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マンションに着き、荷物をまとめている間もポロポロと涙がこぼれた。
前回このマンションを出た時は、先生が神楽坂先生とよりを戻せると思った時だった。
あの時の俺はまだ、先生が恋人に向ける暖かい眼差しも、恋人に触れる優しい手も、何も知らなかった。だから、先生から離れるなんて出来たんだ。
今俺は、その幸せを知っているのに、ここから離れなければいけない。
身が引き裂かれるような思いだった。
それでも先生のために、自分のものを何一つ残さずこの部屋から出なければいけないと思ったけど、端から俺のものなんて対してない。先生が買ってくれた服などは、どれも俺に見合わないほどの値段のものたちだけど、それらは全てボストンバック1つに収まる程度の量だった。
それでもキッチンなどの収納スペースを1つずつ開けて、自分のものが残っていないか確認した。
「ぁ……」
そこには包装されたプレゼントらしきものが隠されていた。
その包装紙は有名なオメガ用品ブランドのもので、その大きさ的におそらく中身はチョーカーだろうことがわかる。
「そっか、もう2人はそこまで……」
これを先生から贈られるのは、俺のはずだったのに。
真樹に贈られるだろう品を確認してしまって心の底からショックだった。
「先生……、先生…ぅぅ」
泣いて、泣いて、疲れて、いつの間にか眠っていた。
プルルルル
マンション内の固定電話が鳴り響き、目を覚ますと部屋の中は真っ暗で妙に寒々しい。
それにしても今時、固定電話がある家も珍しいと思う。
現に、この音を聞いたのもここに住み始めてから1、2回あるかないかだけど、それが今鳴っている。
「はい」
『ああ、結城君。良かった、家にいたんだね』
「神楽坂先生?」
『泉が目を覚ましたから連絡しようと思って』
「そうですか。良かった」
目を覚さないと思っていた訳じゃないけど、やっぱり目を覚ましたと聞くとホッとするし嬉しい。
『今日はもう遅いし、お見舞いに来るなら明日の』
「神楽坂先生」
先生の言葉を遮るように呼びかけたけど、特に気分を害した様子もなく『ん? なんだい?』と返事をしてくれた。
「先生の、スマホの中に真樹という人物がいるはずです。苗字は分からないけど、お見舞いの件はその人に連絡してもらえませんか? 俺はもう行かないといけませんから」
『え、行くってどこに?』
「俺にも分からないんです。とにかく、ここを出ないと」
『え、ちょっと待って何を』
神楽坂先生が何か言っていたけれど、受話器をおいた。
途端に静かになった部屋の中で俺だけが異物のように感じる。
ボストンバックを肩にかけ、部屋を出た。
薬指にはまった指輪を撫でて、よしっとを気持ちを奮い立たせて、1人での当てもない旅へと出発した。
前回このマンションを出た時は、先生が神楽坂先生とよりを戻せると思った時だった。
あの時の俺はまだ、先生が恋人に向ける暖かい眼差しも、恋人に触れる優しい手も、何も知らなかった。だから、先生から離れるなんて出来たんだ。
今俺は、その幸せを知っているのに、ここから離れなければいけない。
身が引き裂かれるような思いだった。
それでも先生のために、自分のものを何一つ残さずこの部屋から出なければいけないと思ったけど、端から俺のものなんて対してない。先生が買ってくれた服などは、どれも俺に見合わないほどの値段のものたちだけど、それらは全てボストンバック1つに収まる程度の量だった。
それでもキッチンなどの収納スペースを1つずつ開けて、自分のものが残っていないか確認した。
「ぁ……」
そこには包装されたプレゼントらしきものが隠されていた。
その包装紙は有名なオメガ用品ブランドのもので、その大きさ的におそらく中身はチョーカーだろうことがわかる。
「そっか、もう2人はそこまで……」
これを先生から贈られるのは、俺のはずだったのに。
真樹に贈られるだろう品を確認してしまって心の底からショックだった。
「先生……、先生…ぅぅ」
泣いて、泣いて、疲れて、いつの間にか眠っていた。
プルルルル
マンション内の固定電話が鳴り響き、目を覚ますと部屋の中は真っ暗で妙に寒々しい。
それにしても今時、固定電話がある家も珍しいと思う。
現に、この音を聞いたのもここに住み始めてから1、2回あるかないかだけど、それが今鳴っている。
「はい」
『ああ、結城君。良かった、家にいたんだね』
「神楽坂先生?」
『泉が目を覚ましたから連絡しようと思って』
「そうですか。良かった」
目を覚さないと思っていた訳じゃないけど、やっぱり目を覚ましたと聞くとホッとするし嬉しい。
『今日はもう遅いし、お見舞いに来るなら明日の』
「神楽坂先生」
先生の言葉を遮るように呼びかけたけど、特に気分を害した様子もなく『ん? なんだい?』と返事をしてくれた。
「先生の、スマホの中に真樹という人物がいるはずです。苗字は分からないけど、お見舞いの件はその人に連絡してもらえませんか? 俺はもう行かないといけませんから」
『え、行くってどこに?』
「俺にも分からないんです。とにかく、ここを出ないと」
『え、ちょっと待って何を』
神楽坂先生が何か言っていたけれど、受話器をおいた。
途端に静かになった部屋の中で俺だけが異物のように感じる。
ボストンバックを肩にかけ、部屋を出た。
薬指にはまった指輪を撫でて、よしっとを気持ちを奮い立たせて、1人での当てもない旅へと出発した。
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