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「こっちこい」
「え、ちょ」
困惑する俺をよそに先生は俺を自分の足の間に移動させ、後ろから抱きつかれる形になった。
見ている映画はアクション映画で、そんな体勢で見たくなるような雰囲気は何もない。
先生の息が首元にかかるし、俺は心臓がドッドッとなるのを止められなかった。
映画の内容なんてもちろん分からない。
ふと先生が後ろから俺の顎を掴み、振り返った俺にチュッとキスをしてくれた。
「え……、き、き、キスした! 先生が俺に……、キス」
「そんな驚くなよ。俺たちは恋人なんだろう? 恋人ならキスくらいする」
「あ、そうだけど……。先生ありがとう!! 俺めっちゃ嬉しい!!」
「もっと色気のある反応は出来ねぇのかよ」
先生は呆れて笑ったけど、俺はもう嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
だって、恋愛におけるABCのA、つまりキスを先生にしてもらえる日が来るなんて。
俺は感動で頭がいっぱいになった。もちろん諦めていたわけじゃないけど、こんなに早くしてもらえる日が来るなんて思ってなかったから。
だけど先生はその後も、何事もなかったように普通に映画を見るのに戻ってしまった。
背中から伝わる先生の体温に、ドギマギしてるのは俺だけだけど、それでも今日は大きな1歩を踏み出したんだ。
検診の日、俺はまたニコニコで先生に診察された後、お会計を待っていた。
「君、まだ嶺二のところにいるんでしょう」
「佐藤さん……。そうですけど」
「ちょっと話がしたいからこっちに来てもらえる?」
「え、でも」
「お会計は後に回してもらえるよう看護師に言っておいたから」
「俺、佐藤さんと話すことなんて何も無いです」
「いいからこっちに来なさい」
俺は半ば無理やり佐藤さんに連れられて、人気のない空き部屋に来た。
「教えてあげる。なんで嶺二があなたを好きにならないのか」
「それって、先生の叔母さんのことですか?」
「あら、どこで聞いたのかしら」
「前にここに来た時にあなたが男性と話しているのを聞きました。そういう話、どこでもかしこでもしない方がいいですよ。あなたじゃなくて、先生のプライベートの話なんですから」
「盗み聞きしたっていうの? 品が無いわね」
佐藤さんは余裕のある笑みを見せた。
「品が無いって言ったら、他人のプライベートな話をベラベラと話すことだと思いますけど。先生の元彼の神楽坂先生の話だって、あなたが俺に話してきた」
「だって、嶺二が好きなんだから仕方がないじゃ無い」
「好きだったらなんでもしていいなんて、馬鹿みたいな考え持ってないですよね?」
「あら、オメガのくせにアルファの私にバカなんて身の程知らずね。どうせあなただって相手がアルファなら嶺二じゃなくてもいいんでしょう? いいわ。私があなたに他のアルファを当てがってあげるから嶺二からは手を引きなさい」
「バカにしないでください。俺は先生だけが好きなんですから」
「あなたは強情ね。でも相手のアルファを見たらどう思うかしら。あの子のように、しっぽ振って股を開くわ」
突然出てきたあの子という単語に不穏な雰囲気を感じた。
「あの子ってなんですか」
「神楽坂の番のオメガよ。ちょっと脅せばすぐに協力してくれたの。話の段階ではいやそうだったけど、神楽坂の写真を見せたら急にノリノリになって、本当……はしたない子だわ」
「どう、いう」
「だから。私が嶺二を好きなのに、嶺二は神楽坂なんかと付き合ってるから、オメガを使って別れさせてやったの。神楽坂は嫌がってたけど密室に誘引剤を投与したオメガと閉じ込めたら番になって出てきたの」
「なんて……ことを、最低だ」
「神楽坂は責任とってそのオメガと結婚。なのに嶺二はあなたみたいなのと付き合いだしたんておかしいじゃない」
「付き合ってるって……」
「嶺二がそう言ってきたわ。けどあなた何か嶺二につけ込むようなことをしたんでしょう?」
「そんなこと」
してないとは言えなかった。
というか、先生が俺を好きで付き合っていないことくらい知っていた。
実際今まで先生が何に責任を感じて俺と付き合うなんてことをしているのか分からなかったし、深く考えなかった。先生と付き合えて幸せだったから。
けど、神楽坂先生はなんで。
オメガからの明らかなフェロモンレイプで、訴えればかてたはずなのに。
俺は神楽坂先生に話を聞いてみようと思った。
「え、ちょ」
困惑する俺をよそに先生は俺を自分の足の間に移動させ、後ろから抱きつかれる形になった。
見ている映画はアクション映画で、そんな体勢で見たくなるような雰囲気は何もない。
先生の息が首元にかかるし、俺は心臓がドッドッとなるのを止められなかった。
映画の内容なんてもちろん分からない。
ふと先生が後ろから俺の顎を掴み、振り返った俺にチュッとキスをしてくれた。
「え……、き、き、キスした! 先生が俺に……、キス」
「そんな驚くなよ。俺たちは恋人なんだろう? 恋人ならキスくらいする」
「あ、そうだけど……。先生ありがとう!! 俺めっちゃ嬉しい!!」
「もっと色気のある反応は出来ねぇのかよ」
先生は呆れて笑ったけど、俺はもう嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
だって、恋愛におけるABCのA、つまりキスを先生にしてもらえる日が来るなんて。
俺は感動で頭がいっぱいになった。もちろん諦めていたわけじゃないけど、こんなに早くしてもらえる日が来るなんて思ってなかったから。
だけど先生はその後も、何事もなかったように普通に映画を見るのに戻ってしまった。
背中から伝わる先生の体温に、ドギマギしてるのは俺だけだけど、それでも今日は大きな1歩を踏み出したんだ。
検診の日、俺はまたニコニコで先生に診察された後、お会計を待っていた。
「君、まだ嶺二のところにいるんでしょう」
「佐藤さん……。そうですけど」
「ちょっと話がしたいからこっちに来てもらえる?」
「え、でも」
「お会計は後に回してもらえるよう看護師に言っておいたから」
「俺、佐藤さんと話すことなんて何も無いです」
「いいからこっちに来なさい」
俺は半ば無理やり佐藤さんに連れられて、人気のない空き部屋に来た。
「教えてあげる。なんで嶺二があなたを好きにならないのか」
「それって、先生の叔母さんのことですか?」
「あら、どこで聞いたのかしら」
「前にここに来た時にあなたが男性と話しているのを聞きました。そういう話、どこでもかしこでもしない方がいいですよ。あなたじゃなくて、先生のプライベートの話なんですから」
「盗み聞きしたっていうの? 品が無いわね」
佐藤さんは余裕のある笑みを見せた。
「品が無いって言ったら、他人のプライベートな話をベラベラと話すことだと思いますけど。先生の元彼の神楽坂先生の話だって、あなたが俺に話してきた」
「だって、嶺二が好きなんだから仕方がないじゃ無い」
「好きだったらなんでもしていいなんて、馬鹿みたいな考え持ってないですよね?」
「あら、オメガのくせにアルファの私にバカなんて身の程知らずね。どうせあなただって相手がアルファなら嶺二じゃなくてもいいんでしょう? いいわ。私があなたに他のアルファを当てがってあげるから嶺二からは手を引きなさい」
「バカにしないでください。俺は先生だけが好きなんですから」
「あなたは強情ね。でも相手のアルファを見たらどう思うかしら。あの子のように、しっぽ振って股を開くわ」
突然出てきたあの子という単語に不穏な雰囲気を感じた。
「あの子ってなんですか」
「神楽坂の番のオメガよ。ちょっと脅せばすぐに協力してくれたの。話の段階ではいやそうだったけど、神楽坂の写真を見せたら急にノリノリになって、本当……はしたない子だわ」
「どう、いう」
「だから。私が嶺二を好きなのに、嶺二は神楽坂なんかと付き合ってるから、オメガを使って別れさせてやったの。神楽坂は嫌がってたけど密室に誘引剤を投与したオメガと閉じ込めたら番になって出てきたの」
「なんて……ことを、最低だ」
「神楽坂は責任とってそのオメガと結婚。なのに嶺二はあなたみたいなのと付き合いだしたんておかしいじゃない」
「付き合ってるって……」
「嶺二がそう言ってきたわ。けどあなた何か嶺二につけ込むようなことをしたんでしょう?」
「そんなこと」
してないとは言えなかった。
というか、先生が俺を好きで付き合っていないことくらい知っていた。
実際今まで先生が何に責任を感じて俺と付き合うなんてことをしているのか分からなかったし、深く考えなかった。先生と付き合えて幸せだったから。
けど、神楽坂先生はなんで。
オメガからの明らかなフェロモンレイプで、訴えればかてたはずなのに。
俺は神楽坂先生に話を聞いてみようと思った。
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