9 / 45
9
しおりを挟む
それから俺が退院する日まで、先生は時間が少しでも開けば俺の病室に来てくれた。
愛されてるみたいでめちゃくちゃ嬉しかったけれど、今日で退院なのでそれももう終わりだ。
退院の日は先生がわざわざ車で迎えに来てくれて、一緒にマンションに帰った。
「先生先生! 今日は何食べたい? 俺なんでも作るよ!」
「アホか。松葉杖ついてるやつに作らせるほど俺ぁ鬼畜じゃねぇよ」
「え、でも……先生作れないでしょ?」
「…………出前、でいいか?」
恐る恐る聞く先生が可愛くて俺は笑いながらうなずいた。
「もっちろん!」
「何が食べたい?」
先生も安心したように微笑んでくれて、心臓が変な感じで跳ねる。
「お、俺、先生が食べたい物でいいよ!」
「これはお前の退院祝いだから、お前が好きなもんを頼むんだ」
「ぅぁ、えっと、じゃあ寿司! 俺寿司食いたい!」
俺がリクエストすると先生は嬉しそうに笑ってくれた。
「おう、じゃあ待ってろ。今頼むからな」
先生がスマホを操作し始めたので俺は立ち上がった。
「ありがとう、先生! 俺ちょっと着替えてくる!」
「あ、おい。手伝うから待て」
先生の声を背中に聞きながら俺はひょいひょいと松葉杖をついて自室に戻った。
当たり前かもしれないけど部屋の中は俺が事故る前と何も変わっていなくて安心した。
やっぱ俺、先生のこと大好きだなぁ。
先生と付き合えるなんてマジで夢みたいだ。
迷惑かけないようにしないと。
着替えを取ってベットに座って着替え始めると、注文を終えたのか先生が来た。
「静、開けるぞ?」
「え? うん。どうぞ!」
まだ上着しか脱いでいなかったので、そう答えるとドアを開けて入ってきた。
「着替えは俺が手伝う」
「えっ、いいよ。そんなの」
「そうは言っても着替え辛いだろう」
「いいっていいって。それに自分で着替えられないと先生が居ないとき大変になっちゃうからさ!」
「そうか」
先生は納得したのかしてないのか、その場から動かなかった。
「あの、俺着替え終わったらそっちに戻るから!」
「ああ」
つ、通じてない。
部屋を出て行ってくれない先生に、出て行ってと言うわけにもいかず困った。
万が一出て行ってなんて言って、機嫌を損ねて付き合うのやめると言われても嫌だし。
俺が大人しく着替え始めると、先生は目のやり場に困ったのか、俺の部屋を見渡した。
まぁ、俺の体なんか見て先生が喜ぶはずもないことは分かりきってはいるのだけど、それをここからどう覆してもらうかが問題だよなぁ。
先生はアルファと付き合っていたと聞いたし、アルファっぽいのがいいなら体をもっと鍛えたほうがいいんだろうか。
取り急ぎ、明日は先生が仕事に行っている間に、意識不明の間に行けなかった翔太のところに行って翔太と遊んでから、上半身を鍛えられるようなグッズを買いに行こう。
下半身は今は鍛えるのは無理だから、足が治ってからだ。
「先生、着替え終わったよ!」
「ああ」
辿々しく服を着替え終わって報告すると、ちょうど玄関でチャイムが鳴った。
「取ってくるから、怪我しないようにゆっくり移動しろよ?」
「うん! ありがとう」
先生がお寿司を取りに行き俺はゆっくりと居間に戻った。
「ほら、好きなだけ食え」
「ありがとう! って、え……、多くない?」
目の前に差し出されたのは、明らかに2人前の量じゃない。
5人前くらいの量に見えた。
「お前ぇはまだ育ち盛りだろ?」
「なっ、俺はもう今年で19歳になるんだよ! 育ち盛りはすぎたよ!」
「良いから食え」
「……ありがとう、わあ、めっちゃうまそう!」
寿司なんてテレビでしか見たことがないほどで、日本に18年間も住んでいるのに、今まで一度も食べたことがなかった。
もちろん、孤児院だってそう言うのを食べる機会はあったのだけど、オメガである俺には贅沢だと食べさせてもらえなかったのだ。
周りの子供たちは美味しそうに食べていたし、寿司が出るってなる日は特別な日で、みんな嬉しそうだったから大人になったら一度は食べてみたいと思っていた。
「う、うまぁ……。これ、こんな、俺こんなうまいもの食ったの初めてだよ! ありがとう先生!」
「大袈裟だな」
そう言って笑った先生も、なんだか嬉しそうだった。
愛されてるみたいでめちゃくちゃ嬉しかったけれど、今日で退院なのでそれももう終わりだ。
退院の日は先生がわざわざ車で迎えに来てくれて、一緒にマンションに帰った。
「先生先生! 今日は何食べたい? 俺なんでも作るよ!」
「アホか。松葉杖ついてるやつに作らせるほど俺ぁ鬼畜じゃねぇよ」
「え、でも……先生作れないでしょ?」
「…………出前、でいいか?」
恐る恐る聞く先生が可愛くて俺は笑いながらうなずいた。
「もっちろん!」
「何が食べたい?」
先生も安心したように微笑んでくれて、心臓が変な感じで跳ねる。
「お、俺、先生が食べたい物でいいよ!」
「これはお前の退院祝いだから、お前が好きなもんを頼むんだ」
「ぅぁ、えっと、じゃあ寿司! 俺寿司食いたい!」
俺がリクエストすると先生は嬉しそうに笑ってくれた。
「おう、じゃあ待ってろ。今頼むからな」
先生がスマホを操作し始めたので俺は立ち上がった。
「ありがとう、先生! 俺ちょっと着替えてくる!」
「あ、おい。手伝うから待て」
先生の声を背中に聞きながら俺はひょいひょいと松葉杖をついて自室に戻った。
当たり前かもしれないけど部屋の中は俺が事故る前と何も変わっていなくて安心した。
やっぱ俺、先生のこと大好きだなぁ。
先生と付き合えるなんてマジで夢みたいだ。
迷惑かけないようにしないと。
着替えを取ってベットに座って着替え始めると、注文を終えたのか先生が来た。
「静、開けるぞ?」
「え? うん。どうぞ!」
まだ上着しか脱いでいなかったので、そう答えるとドアを開けて入ってきた。
「着替えは俺が手伝う」
「えっ、いいよ。そんなの」
「そうは言っても着替え辛いだろう」
「いいっていいって。それに自分で着替えられないと先生が居ないとき大変になっちゃうからさ!」
「そうか」
先生は納得したのかしてないのか、その場から動かなかった。
「あの、俺着替え終わったらそっちに戻るから!」
「ああ」
つ、通じてない。
部屋を出て行ってくれない先生に、出て行ってと言うわけにもいかず困った。
万が一出て行ってなんて言って、機嫌を損ねて付き合うのやめると言われても嫌だし。
俺が大人しく着替え始めると、先生は目のやり場に困ったのか、俺の部屋を見渡した。
まぁ、俺の体なんか見て先生が喜ぶはずもないことは分かりきってはいるのだけど、それをここからどう覆してもらうかが問題だよなぁ。
先生はアルファと付き合っていたと聞いたし、アルファっぽいのがいいなら体をもっと鍛えたほうがいいんだろうか。
取り急ぎ、明日は先生が仕事に行っている間に、意識不明の間に行けなかった翔太のところに行って翔太と遊んでから、上半身を鍛えられるようなグッズを買いに行こう。
下半身は今は鍛えるのは無理だから、足が治ってからだ。
「先生、着替え終わったよ!」
「ああ」
辿々しく服を着替え終わって報告すると、ちょうど玄関でチャイムが鳴った。
「取ってくるから、怪我しないようにゆっくり移動しろよ?」
「うん! ありがとう」
先生がお寿司を取りに行き俺はゆっくりと居間に戻った。
「ほら、好きなだけ食え」
「ありがとう! って、え……、多くない?」
目の前に差し出されたのは、明らかに2人前の量じゃない。
5人前くらいの量に見えた。
「お前ぇはまだ育ち盛りだろ?」
「なっ、俺はもう今年で19歳になるんだよ! 育ち盛りはすぎたよ!」
「良いから食え」
「……ありがとう、わあ、めっちゃうまそう!」
寿司なんてテレビでしか見たことがないほどで、日本に18年間も住んでいるのに、今まで一度も食べたことがなかった。
もちろん、孤児院だってそう言うのを食べる機会はあったのだけど、オメガである俺には贅沢だと食べさせてもらえなかったのだ。
周りの子供たちは美味しそうに食べていたし、寿司が出るってなる日は特別な日で、みんな嬉しそうだったから大人になったら一度は食べてみたいと思っていた。
「う、うまぁ……。これ、こんな、俺こんなうまいもの食ったの初めてだよ! ありがとう先生!」
「大袈裟だな」
そう言って笑った先生も、なんだか嬉しそうだった。
49
お気に入りに追加
629
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる