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このバーでは、買い出しの仕事はほとんどなくて、大体は業者の人が店に運んでくる。
それも賄いまで出してくれるので、店を出る理由としては飲み物を買うか、翔太のところに遊びに行く時くらいしかない。
最近は、月に2回ほど翔太のところに遊びに行っている。
今日もその日で、俺は人通りの多いいつもの道を歩いていた。
いきなり横からバシッと腕を掴まれ転びそうになって、掴んできた相手を見ると、なんと佐藤さんだった。
「探したわ」
口の端をあげる佐藤さんに嫌な予感がした。
「なんで……? 俺は先生のところから居なくなって、もう俺と話す必要なんてあなたにはないでしょう?」
「話す必要はあるわよ。あなたが嶺二に渡した録音データのおかげで大変なことになってるわ」
「ぁ……、大変なこと?」
「あの2人どうなったか知ってる?」
「よりを戻した……とかですか?」
恐る恐る尋ねると佐藤さんはニンマリと笑ってうなずいた。
「そうよ。あなたのせいであの2人がよりを戻したの。まぁ、すぐに別れさせるつもりだけど。それよりあなた威勢が良かった割には随分あっさり身を引いたわね?」
「俺じゃ先生を幸せにできないって気がついたから」
「本当にそう思っているのかしら。隠していることでもあるんじゃないの?」
「隠していること?」
「あなたたちは、曲がりなりにも付き合っていたのよね?」
「え? まぁはい。一応……多分」
え、そうだよね。付き合ってはくれていたよね。と不安になりながらうなずいた。
「あなた、嶺二の子を妊娠してるんじゃない?」
「は!?」
その的外れな予想に俺は絶句した。
だって、先生の子を妊娠するようなことは2人の間に何も起こっていないのだから。
けれど、佐藤さんにそう言ったところで意味はないだろう。
「俺は妊娠してないですけど」
「本当かしら。アルファ同士には子供が出来ないからって、あとでその子を使って嶺二に取り入ろうとでもしているんじゃないの? あわよくば2人のアルファとどうにかなろうと思ってるんじゃないの?」
「な、だから。子供なんていませんってば。大体、俺が録音データを先生に渡して、自分自身で出てきたんですから、取り入る必要もないじゃないですか! 俺はただ先生には幸せになってもらいたいだけです!」
「幸せになってもらいたいだけなんて、健気なことね。でも口ではなんとでも言えるのよ。まぁ、実際は子供なんて居ても居なくてもどちらでもいいわ。こうすれば簡単だから」
「わっ!!」
佐藤さんに押されて車道に飛び出た俺の目の前には、以前俺を引いた車と同じ車種が迫っていた。
もう避けることはできないと判断した。
けれどここは前回と違って人通りの多い道だから、目撃者も多いだろう。
よかった。
本当に。
先生としてなくて。
お腹に子供がいたりしなくて本当によかった。
それに、先生と神楽坂先生はよりを戻せて、これでハッピーエンドだ。
俺が恋愛漫画の主人公なら、きっとここで先生が助けに来てくれて俺は事故に合わなくて済む。
けれど、俺は恋愛漫画の主人公でもなければ、先生だって俺のヒーローではない。
バン!!!
慈悲もなく、僕はまた車に引かれた。
自分が跳ね飛ばされる間がスローモーションのように見えた。
衝撃は大きいけれど痛みは今は感じない。これは前回の事故も同じだったな。
きっと今度こそ助からないだろう。
トラさん、ツルさん、ネコさん。
短い間だったけど、とても楽しかったです。
急に辞めることになってしまって申し訳ないです。
翔太、焼肉奢る約束果たせてないけど、ごめんな。
先生、ずっとずっと大好きだったよ。
言いたいことはたくさんあるのに、それを残せないなんてやっぱ、未練だ。
それも賄いまで出してくれるので、店を出る理由としては飲み物を買うか、翔太のところに遊びに行く時くらいしかない。
最近は、月に2回ほど翔太のところに遊びに行っている。
今日もその日で、俺は人通りの多いいつもの道を歩いていた。
いきなり横からバシッと腕を掴まれ転びそうになって、掴んできた相手を見ると、なんと佐藤さんだった。
「探したわ」
口の端をあげる佐藤さんに嫌な予感がした。
「なんで……? 俺は先生のところから居なくなって、もう俺と話す必要なんてあなたにはないでしょう?」
「話す必要はあるわよ。あなたが嶺二に渡した録音データのおかげで大変なことになってるわ」
「ぁ……、大変なこと?」
「あの2人どうなったか知ってる?」
「よりを戻した……とかですか?」
恐る恐る尋ねると佐藤さんはニンマリと笑ってうなずいた。
「そうよ。あなたのせいであの2人がよりを戻したの。まぁ、すぐに別れさせるつもりだけど。それよりあなた威勢が良かった割には随分あっさり身を引いたわね?」
「俺じゃ先生を幸せにできないって気がついたから」
「本当にそう思っているのかしら。隠していることでもあるんじゃないの?」
「隠していること?」
「あなたたちは、曲がりなりにも付き合っていたのよね?」
「え? まぁはい。一応……多分」
え、そうだよね。付き合ってはくれていたよね。と不安になりながらうなずいた。
「あなた、嶺二の子を妊娠してるんじゃない?」
「は!?」
その的外れな予想に俺は絶句した。
だって、先生の子を妊娠するようなことは2人の間に何も起こっていないのだから。
けれど、佐藤さんにそう言ったところで意味はないだろう。
「俺は妊娠してないですけど」
「本当かしら。アルファ同士には子供が出来ないからって、あとでその子を使って嶺二に取り入ろうとでもしているんじゃないの? あわよくば2人のアルファとどうにかなろうと思ってるんじゃないの?」
「な、だから。子供なんていませんってば。大体、俺が録音データを先生に渡して、自分自身で出てきたんですから、取り入る必要もないじゃないですか! 俺はただ先生には幸せになってもらいたいだけです!」
「幸せになってもらいたいだけなんて、健気なことね。でも口ではなんとでも言えるのよ。まぁ、実際は子供なんて居ても居なくてもどちらでもいいわ。こうすれば簡単だから」
「わっ!!」
佐藤さんに押されて車道に飛び出た俺の目の前には、以前俺を引いた車と同じ車種が迫っていた。
もう避けることはできないと判断した。
けれどここは前回と違って人通りの多い道だから、目撃者も多いだろう。
よかった。
本当に。
先生としてなくて。
お腹に子供がいたりしなくて本当によかった。
それに、先生と神楽坂先生はよりを戻せて、これでハッピーエンドだ。
俺が恋愛漫画の主人公なら、きっとここで先生が助けに来てくれて俺は事故に合わなくて済む。
けれど、俺は恋愛漫画の主人公でもなければ、先生だって俺のヒーローではない。
バン!!!
慈悲もなく、僕はまた車に引かれた。
自分が跳ね飛ばされる間がスローモーションのように見えた。
衝撃は大きいけれど痛みは今は感じない。これは前回の事故も同じだったな。
きっと今度こそ助からないだろう。
トラさん、ツルさん、ネコさん。
短い間だったけど、とても楽しかったです。
急に辞めることになってしまって申し訳ないです。
翔太、焼肉奢る約束果たせてないけど、ごめんな。
先生、ずっとずっと大好きだったよ。
言いたいことはたくさんあるのに、それを残せないなんてやっぱ、未練だ。
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