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19 ワガママ

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これを機に、俺たちはすれ違いにすれ違って、結局俺が二十歳になるまでセックスすることはなかった……。

「ってことになったらどうしよう」
「そんなことを考えていたのですか?」

いつものように第二数学準備室で黒月さんの手作り弁当を食べながら嘆く俺に、黒月さんは呆れた顔をした。

「清掃活動はあと1週間ほどでしょう? そのあとならいくらでも機会があるじゃないですか」
「1週間って長いよ。だって、本当なら今日の夜から俺たちは目眩く甘い夜を過ごすはずだったのにさ」
「……。紫様がその行為に対してどれほどに興味を持っているのかは理解しましたが、ご期待に添えるかどうか不安です」
「ご期待に添えるに決まってるじゃん。俺は黒月さんとできるならそれだけで大満足なんだからさ。だけど、もうすぐ体育祭の練習が始まって、時間とか結構使うでしょ? そしたらまたしばらく時間ないよ」
「とにかく、この件に関してはゆっくりいきましょう。ね?」

大人な余裕か、俺を優しく宥めながら微笑んでそんなことを言う黒月さんが憎い。
好きだから、触れ合いたいと思うのは仕方ないはずなのに、黒月さんはちっともそんな様子は見せないし。

「黒月さんと俺とじゃ、待ってる時間の長さが全然違うじゃん! 大人は時間経つの早いって聞いたし!」

言ってから、酷いことを言ってしまったと気がついた。
けれど、気持ちはおさまらず、引っ込みも付かなくなった俺は、部屋から出て教室に逃げるように帰ってしまった。

「ああ~。今の俺ってすげぇワガママだ」

黒月さん、呆れたかな。
延期になったのだって俺のせいなのに、当たるようなことをしてしまったし。

それに、そのことばかり考えて、恥ずかしいやつだとも思ってるかも。

「振られたらどうしよう……」
「振られそうなの?」
「わぁっ。って、天海。ここはお前の教室じゃないだろ。チャイム鳴っちゃうよ」

ニュッと俺の視界に現れた天海は、嬉しそうな表情で俺を見ていた。

「もう放課後だよ。掃除手伝うからさ、話聞かせてよ」
「んん……。分かった」

それから俺は、広大な校庭の掃き掃除をしながら、黒月さんの名前を伏せて話した。

「へぇ~。なんか意外」
「意外?」
「前の柊木ならなんとなく、年上の彼氏って分かるけど。最近の柊木はなんかかっこいい感じだからさ。あ、ほら。チワワたちにも好かれてるし」
「チワワ?」
「可愛い感じの子たちいるでしょ? 柊木によく告白してくるような子達」
「ああ」

確かに、あの生徒たちをチワワと言われればしっくりくる。
だが、可愛さで言えば目の前に立つ天海の方が上だ。
けれど、本人にはまるでその自覚はないのか、顎に手を当てて考えている。

「ああ言う感じの彼氏がいるのかと思ってたよ。あ、だけど、その年上彼氏の前では柊木も可愛くなっちゃうのかな」
「俺は可愛くないけど」
「でもさ、話聞く限り、その年上彼氏はすっごい執着系溺愛彼氏だと思うよ」
「なにそれ」
「んー。さっき、柊木が気にしてたような暴言は、多分その年上彼氏は暴言とも思ってない可能性もあるし、むしろ柊木のワガママをぶつけられて喜んでると思うね、僕は」
「そんなことあるわけないだろ」
「実際会ったことないから、確かにないかもしれないけど、ある可能性の方が高いと思うよ。これは僕の経験値が物語ってる」
「経験値ってなんだよ」
「僕のカップルウォッチャーとしての感がそう言ってるのさ」
「よくわからないけど、ドヤるなよ……」
「とにかく、柊木はその年上彼氏に謝りたいし、あわよくばその大人面をやめさせたいということだろ?」

どうしてそんなキラキラした顔ができるのか。それに。

「そんな事は言ってない」
「まぁまぁ。じゃあ、僕が作戦を考えてあげるよ」

全くこちらの話を聞かないで、天海は嬉しそうに懐から取り出した紙に作戦を練り始めた。

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