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44 気持ち2
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「あのさ、俺。子供とか欲しいと思ってない。それよりも黒月さんといる方が幸せだよ。でも黒月さんがそんなふうに想ってくれてるって知って嬉しい」
「紫様……」
「さっきまでみたいに紫って呼んでよ。そんで、丁寧に話さなくていいし。だって、黒月さんは俺の恋人でもあるけど、お兄ちゃんでもあるんでしょ?」
「っ、お、お兄ちゃん……? じゃあ……紫」
黒月さんは上ずった声を出した後、俺の名前を呼んだ。見上げると俺を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「なに?」
「俺のことは悠一と呼んで欲しい。お兄ちゃんも捨てがたいけど」
「……悠一、さん」
黒月さんの名前が悠一だって、ずっと知ってはいたけど、実際に口にしたのは初めてで、ただ名前を呼んだだけなのに顔に熱が集まるのを感じた。
「可愛い。紫……、好きだ。愛してる」
身を乗り出した黒月さんは、ソファセットのテーブルを超えて俺の隣に移動してから、俺を抱き寄せてくれた。
「俺も、悠一さんのこと、あ、愛してる」
「嬉しいな、ありがとう。だが、“さん”はいらない」
「でも」
「お願い」
「うっ」
抱き寄せた俺の肩を掴んで、目を合わせてきた黒月さんは、可愛こぶっている訳はないと分かっているけど、あざと可愛い表情をしている。
「その……悠一」
「っ、ああー。可愛い。ありがとう」
「……うん」
気恥ずかしいけど、黒月さんが喜んでいるならいいや。
「紫」
「なに?」
「俺は、会社で起こった問題を全て話したよ」
「え、うん」
俺を抱き寄せている黒月さんは、若干ソワソワしているような態度で。だけど何が言いたいのか分からずに俺は首を傾げた。
「さっき、くれるって言っていたでしょう? チェキ」
「え? あ、ああ。あげるけど、そんなに?」
「もちろん」
黒月さんにチェキを手渡すと、黒月さんはそれをまるで歴史的な財産を触るかのように慎重な手つきで受け取った。
「はぁ。一生大切にする。ありがとう……。列に並びたかったけど、流石に生徒に鉄仮面と呼ばれる俺では目立つと思って並べなかったから」
「ははっ。まぁ確かに悠一が並んでたら目立つよね」
黒月さんは「そうなんですよね」と笑って、それから「はぁ……」とため息をついた。
「本当、“男子三日会わざれば刮目して見よ”とはよく言ったものだね。ああ、もちろん、紫は元々素敵だけど、俺が知らない間に、あんなにカリスマ性を発揮して、親衛隊まで作って……」
「親衛隊?」
それは初耳だ。
「出来ているようだよ、紫の親衛隊。しかも親衛隊長は東堂くんの親衛隊長だった子だとか」
「えっ。省吾が? なんで? 俺嫌われてると思ってたけど」
「紫はかっこいいからね。自分は普通に過ごしているつもりでも人を惹きつけてしまう。そういうところも、紫はしっかりご両親の血を受け継いでいる」
いつもいつも黒月さんは俺のことを褒めすぎだと思う。
黒月さんは、話しながらも席を立ち、嬉々とした顔でラップを手に戻ってきて、先ほどのチェキをそれに包み始めた。
「何してるの?」
「紙の劣化をなるべくさせないために、素手で触らないようにしないといけないからね。もちろん、ラップは一時凌ぎで、あとでラミネートするけど」
「そ、そっか」
俺の親衛隊長になったらしい省吾でも、俺のチェキをそこまで大切にはしていないだろう。
いや、そもそも省吾は俺のことを好きではないと思うので正直、省吾が俺のチェキを買って行った時は、藁人形にでも打ち付けるつもりかと思ったくらいだけど。
「はぁ。本当紫の素敵さを、全校生徒が知ってしまって、これからが心配だ」
黒月さんは、俺のチェキを持ちながらまた、ちいさくため息をついた。
「あのさ」
「はい」
「そんなに喜んでくれるのは嬉しいんだけど……。今はチェキなんか見なくても、俺がいるでしょ?」
「っ、紫?」
「俺、もう我慢できないよ」
黒月さんの裾を掴んで顔を見上げると、黒月さんの笑顔が固まった。
「紫、もう、泣いても止まってあげられないよ?」
「うん。もう、泣いたりしないよ。だから……して?」
そう言うと黒月さんは、小さくうめいてゆっくりと俺から離れ、3ヶ月前のあの時みたいに部屋の鍵を閉めに行った。
「紫様……」
「さっきまでみたいに紫って呼んでよ。そんで、丁寧に話さなくていいし。だって、黒月さんは俺の恋人でもあるけど、お兄ちゃんでもあるんでしょ?」
「っ、お、お兄ちゃん……? じゃあ……紫」
黒月さんは上ずった声を出した後、俺の名前を呼んだ。見上げると俺を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「なに?」
「俺のことは悠一と呼んで欲しい。お兄ちゃんも捨てがたいけど」
「……悠一、さん」
黒月さんの名前が悠一だって、ずっと知ってはいたけど、実際に口にしたのは初めてで、ただ名前を呼んだだけなのに顔に熱が集まるのを感じた。
「可愛い。紫……、好きだ。愛してる」
身を乗り出した黒月さんは、ソファセットのテーブルを超えて俺の隣に移動してから、俺を抱き寄せてくれた。
「俺も、悠一さんのこと、あ、愛してる」
「嬉しいな、ありがとう。だが、“さん”はいらない」
「でも」
「お願い」
「うっ」
抱き寄せた俺の肩を掴んで、目を合わせてきた黒月さんは、可愛こぶっている訳はないと分かっているけど、あざと可愛い表情をしている。
「その……悠一」
「っ、ああー。可愛い。ありがとう」
「……うん」
気恥ずかしいけど、黒月さんが喜んでいるならいいや。
「紫」
「なに?」
「俺は、会社で起こった問題を全て話したよ」
「え、うん」
俺を抱き寄せている黒月さんは、若干ソワソワしているような態度で。だけど何が言いたいのか分からずに俺は首を傾げた。
「さっき、くれるって言っていたでしょう? チェキ」
「え? あ、ああ。あげるけど、そんなに?」
「もちろん」
黒月さんにチェキを手渡すと、黒月さんはそれをまるで歴史的な財産を触るかのように慎重な手つきで受け取った。
「はぁ。一生大切にする。ありがとう……。列に並びたかったけど、流石に生徒に鉄仮面と呼ばれる俺では目立つと思って並べなかったから」
「ははっ。まぁ確かに悠一が並んでたら目立つよね」
黒月さんは「そうなんですよね」と笑って、それから「はぁ……」とため息をついた。
「本当、“男子三日会わざれば刮目して見よ”とはよく言ったものだね。ああ、もちろん、紫は元々素敵だけど、俺が知らない間に、あんなにカリスマ性を発揮して、親衛隊まで作って……」
「親衛隊?」
それは初耳だ。
「出来ているようだよ、紫の親衛隊。しかも親衛隊長は東堂くんの親衛隊長だった子だとか」
「えっ。省吾が? なんで? 俺嫌われてると思ってたけど」
「紫はかっこいいからね。自分は普通に過ごしているつもりでも人を惹きつけてしまう。そういうところも、紫はしっかりご両親の血を受け継いでいる」
いつもいつも黒月さんは俺のことを褒めすぎだと思う。
黒月さんは、話しながらも席を立ち、嬉々とした顔でラップを手に戻ってきて、先ほどのチェキをそれに包み始めた。
「何してるの?」
「紙の劣化をなるべくさせないために、素手で触らないようにしないといけないからね。もちろん、ラップは一時凌ぎで、あとでラミネートするけど」
「そ、そっか」
俺の親衛隊長になったらしい省吾でも、俺のチェキをそこまで大切にはしていないだろう。
いや、そもそも省吾は俺のことを好きではないと思うので正直、省吾が俺のチェキを買って行った時は、藁人形にでも打ち付けるつもりかと思ったくらいだけど。
「はぁ。本当紫の素敵さを、全校生徒が知ってしまって、これからが心配だ」
黒月さんは、俺のチェキを持ちながらまた、ちいさくため息をついた。
「あのさ」
「はい」
「そんなに喜んでくれるのは嬉しいんだけど……。今はチェキなんか見なくても、俺がいるでしょ?」
「っ、紫?」
「俺、もう我慢できないよ」
黒月さんの裾を掴んで顔を見上げると、黒月さんの笑顔が固まった。
「紫、もう、泣いても止まってあげられないよ?」
「うん。もう、泣いたりしないよ。だから……して?」
そう言うと黒月さんは、小さくうめいてゆっくりと俺から離れ、3ヶ月前のあの時みたいに部屋の鍵を閉めに行った。
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