俺のこと好きになってよ！ 【オメガバース】

５

自分を好きになってもらうにはどうしたらいいんだろう。
これは小さい頃から解けることのない悩みだ。

子供の頃は施設の人や学校の大人、ずっと誰かに構って欲しくてアピールしまくっていた。
だけど誰も俺を構ってくれる人はいなかった。
先生だけだ。俺を構ってくれるのは先生だけで、俺の話を聞いてくれるのは先生だけで、まるで俺が存在していていいみたいに思わせてくれるのは先生だけだったから、俺は先生のことが大好きになった。誰に対しても粗暴な態度だけど、どんな話も無視しないで聞いてくれるし、絶対誰でも好きになると思う。
だけど、俺には何もない。
人に好かれるようなところはどこもない。
先生の苦手にしているらしい家事を頑張ったところで、好きになってもらえるとは限らない。
先生は、どんな人が好きなんだろう。
どうしたら好きになってもらえるんだろう。

先生とセックスしている相手は、どんな人なんだろう。
俺は疑問に思って、次の同じ曜日にまた孤児院に行くと言って家を出た。
実際に孤児院に行って翔太と遊んだ後早めに帰ってマンションの非常階段のドアを少し開けて監視した。

しばらくして先生と共に出てきたのは、髪が艶やかで長くて綺麗な女の人だった。
俺みたいにうるさくはしなさそうで、キャリアウーマンみたいなイメージの女性だ。

でもその華やかな顔に見覚えがあった。

あの人は、先生が週一で働いている病院の、お医者さんだ。
付き合ってるのか、ただのセフレなのかは分からない。
けど、あんな感じの人が好きなら、俺もそれに近づきたい。
だから俺は髪を伸ばそうと決意したし極力うるさくしないように意識しようと思った。

今日の夕食はサンマの塩焼きに豆腐のお味噌汁にナスの煮浸しだ。
ガチャリと玄関の扉が開いて先生が帰ってくる。

「先生、お帰りなさい」

大人感のある笑顔というのが、俺にはどうすれば出るのか分からないからとりあえず微笑んで先生を出迎えた。

「ただいま。どうした？　いつもの元気は。具合でも悪いのか？」
「別に、体調はいいよ。けど、先生もいつもうるさいって言うし、静かになってみようと思ってさ」
「……はぁ」

先生のため息に、俺は失敗したのだと悟った。
先生の手が伸びてきて思わず目を瞑ると、ぽすっと頭に手をおかれ、さわさわと撫でられた。

「気にすんな。いや……俺がいつも言ってるのは冗談っていうか、まぁ、本気でうるせぇと思ってることもあるが、大人しいのはお前らしくねぇだろ？」
「でも」
「いつも通りでいろよ。そんなに悩ませたんなら、悪かったな」
「わかった……えっと、今日のご飯は和食だよ！　ご飯にする？　お風呂にする？　それとも俺！？」
「飯だな。腹が減った」
「りょーかい」

俺の目論見は速攻で失敗して、大人しくなることは断念した。
でも、先生はいつも通りで良いって言ってくれたし、やっぱり先生は優しい。好きだ。

先生が席についたので、俺はご飯と味噌汁を装って、席につき、自分の分を食べながら先生の食べる様子を眺めた。
いつも粗暴な態度のくせにサンマを食べる先生は、育ちが良い人みたいに綺麗な食べ方をする。
いや、何を食べるにしても先生は綺麗に食べるんだけど、俺は先生が焼き魚を食べる姿がなんとなく好きだった。