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先生の献身的な介護もあって、俺はかなり回復した。
話していても肋骨は痛まないし、自分で車椅子に乗れるようになってからはかなり快適になった。
翔太も、トラさんも、先生に頼んだらすぐに連絡してくれて、すぐにお見舞いにきてくれた。
それぞれのタイミングで来てくれたところ、同じタイミングになったと言う偶然で、俺の病室はいつもより賑やかになった。
「シカちゃん。本当、あんた急に帰ってこなくって心配したんだから!」
トラさんは目に涙を溜めながら俺を怒って、それから抱き寄せてくれた。
母親がいたらこんな感じなのかな。いや、お姉ちゃんくらいにしておかないと怒られるかな。
「すみません、トラさん」
「ツルちゃんもネコちゃんも、とっても心配してたわよ。まだ大勢で来るのは迷惑かもしれないから今日はあたしだけだけど……とりあえず、無事そうでよかったわ」
「治ったら俺が復帰する席はありますか?」
恐る恐る尋ねると、トラさんは当たり前でしょと声を震わせた。
その後ろで、翔太が存在を消すように縮こまっていた。
「翔太、翔太も来てくれてありがとう。焼肉はまた当分先になっちゃったけど、ごめんな」
「気にしないでよ! 静が無事で居てくれただけで俺は嬉しい」
翔太はトラさんがいることで緊張しているように見える。
「翔太、この方は俺のバイト先のオーナーさんのトラさんだよ」
「トラさん……翔太です。よろしくお願いします」
「翔太ね、かわいいじゃない。うちに働きに来ない?」
「トラさん、翔太はまだ子供ですよ」
「ふふ、冗談よ」
トラさんはアルファだけど、気取らない態度だからか翔太はその後すぐに緊張を解いて、意気投合していた。
「それでシカちゃん、いつ頃退院出来そうなの? 退院してもしばらくお店復帰は無理だろうけど、生活するのにサポートが必要でしょ?」
「自分のことは自分で」
出来ると答えようとした時、扉がガラリと開いた。
「なんの話だ?」
「あ、先生。俺って退院いつになりそう?」
「あー? まだあと1ヶ月は安静にしてもらわねぇと」
「おっけー。1ヶ月後ね。色々サポートできるようにしておくわ」
先生の答えに、トラさんがそう答えると、先生は訝しげに俺の方を見た。
「何のサポートだ?」
「職場復帰。1ヶ月後にすぐすぐは始められないから迷惑はかけちゃうけど」
先生は低く唸ってから俺のとこまで近づいてきて、ベットに座ってる俺の後ろに体を滑り込ませ、後ろから俺を抱きしめた。
「退院後は、俺の家に戻って来てくれ。頼む」
「え、でも、トラさんとこは住み込みだし」
「だから、俺のとこで家事してくれ。報酬は言い値で払うから……頼む。離れたくない」
「えっ」
部屋にいる時も、先生は愛してるとか好きとか言ってくれるようにはなったけれど、こんなふうに甘えたようなことを言われるのは初めてだった。
「言い値なんて良いじゃない! 時給2千円でどうかしら!」
「なんであんたが決めるんだ」
先生はトラさんを胡乱げに見やって、そう言った。
「だって、シカちゃんは良い子だから最低賃金……下手したらそれ以下で働きそうじゃない」
先生とトラさんの間で勝手に話が進んでいっているようで俺は焦った。
「トラさんっ、俺、先生のとこで働くって言ってない」
「あら、この男のとこに居るの嫌なの?」
トラさんは楽しげに俺を見て笑った。
「い、嫌なわけないけど」
「じゃあ良いじゃない。決まりね。あたしのことは気にしないで。シカちゃんが居なくなるのは寂しいけど、従業員に関してはきっとなるようになるわ」
「時給は……3千円出す。だから頼む」
「先生、3千円って俺に何する気」
冗談でそう言うと、先生は“そんなつもりで言ったんじゃない”と慌て、トラさんは“やっらし~”とからかった。翔太は顔を真っ赤にしてペットボトルのお茶をがぶ飲みしていた。
話していても肋骨は痛まないし、自分で車椅子に乗れるようになってからはかなり快適になった。
翔太も、トラさんも、先生に頼んだらすぐに連絡してくれて、すぐにお見舞いにきてくれた。
それぞれのタイミングで来てくれたところ、同じタイミングになったと言う偶然で、俺の病室はいつもより賑やかになった。
「シカちゃん。本当、あんた急に帰ってこなくって心配したんだから!」
トラさんは目に涙を溜めながら俺を怒って、それから抱き寄せてくれた。
母親がいたらこんな感じなのかな。いや、お姉ちゃんくらいにしておかないと怒られるかな。
「すみません、トラさん」
「ツルちゃんもネコちゃんも、とっても心配してたわよ。まだ大勢で来るのは迷惑かもしれないから今日はあたしだけだけど……とりあえず、無事そうでよかったわ」
「治ったら俺が復帰する席はありますか?」
恐る恐る尋ねると、トラさんは当たり前でしょと声を震わせた。
その後ろで、翔太が存在を消すように縮こまっていた。
「翔太、翔太も来てくれてありがとう。焼肉はまた当分先になっちゃったけど、ごめんな」
「気にしないでよ! 静が無事で居てくれただけで俺は嬉しい」
翔太はトラさんがいることで緊張しているように見える。
「翔太、この方は俺のバイト先のオーナーさんのトラさんだよ」
「トラさん……翔太です。よろしくお願いします」
「翔太ね、かわいいじゃない。うちに働きに来ない?」
「トラさん、翔太はまだ子供ですよ」
「ふふ、冗談よ」
トラさんはアルファだけど、気取らない態度だからか翔太はその後すぐに緊張を解いて、意気投合していた。
「それでシカちゃん、いつ頃退院出来そうなの? 退院してもしばらくお店復帰は無理だろうけど、生活するのにサポートが必要でしょ?」
「自分のことは自分で」
出来ると答えようとした時、扉がガラリと開いた。
「なんの話だ?」
「あ、先生。俺って退院いつになりそう?」
「あー? まだあと1ヶ月は安静にしてもらわねぇと」
「おっけー。1ヶ月後ね。色々サポートできるようにしておくわ」
先生の答えに、トラさんがそう答えると、先生は訝しげに俺の方を見た。
「何のサポートだ?」
「職場復帰。1ヶ月後にすぐすぐは始められないから迷惑はかけちゃうけど」
先生は低く唸ってから俺のとこまで近づいてきて、ベットに座ってる俺の後ろに体を滑り込ませ、後ろから俺を抱きしめた。
「退院後は、俺の家に戻って来てくれ。頼む」
「え、でも、トラさんとこは住み込みだし」
「だから、俺のとこで家事してくれ。報酬は言い値で払うから……頼む。離れたくない」
「えっ」
部屋にいる時も、先生は愛してるとか好きとか言ってくれるようにはなったけれど、こんなふうに甘えたようなことを言われるのは初めてだった。
「言い値なんて良いじゃない! 時給2千円でどうかしら!」
「なんであんたが決めるんだ」
先生はトラさんを胡乱げに見やって、そう言った。
「だって、シカちゃんは良い子だから最低賃金……下手したらそれ以下で働きそうじゃない」
先生とトラさんの間で勝手に話が進んでいっているようで俺は焦った。
「トラさんっ、俺、先生のとこで働くって言ってない」
「あら、この男のとこに居るの嫌なの?」
トラさんは楽しげに俺を見て笑った。
「い、嫌なわけないけど」
「じゃあ良いじゃない。決まりね。あたしのことは気にしないで。シカちゃんが居なくなるのは寂しいけど、従業員に関してはきっとなるようになるわ」
「時給は……3千円出す。だから頼む」
「先生、3千円って俺に何する気」
冗談でそう言うと、先生は“そんなつもりで言ったんじゃない”と慌て、トラさんは“やっらし~”とからかった。翔太は顔を真っ赤にしてペットボトルのお茶をがぶ飲みしていた。
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