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救急車には同乗できたけど、病院に到着して手術室に運ばれても俺に何も知らせてもらえることはなかった。
まだ先生と結婚していない俺は他人だからだ。
幸い先生が週一で勤務している病院へ搬送が決まったので、先生の個人情報や飲んでいる薬の有無などは俺が分からないところまですぐにわかる。
でも、悔しかった。
先生が手術室からまだ目を覚ましていない状態で出てきても、俺はそれが無事なのかどうかも教えてもらえないから。

先生が目を覚ましてくれさえすれば、俺は病室に入れてもらえる。
先生の状況が教えてもらえる。

「生きてるよね……。先生、死なないよね」

俺は毎日先生のお見舞いに行った。
病室には入れてもらえないから先生の病室のある部屋の窓を中庭から何回も見上げた。

「結城くん」
「かっ、神楽坂先生」
「ごめんな、結城くん。本当ごめん。謝って済む問題じゃないけど、うちのが泉を」
「神楽坂先生。やつれてますね。ちゃんと寝てますか?」
「結城くん」
「……神楽坂先生のせいじゃないです。俺が彼を煽ってしまったから、俺のせいです」

神楽坂先生は、君は優しいねとやつれた顔で大きく息を吐いた。

「泉はまだ目を覚ましていないんだって?」
「はい。それで俺はまだ先生と結婚してないから、病室に入れてもらえないんです。先生はちゃんと生きているんですよね」
「生きてるよ。大量に出血していたらしいけど脳に異常も出ていない。目が覚めるのも時間の問題だ」
「そうですか、よかった」

ここ数日で不安だった気持ちが少しだけ落ち着いた。
でも先生の顔を見てないから、やっぱりまだ不安が大きい。

「結城くんの身元は俺が保証するから、泉の近くに居てやってくれ」
「え……いいんですか」
「それが今俺にできる唯一の償いだからね。ほら、行っておいで。看護師たちには話を通してあるから」

神楽坂先生はそう言って、俺の背中を押してくれた。

「あ、ありがとうございます」

はやる気持ちを抑えて、神楽坂先生に頭を下げ、廊下を走らないように先生の病室まで急いだ。
扉を開けると、先生が静かに眠っていた。
頭に包帯を巻かれ、点滴を繋がれているけれど、近づいたらスー、スーと寝息が聞こえた。

「先生……」

ベットの横の椅子に座り点滴の繋がれていない左手を取るとちゃんと暖かかった。
先生が生きていることがやっと実感できて心の底から安心できて、ドッと体から力が抜けた。
知らず知らずのうちに体がずっと緊張していたらしい。
先生は病院に仕事に行く際などは基本的に抑制剤を飲んでいるから、普段あんまり匂いがすることがない。それが今、抑制剤を飲めないから先生の匂いが抑えられていない。
消毒液や病室の無機質なシーツの匂いに混じり、先生の匂いがほのかに香る。

その香りに包まれて、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
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