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「受け取ってくれてありがとよ。これからもよろしくな」
「こ、こちらこそ」

俺は幸せだ。
先生に好きだとか愛してるとか言ってもらえて、結婚までしてもらえるなんて、俺めちゃくちゃ幸せだ。
だけど俺はハッとした。

俺先生を幸せにできてるんだろうか。
いや、できてない。
俺は先生に何もできてない。

俺は先生が眠ってしまったのを見計らって急いでスマホで調べた。
彼氏をメロメロにする方法をだ。

「小首をかしげる……上目遣い……耳元でこそこそ話……裾を引っ張る……手を繋ぐ……そっか、自分からスキンシップを取るといいのか」

けど、いざそうなると難易度高いなぁ。
だって最近は先生が隙あらばスキンシップをしようとするから。
でも、先生が俺を好きになってくれたと言うのならば、俺は先生に飽きられないようにアピールしなくては。そして、いつかはこのうなじを噛んでもらって、番にしてもらうんだ。

神楽坂先生のことは頭の隅に追いやって俺は先生をメロメロにする作戦を始めることにした。

「先生、おはよ」
「んっ……おはよう」

先生よりも少し早く起きて食事を作ってベットに戻り、先生がモゾモゾと起きようとしている時にキスをした。
先生は薄らと目を開けて、寝起きの細くなった目をさらに細めて笑った。

「どうしたんだ? 今朝はサービスがいいな」
「だって、これ、嬉しかったから」

指にハマった指輪を見せると、先生はそうかと俺の頭にポンと一回手を乗せて、立ち上がった。

「さ、飯にするか」
「うん。今日はポトフとパンだよ」
「朝から豪華だな」
「ひひ、でしょ」

ポトフは冷蔵庫の中にウィンナーとジャガイモとブロッコリーが入っていたので、全部茹でてコンソメを入れただけだ。すごく簡単だけど、野菜も採れて良い。

「先生、好き」
「俺は静を愛してる」
「っ」

前に先生に好き好き言っていた時は返ってこなかった言葉で、最近は先生が俺に一方的に言ってくれていることが多い言葉だ。こんなやりとりを朝からするのは慣れていなくて、自分から仕掛けたくせに言葉につまってしまった。
けれど先生はそんな俺の様子を気にした風もなく爽やかに笑っている。

「しかし良いな。朝から静に好きだと言ってもらえるのは」

先生はそう言って上機嫌に朝食を食べ始めた。
今の先生は無敵だ。
この家に最初に住まわせてもらっていた頃の先生とはまるで別人みたいに吹っ切れた顔をしている。

先生はそのまま食事を摂り終わりスーツに着替えて仕事に行く時間になってしまった。

「静」
「んっ、せんせぇ」
「行ってきますのちゅーだ。俺たちは結婚するんだし、こんくらいしても良いだろう?」
「ぅ…でも……恥ずかしくない……? その、バカップルみたいで」
「バカップル大いに結構だろう。俺ぁ、静に触りたいしな」
「ほ、本当に先生? 中身入れ替わってたりしない?」

あまりにも先生っぽくないから不安になってきてしまった。
もちろん、別人に入れ替わってるなんてことを本気で思っているわけじゃないけど。
でも行ってきますのちゅーって、全然先生のキャラじゃないし。

「こんな俺は嫌か?」

小首を傾げた先生に、上目遣い気味に見られてドキっと心臓が跳ねた。
先生の方が圧倒的に身長も高いのに、不安げな大きなクマみたいなこんな可愛らしい仕草はずるい。

「嫌じゃない」
「そうか。今日も早く帰れると思うから、夕飯楽しみにしてるな」
「うん! 気をつけて。いってらっしゃい」
「行ってきます」

先生がにこやかに出勤してから俺は思い出していた。
昨日スマホで調べた彼氏をメロメロにする方法の中に、小首を傾げるだとか、上目遣いをするだとかがあったことを。
前々からそうだとは思っていたけれど、あれを素でやっているのだとしたら、先生はやっぱり相当な人誑しだ。
それも、普段は粗暴な態度で隠しているのがさらに質が悪い。ギャップ萌というものを狙った所業としか思えなかった。
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