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56 完
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その後結局、一緒にキャンプに行ったメンバー以外にも俺が誠ではないことを伝えたけれど、みんなこっちが呆気に取られるほど、あっさりと認めてくれた。
無事に3年に上がり、毎日を楽しく過ごしていたある日、久々に誠から電話がかかってきた。
『もしもし。紫?』
「そうだけど。何か用?」
『何か用って……。紫のせいで僕は学校を退学になったのに、随分平気そうな態度だね』
俺を責めるような言葉にイラついた。
「俺のせい? どこが?」
自分から出る声はここまで冷たくなれるのかと思うほど、熱のない声が出た。
『僕のために単位をとるって約束で、紫はその学園に通えたのに。自分の仕事ほっぽらかして楽しんで、紫には責任感ってものがないの?』
「責任感? っはは。誠、そんな言葉知ってたんだ。誠のその言い方じゃ、誠には責任感があるみたいに言ってるように聞こえるけど」
『そりゃ、僕はずっと柊グループの社長になるために生きてきたから、それ相応の責任感があるよ』
「責任感があるやつが、なんの理由もなく単位をおとしたりしないんだよ。それも、高校なんて決められた時間割通りに授業受けてりゃなんも考えなくても単位取れるところでさ』
『それはっ。僕だって忙しかったから仕方がなかったし。それに、僕が取れないなら、僕の代わりに紫が責任を取るのが当たり前でしょ。それが長男じゃない者の務めでしょ』
そんな考えが責任感が無いと言っているのが、きっとどれほど説明したところで誠には分からないのだろう。俺はめんどくさい気持ちを小さく息を吐くことで抑えた。
「そうやって人に押し付けて生きてきて、今まではそれで良かったかもしれないけど、誠の両親は今は塀の中なんだぞ。誰も誠を救ったりなんかしてくれない。高校を退学になったなら、高卒認定試験を受ければ良い。俺はそうするつもりだったよ。なんにしても、俺を責めるためだけに、こうやって電話をしている暇があるなら、少しでも勉強した方が良いと思うけどな」
『自分が社長になるからって偉そうに! 紫なんてただ親が社長だっただけじゃん!!』
「……その言葉はそっくりそのままお返しする」
そう伝えて電話を切った。
誠の言う通り、俺はなんだかんだ親が社長だっただけで将来社長を約束された身になっただけだ。だが、俺はその座に甘んじて努力を怠るつもりはない。
自分が社長をするとか、そもそも社会人になることとか、今の俺は将来のことは想像すら難しい。だけど、いざその立場になった時に少しでも自分に自信を持っていられるようにしていたいから。
そうして努力を重ねた結果3年生最後のテストは、学年一位を取ることができた。
「最後の最後に負けるとはな」
結果が張り出された掲示板を見て東堂は悔しそうに、けれどどこか嬉しそうにそう言った。
「東堂の壁は本当に厚かった」
2年までは生徒会長までしていて、忙しそうにしていた東堂相手にどうしても勝つことができなかったけど、最後には壁を破ることができて本当に嬉しい気持ちになった。
「寮の部屋は別になっちゃたけど柊木と勉強してたから僕もこの1年でめちゃくちゃ成績あがったよ」
天海がそう言って笑った。
「僕も。柊木が親衛隊のお茶会をお茶会と称した勉強会にしたから、柊木の親衛隊員共々みんな成績上がって、附属大学側が驚いてたってさ」
そう。あの頃、紫として通えるようになってこいつらと居るのもあと1年と思っていたけど、幼稚園からのエスカレーター式の学園なので大体は同じ大学に通うことになる。
俺も例に漏れずそのまま付属大学に進学することにしたのでこのまま通う場所が変わるだけでほとんど変わらない。ただ、全寮制ではなくなるので、俺は黒月さんとの家に一緒に住むつもりだ。
誠はあの後、非行に走り、補導され続けているらしい。
誠からたまに電話が来ることが黒月さんにバレた翌日には、黒月さんから新しいスマホを渡され、それ以降、誠と話していないので詳しくは知らない。
ただ、あの誠が反省などするわけないし、努力もするわけないと言うことだけはわかっているので、誠の心に何か大きな変化があって相当努力しない限り何も変わらないだろう。
この学園に来るまでは、必要に駆られた努力しかしてこなかったけど、この学園にきて多くの友人や黒月さんと出会って、俺はいろいろな大切なものを手に入れた。この学園に通うきっかけを作ってくれた誠にはその部分だけはかなり感謝している。
この先、大学生になって社会人になって社長になって過ごしても、誠や柊木夫妻を反面教師に自分を律して生きていきたい。
完
無事に3年に上がり、毎日を楽しく過ごしていたある日、久々に誠から電話がかかってきた。
『もしもし。紫?』
「そうだけど。何か用?」
『何か用って……。紫のせいで僕は学校を退学になったのに、随分平気そうな態度だね』
俺を責めるような言葉にイラついた。
「俺のせい? どこが?」
自分から出る声はここまで冷たくなれるのかと思うほど、熱のない声が出た。
『僕のために単位をとるって約束で、紫はその学園に通えたのに。自分の仕事ほっぽらかして楽しんで、紫には責任感ってものがないの?』
「責任感? っはは。誠、そんな言葉知ってたんだ。誠のその言い方じゃ、誠には責任感があるみたいに言ってるように聞こえるけど」
『そりゃ、僕はずっと柊グループの社長になるために生きてきたから、それ相応の責任感があるよ』
「責任感があるやつが、なんの理由もなく単位をおとしたりしないんだよ。それも、高校なんて決められた時間割通りに授業受けてりゃなんも考えなくても単位取れるところでさ』
『それはっ。僕だって忙しかったから仕方がなかったし。それに、僕が取れないなら、僕の代わりに紫が責任を取るのが当たり前でしょ。それが長男じゃない者の務めでしょ』
そんな考えが責任感が無いと言っているのが、きっとどれほど説明したところで誠には分からないのだろう。俺はめんどくさい気持ちを小さく息を吐くことで抑えた。
「そうやって人に押し付けて生きてきて、今まではそれで良かったかもしれないけど、誠の両親は今は塀の中なんだぞ。誰も誠を救ったりなんかしてくれない。高校を退学になったなら、高卒認定試験を受ければ良い。俺はそうするつもりだったよ。なんにしても、俺を責めるためだけに、こうやって電話をしている暇があるなら、少しでも勉強した方が良いと思うけどな」
『自分が社長になるからって偉そうに! 紫なんてただ親が社長だっただけじゃん!!』
「……その言葉はそっくりそのままお返しする」
そう伝えて電話を切った。
誠の言う通り、俺はなんだかんだ親が社長だっただけで将来社長を約束された身になっただけだ。だが、俺はその座に甘んじて努力を怠るつもりはない。
自分が社長をするとか、そもそも社会人になることとか、今の俺は将来のことは想像すら難しい。だけど、いざその立場になった時に少しでも自分に自信を持っていられるようにしていたいから。
そうして努力を重ねた結果3年生最後のテストは、学年一位を取ることができた。
「最後の最後に負けるとはな」
結果が張り出された掲示板を見て東堂は悔しそうに、けれどどこか嬉しそうにそう言った。
「東堂の壁は本当に厚かった」
2年までは生徒会長までしていて、忙しそうにしていた東堂相手にどうしても勝つことができなかったけど、最後には壁を破ることができて本当に嬉しい気持ちになった。
「寮の部屋は別になっちゃたけど柊木と勉強してたから僕もこの1年でめちゃくちゃ成績あがったよ」
天海がそう言って笑った。
「僕も。柊木が親衛隊のお茶会をお茶会と称した勉強会にしたから、柊木の親衛隊員共々みんな成績上がって、附属大学側が驚いてたってさ」
そう。あの頃、紫として通えるようになってこいつらと居るのもあと1年と思っていたけど、幼稚園からのエスカレーター式の学園なので大体は同じ大学に通うことになる。
俺も例に漏れずそのまま付属大学に進学することにしたのでこのまま通う場所が変わるだけでほとんど変わらない。ただ、全寮制ではなくなるので、俺は黒月さんとの家に一緒に住むつもりだ。
誠はあの後、非行に走り、補導され続けているらしい。
誠からたまに電話が来ることが黒月さんにバレた翌日には、黒月さんから新しいスマホを渡され、それ以降、誠と話していないので詳しくは知らない。
ただ、あの誠が反省などするわけないし、努力もするわけないと言うことだけはわかっているので、誠の心に何か大きな変化があって相当努力しない限り何も変わらないだろう。
この学園に来るまでは、必要に駆られた努力しかしてこなかったけど、この学園にきて多くの友人や黒月さんと出会って、俺はいろいろな大切なものを手に入れた。この学園に通うきっかけを作ってくれた誠にはその部分だけはかなり感謝している。
この先、大学生になって社会人になって社長になって過ごしても、誠や柊木夫妻を反面教師に自分を律して生きていきたい。
完
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いつもコメントありがとうございます!
負担どころか、コメントやお気に入りをいただけるおかげでやる気をもらってます☺️
昨日のコメントでめっちゃ誤字してました笑
紫だと思って話しかけたら見た目が違う別人だったじゃなくて、見た目が似てるだけの別人だったら。でした!🙇♂️
確かに私も、こいつまさか双子か……?とはならないかも笑
ちなみに誠は、歌うこと自体あまり好きじゃなさそうな気がします🤔
東様
コメントありがとうございます^^
生きがいなんて言っていただけてめっちゃ嬉しいです!
更新頑張ります😆
pipin様
いつもコメントありがとうございます^^
友人たちの視点で考えたら、紫だと思って話しかけたら見た目が違う別人だったって、想像したらめちゃくちゃ怖いですよね笑