考えた上で断れば良い。まぁ、どうせ2年もしないうちに俺に飽きるだろうが。
そんなことを考えながら喜び勇んで去っていく真樹を見送っていると、シャツの裾を遠慮がちに引っ張られた。
振り返ると、結城が悲しそうな顔で俺を見ていた。
「ん? どうした」
「先生、2年経ったらあの子と結婚するの?」
「ああ、2年経っても俺のこと好きなままなんてありえねぇだろ? ああ言っておけばしばらく静かに過ごせるかと思ってな」
あけすけにそう言えば、結城は少しだけショックそうな顔をした。
もしかしたら31歳の俺はもう少し紳士な振る舞いをしていたのかもしれない。
「俺、やだよ。先生があの子と結婚するの。俺も先生のことが好きだから」
「え?」
突然のことに、耳から入ってきた情報が頭に伝達されるのに少し時間がかかった。
「俺はずっと先生のことが好きだよ。先生が初恋だし、これから先も先生以外好きにならないと思う。だから、俺のこと真剣に考えてよ」
結城は真剣な目をしていた。
だが、全くもって頭は追いついていなかった。
だったら、その指輪を贈ったのは誰だ。
俺だったとしたら、なぜ言ってくれない?
やっぱり俺じゃないんじゃないか。
分からない。頭が爆発しそうだ。
「結城……」
「俺の名前、覚えてくれてたんだ先生」
結城がほのかに笑った。けれど、みるみるその口の端が歪んでいった。
「どうせなら、静って呼んでほしい」
懇願するような、切ない声に、俺の思考はますます追いつかない。
「しず、か」
「うん、返事は急がないから、俺のこと真剣に考えてよ」
俺はその言葉に甘えるように、分かったとしか言えなかった。
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