俺のこと好きになってよ！ 【オメガバース】

８

トボトボと家路を歩いた。
人通りも、車通りも少ない道なのに、後ろから車の音が聞こえた。

もしかして、先生が追いかけてきてくれたのかも。
なんて、そんなことあるわけないのに。

振り向いた先に見えたのは、先生の車とは全く違う車で、すごい勢いで俺に向かって走ってきていた。すぐに目の前まで車がせまり、次の瞬間には体に大きな衝撃が走った。

ああ、俺ってださいなぁ。

意識が途絶える中、俺はそんなことを思った。

ピッピッ

規則正しい機械音が聞こえる。
目を開けると、真っ白な天井にカーテン、俺にとっては馴染み深い場所、病院だった。

俺ってなんで病院にいるんだっけ。
……ああ、車が俺に突っ込んだんだっけ。
あの車、やけに俺に向かって一直線だったなぁ。

「静、目を覚ましてくれ。付き合ってでもなんでもしてやるから」

俺にとって都合がいいことを言っている先生の声が聞こえてきた。
声の感じからして俺の腰元のあたりにいるらしい。

「……んと……？」

本当？　と声に出してみると恐ろしく声がかすれていて、ほとんど発音できなかった。
だが、それでも先生にはちゃんと聞こえたらしくてガタガタと立ち上がった音が聞こえた後、俺の視界の範囲に先生が現れた。

「静っ、お前、本当よかった……」
「せんせ、こほっ……こほっ」

先生は憔悴仕切ったような出で立ちで、ここのところ、仕事が忙しかったことを思わせる。
先生は俺の酸素マスクをずらして、俺に吸い飲みを差し出してくれた。
ちょっとずつ水を飲んで喉を潤す。

「せんせい、さっき言ってたの、本当？」
「さっき？」
「俺と付き合ってくれるし……なんでもしてくれるって」
「あ、ああ。男に二言はねぇよ。お前は戻ってきてくれた。付き合おう、静」
「うん……うん」

俺はなんで先生がそんな心変わりをしてくれたのかは分からなかったけれど嬉しくて涙が溢れた。間違いなく今が人生で一番幸せな時間になるだろうと確信した。

「お前が飯作ってくれねぇから、この有様だ」
「ははっ……なにそれ、うれしー」

先生が自分の体を指して、俺を喜ばそうと言ってくれた言葉に俺は本気で喜んだ。

「俺って、どれくらい寝てた？」
「……１ヶ月」
「そんなに」
「ああ、心配した。でも本当に目を覚ましてくれてよかった」

先生が俺を心配したなんて言ってくれて、本当に俺は心のそこから嬉しい。
体中痛いけれど、なんなら得した気分だった。
だって、先生は俺を心配してくれて、その上付き合ってくれるなんて、棚からぼた餅が転がり落ちてきたようだ。