19 / 57
19 ワガママ
しおりを挟む
これを機に、俺たちはすれ違いにすれ違って、結局俺が二十歳になるまでセックスすることはなかった……。
「ってことになったらどうしよう」
「そんなことを考えていたのですか?」
いつものように第二数学準備室で黒月さんの手作り弁当を食べながら嘆く俺に、黒月さんは呆れた顔をした。
「清掃活動はあと1週間ほどでしょう? そのあとならいくらでも機会があるじゃないですか」
「1週間って長いよ。だって、本当なら今日の夜から俺たちは目眩く甘い夜を過ごすはずだったのにさ」
「……。紫様がその行為に対してどれほどに興味を持っているのかは理解しましたが、ご期待に添えるかどうか不安です」
「ご期待に添えるに決まってるじゃん。俺は黒月さんとできるならそれだけで大満足なんだからさ。だけど、もうすぐ体育祭の練習が始まって、時間とか結構使うでしょ? そしたらまたしばらく時間ないよ」
「とにかく、この件に関してはゆっくりいきましょう。ね?」
大人な余裕か、俺を優しく宥めながら微笑んでそんなことを言う黒月さんが憎い。
好きだから、触れ合いたいと思うのは仕方ないはずなのに、黒月さんはちっともそんな様子は見せないし。
「黒月さんと俺とじゃ、待ってる時間の長さが全然違うじゃん! 大人は時間経つの早いって聞いたし!」
言ってから、酷いことを言ってしまったと気がついた。
けれど、気持ちはおさまらず、引っ込みも付かなくなった俺は、部屋から出て教室に逃げるように帰ってしまった。
「ああ~。今の俺ってすげぇワガママだ」
黒月さん、呆れたかな。
延期になったのだって俺のせいなのに、当たるようなことをしてしまったし。
それに、そのことばかり考えて、恥ずかしいやつだとも思ってるかも。
「振られたらどうしよう……」
「振られそうなの?」
「わぁっ。って、天海。ここはお前の教室じゃないだろ。チャイム鳴っちゃうよ」
ニュッと俺の視界に現れた天海は、嬉しそうな表情で俺を見ていた。
「もう放課後だよ。掃除手伝うからさ、話聞かせてよ」
「んん……。分かった」
それから俺は、広大な校庭の掃き掃除をしながら、黒月さんの名前を伏せて話した。
「へぇ~。なんか意外」
「意外?」
「前の柊木ならなんとなく、年上の彼氏って分かるけど。最近の柊木はなんかかっこいい感じだからさ。あ、ほら。チワワたちにも好かれてるし」
「チワワ?」
「可愛い感じの子たちいるでしょ? 柊木によく告白してくるような子達」
「ああ」
確かに、あの生徒たちをチワワと言われればしっくりくる。
だが、可愛さで言えば目の前に立つ天海の方が上だ。
けれど、本人にはまるでその自覚はないのか、顎に手を当てて考えている。
「ああ言う感じの彼氏がいるのかと思ってたよ。あ、だけど、その年上彼氏の前では柊木も可愛くなっちゃうのかな」
「俺は可愛くないけど」
「でもさ、話聞く限り、その年上彼氏はすっごい執着系溺愛彼氏だと思うよ」
「なにそれ」
「んー。さっき、柊木が気にしてたような暴言は、多分その年上彼氏は暴言とも思ってない可能性もあるし、むしろ柊木のワガママをぶつけられて喜んでると思うね、僕は」
「そんなことあるわけないだろ」
「実際会ったことないから、確かにないかもしれないけど、ある可能性の方が高いと思うよ。これは僕の経験値が物語ってる」
「経験値ってなんだよ」
「僕のカップルウォッチャーとしての感がそう言ってるのさ」
「よくわからないけど、ドヤるなよ……」
「とにかく、柊木はその年上彼氏に謝りたいし、あわよくばその大人面をやめさせたいということだろ?」
どうしてそんなキラキラした顔ができるのか。それに。
「そんな事は言ってない」
「まぁまぁ。じゃあ、僕が作戦を考えてあげるよ」
全くこちらの話を聞かないで、天海は嬉しそうに懐から取り出した紙に作戦を練り始めた。
「ってことになったらどうしよう」
「そんなことを考えていたのですか?」
いつものように第二数学準備室で黒月さんの手作り弁当を食べながら嘆く俺に、黒月さんは呆れた顔をした。
「清掃活動はあと1週間ほどでしょう? そのあとならいくらでも機会があるじゃないですか」
「1週間って長いよ。だって、本当なら今日の夜から俺たちは目眩く甘い夜を過ごすはずだったのにさ」
「……。紫様がその行為に対してどれほどに興味を持っているのかは理解しましたが、ご期待に添えるかどうか不安です」
「ご期待に添えるに決まってるじゃん。俺は黒月さんとできるならそれだけで大満足なんだからさ。だけど、もうすぐ体育祭の練習が始まって、時間とか結構使うでしょ? そしたらまたしばらく時間ないよ」
「とにかく、この件に関してはゆっくりいきましょう。ね?」
大人な余裕か、俺を優しく宥めながら微笑んでそんなことを言う黒月さんが憎い。
好きだから、触れ合いたいと思うのは仕方ないはずなのに、黒月さんはちっともそんな様子は見せないし。
「黒月さんと俺とじゃ、待ってる時間の長さが全然違うじゃん! 大人は時間経つの早いって聞いたし!」
言ってから、酷いことを言ってしまったと気がついた。
けれど、気持ちはおさまらず、引っ込みも付かなくなった俺は、部屋から出て教室に逃げるように帰ってしまった。
「ああ~。今の俺ってすげぇワガママだ」
黒月さん、呆れたかな。
延期になったのだって俺のせいなのに、当たるようなことをしてしまったし。
それに、そのことばかり考えて、恥ずかしいやつだとも思ってるかも。
「振られたらどうしよう……」
「振られそうなの?」
「わぁっ。って、天海。ここはお前の教室じゃないだろ。チャイム鳴っちゃうよ」
ニュッと俺の視界に現れた天海は、嬉しそうな表情で俺を見ていた。
「もう放課後だよ。掃除手伝うからさ、話聞かせてよ」
「んん……。分かった」
それから俺は、広大な校庭の掃き掃除をしながら、黒月さんの名前を伏せて話した。
「へぇ~。なんか意外」
「意外?」
「前の柊木ならなんとなく、年上の彼氏って分かるけど。最近の柊木はなんかかっこいい感じだからさ。あ、ほら。チワワたちにも好かれてるし」
「チワワ?」
「可愛い感じの子たちいるでしょ? 柊木によく告白してくるような子達」
「ああ」
確かに、あの生徒たちをチワワと言われればしっくりくる。
だが、可愛さで言えば目の前に立つ天海の方が上だ。
けれど、本人にはまるでその自覚はないのか、顎に手を当てて考えている。
「ああ言う感じの彼氏がいるのかと思ってたよ。あ、だけど、その年上彼氏の前では柊木も可愛くなっちゃうのかな」
「俺は可愛くないけど」
「でもさ、話聞く限り、その年上彼氏はすっごい執着系溺愛彼氏だと思うよ」
「なにそれ」
「んー。さっき、柊木が気にしてたような暴言は、多分その年上彼氏は暴言とも思ってない可能性もあるし、むしろ柊木のワガママをぶつけられて喜んでると思うね、僕は」
「そんなことあるわけないだろ」
「実際会ったことないから、確かにないかもしれないけど、ある可能性の方が高いと思うよ。これは僕の経験値が物語ってる」
「経験値ってなんだよ」
「僕のカップルウォッチャーとしての感がそう言ってるのさ」
「よくわからないけど、ドヤるなよ……」
「とにかく、柊木はその年上彼氏に謝りたいし、あわよくばその大人面をやめさせたいということだろ?」
どうしてそんなキラキラした顔ができるのか。それに。
「そんな事は言ってない」
「まぁまぁ。じゃあ、僕が作戦を考えてあげるよ」
全くこちらの話を聞かないで、天海は嬉しそうに懐から取り出した紙に作戦を練り始めた。
81
お気に入りに追加
1,102
あなたにおすすめの小説
フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~
いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。
※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します!
※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
おまけのカスミ草
ニノ
BL
僕には双子の弟がいる…。僕とは違い、明るく魅力的な弟…。
僕はそんな弟のオマケとして見られるのが嫌で弟を避けるように過ごしていた。
なのに弟の我が儘で一緒に全寮制の男子校に入学することになり…。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる