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「悪かった。静」
先生が肩越しにそう言った。
それは本当に後悔しているのが伝わる暗い声で、だから、そんな声でそう言われたら別に先生は何も悪くないから許すも何もないけれど、なんでも許せる気持ちになる。
「先生、謝らないでよ」
「俺ぁ、お前のことが好きだよ」
先生のその言葉だけで気分が浮上する。
「うん。ありがとう」
もちろん先生がそう言う意味で言っているわけじゃないのだと分かっているし、勘違いしてしまいそうな心を押さえつけ、なんとかお礼を言った。
先生はそっと息を吐いて、それから俺の頭を優しく撫でた。
「お前が思ってるような意味じゃなくて」
「うん。大丈夫だよ。俺も、先生と同じ意味の好きになれるように頑張るから」
「……そうじゃなくて。俺ぁ、お前を……愛してる」
「え……?」
愛してるというのは、恋人や家族以外に使ったりする言葉なのだろうか。
「俺は、静を愛してんだ。今まで言葉にして伝えてなくて悪い」
「いや、でも、先生は俺の性別、トラウマでしょ?」
止まっていた思考は動き出し、口からはそんな言葉が飛び出た。
「ああ。お前が佐藤からいろいろ聞いちまったのは知ってる。それにオメガにトラウマを持っていたことがあるのは事実だ。だが、それはお前に出会う前にはもう克服してた」
「……そうなんだ」
「お前と付き合うってなった時も、死にかけてるお前が戻ってきてくれんならって神頼みして、お前が生きて戻ってきてくれたから、とりあえずって感じで付き合った。自分がなぜそこまでしたいと思うのか、最初は確かにそういう意味で好きだって気がついてなかった。けど静がいないと笑えねぇし、飯もうまくねぇ。俺ぁもともと明るい方でもねぇから、俺には静が必要だ。って気がついた。愛してるんだって気がついた……随分時間がかかっちまったけど」
「先生」
「でも、俺はお前を誤解させたままで……。お前が傷ついてんのに気がつかねぇで、呑気に暮らして。それでもそんな俺のためを思ってお前は録音データまで置いて消えちまった。そっからは警察沙汰だ。佐藤は今警察にいる。脅迫、殺人未遂……それに、お前の服の裾切られたり、カミソリ入りの手紙送りつけたり、それも全部お前が佐藤に会って事故にあった日に佐藤が自白した」
「そうなんだ」
実際のところ、そういう嫌がらせをされる心当たりは、佐藤さんにしかなかったので“やっぱりか”という印象が強かった。
「なぁ、今まで勝手してた分、やり直させてくれねぇか。都合がいいのは分かってるが、お前を諦めきれねぇ」
先生は俺の体を離してまっすぐに目を見つめてそう言ってくれた。
ああ、先生は本当にお人好しだ。
お人好しすぎて、先生がどの部分に責任を感じて俺にそんなことを言ってるのか俺には全く分からない。けれど言えることは1つだ。
「先生、俺のことは気にしないで」
「なに?」
「俺は俺で生きていけるよ。俺の幸せは別に先生と付き合うことだけじゃないんだから」
「どういうことだ?」
先生は本当にわけが分からないという顔をしている。
美形だし、大男だけど、ポカンとしたその表情は小動物みたいで可愛い。
「だから、先生がどの部分に責任を感じてるのか、俺には分からないけど、別に俺は先生にお情けで付き合ってもらわなくたっていいってこと。神楽坂先生とうまくいってるんでしょう?」
まだ祝福はできないけど、邪魔をするつもりなんてない。
「分かった」
先生が静かに呟いた。
「ありがとう、せん」
「俺はこれから、毎日お前に愛してるって告げるし、外でだってどこだって、お前のことは愛しの番と呼ぶことにする」
「は?」
「お前の言うことを信じなかったことは俺だってある。お前が俺の言葉を信じないのは、俺に責任があることも分かってる。だから、これからはちゃんと愛を伝える。同じ過ちは繰り返したくねぇから」
「先生?」
先生は俺にそっとキスをしてきた。
「それとも、俺に近づかれるのは嫌か? もう俺のことは好きじゃないか?」
こちらを伺うように見つめて、そんな言い方、ずるい。
静かに首を横に振ると、先生は嬉しそうに“ありがとう”と笑った。
先生が肩越しにそう言った。
それは本当に後悔しているのが伝わる暗い声で、だから、そんな声でそう言われたら別に先生は何も悪くないから許すも何もないけれど、なんでも許せる気持ちになる。
「先生、謝らないでよ」
「俺ぁ、お前のことが好きだよ」
先生のその言葉だけで気分が浮上する。
「うん。ありがとう」
もちろん先生がそう言う意味で言っているわけじゃないのだと分かっているし、勘違いしてしまいそうな心を押さえつけ、なんとかお礼を言った。
先生はそっと息を吐いて、それから俺の頭を優しく撫でた。
「お前が思ってるような意味じゃなくて」
「うん。大丈夫だよ。俺も、先生と同じ意味の好きになれるように頑張るから」
「……そうじゃなくて。俺ぁ、お前を……愛してる」
「え……?」
愛してるというのは、恋人や家族以外に使ったりする言葉なのだろうか。
「俺は、静を愛してんだ。今まで言葉にして伝えてなくて悪い」
「いや、でも、先生は俺の性別、トラウマでしょ?」
止まっていた思考は動き出し、口からはそんな言葉が飛び出た。
「ああ。お前が佐藤からいろいろ聞いちまったのは知ってる。それにオメガにトラウマを持っていたことがあるのは事実だ。だが、それはお前に出会う前にはもう克服してた」
「……そうなんだ」
「お前と付き合うってなった時も、死にかけてるお前が戻ってきてくれんならって神頼みして、お前が生きて戻ってきてくれたから、とりあえずって感じで付き合った。自分がなぜそこまでしたいと思うのか、最初は確かにそういう意味で好きだって気がついてなかった。けど静がいないと笑えねぇし、飯もうまくねぇ。俺ぁもともと明るい方でもねぇから、俺には静が必要だ。って気がついた。愛してるんだって気がついた……随分時間がかかっちまったけど」
「先生」
「でも、俺はお前を誤解させたままで……。お前が傷ついてんのに気がつかねぇで、呑気に暮らして。それでもそんな俺のためを思ってお前は録音データまで置いて消えちまった。そっからは警察沙汰だ。佐藤は今警察にいる。脅迫、殺人未遂……それに、お前の服の裾切られたり、カミソリ入りの手紙送りつけたり、それも全部お前が佐藤に会って事故にあった日に佐藤が自白した」
「そうなんだ」
実際のところ、そういう嫌がらせをされる心当たりは、佐藤さんにしかなかったので“やっぱりか”という印象が強かった。
「なぁ、今まで勝手してた分、やり直させてくれねぇか。都合がいいのは分かってるが、お前を諦めきれねぇ」
先生は俺の体を離してまっすぐに目を見つめてそう言ってくれた。
ああ、先生は本当にお人好しだ。
お人好しすぎて、先生がどの部分に責任を感じて俺にそんなことを言ってるのか俺には全く分からない。けれど言えることは1つだ。
「先生、俺のことは気にしないで」
「なに?」
「俺は俺で生きていけるよ。俺の幸せは別に先生と付き合うことだけじゃないんだから」
「どういうことだ?」
先生は本当にわけが分からないという顔をしている。
美形だし、大男だけど、ポカンとしたその表情は小動物みたいで可愛い。
「だから、先生がどの部分に責任を感じてるのか、俺には分からないけど、別に俺は先生にお情けで付き合ってもらわなくたっていいってこと。神楽坂先生とうまくいってるんでしょう?」
まだ祝福はできないけど、邪魔をするつもりなんてない。
「分かった」
先生が静かに呟いた。
「ありがとう、せん」
「俺はこれから、毎日お前に愛してるって告げるし、外でだってどこだって、お前のことは愛しの番と呼ぶことにする」
「は?」
「お前の言うことを信じなかったことは俺だってある。お前が俺の言葉を信じないのは、俺に責任があることも分かってる。だから、これからはちゃんと愛を伝える。同じ過ちは繰り返したくねぇから」
「先生?」
先生は俺にそっとキスをしてきた。
「それとも、俺に近づかれるのは嫌か? もう俺のことは好きじゃないか?」
こちらを伺うように見つめて、そんな言い方、ずるい。
静かに首を横に振ると、先生は嬉しそうに“ありがとう”と笑った。
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