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12 キスと指輪
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やられっぱなし、揶揄われっぱなしというのは落ち着かない性分だ。
極限の恥ずかしさを堪えて、ずいっと黒月さんに顔を寄せそのままの勢いで、ちゅ、と触れるだけのキスをすると、黒月さんは目を見開いた。
「紫……様? 今……」
鳩が豆鉄砲を喰らったところは見たことがないけれど、実際、言葉にするのなら黒月さんの表情はまさにそれだった。その顔が面白くて、さっきまでの羞恥心は少しだけ収まった。
「キスしたよ。あっはは。黒月さんがしろって言ったのに、何驚いてるの?」
「だ……、そんな。まさか。ダメです。紫様。付き合ってもいない相手に軽々しくキスをしてしまっては」
「だから、黒月さんがしろって言ったんじゃんか」
「しろって言われたらするんですか、あなたは!」
珍しく声を荒げる黒月さんに、俺は少しムッとした。
「なんで俺、怒られてるの?」
「あ……、す、申し訳ありません。少し、取り乱してしまいました。私には紫様の行動を制限できる権利などないのに」
いつも鉄仮面のように無表情か、穏やかな雰囲気の黒月さんがこんな慌てたような情けないような顔もするんだと新たな一面を見られて嬉しい気持ちもある。けれど、確かにセフレはいたけど、キスなんて誰彼構わずしているわけではない。
「あのさ。俺、黒月さんだからキスしたんだよ。だってこんなの、好きな人にしかしないでしょ」
また、黒月さんがぽかんとした顔をして、それからギュッと俺を抱きしめた。
「……本当に……? 本当にまた私を好きに?」
「うん。俺、黒月さんが好きだよ。多分、今までずっと心の奥底に気持ちを仕舞って自分の気持ちをごまかしていただけで、本当は黒月さんと同じで俺もずっと黒月さんを好きだったんだと思う」
「紫様……。嬉しいです。これを受け取ってもらえますか?」
「え、これ」
黒月さんが胸ポケットから取り出し、俺の指にするりと嵌めた指輪は、なぜだか俺の指にぴったりのサイズだった。
この年になるまで黒月さんとそれほど会話があったわけでも、触れ合う機会があったわけでもない。それなのに、俺にぴったりの指輪を常に持ち歩いているところがとても……。
「気持ち悪いですか?」
「えっ!? いや気持ち悪いとは」
「実は、以前柊木家にお邪魔した時に、紫様がリビングでうとうとしておりまして。ふふ。船を漕ぐ紫様は大変お可愛らしかったのですが、触っても意識が覚醒しなかったものですから、万が一のために指のサイズも測らせていただいたのですよ」
「もって言った?」
俺が寝てる間に勝手に、他にどこのサイズを測られたのかが気になったが、黒月さんはそれには答えずに、にっこりと笑った。
「紫様、愛しております」
「お、俺も。その……。愛してる……。って、ごまかしてない?」
「いいえ」
気恥ずかしくなって、黒月さんの胸に顔を埋めると、黒月さんがくくくっと笑う振動が伝わってくる。もしかしたら俺はとんでもない人に捕まってしまったのかと思うけれども、考えても結局黒月さんが好きだという結論にしかいたらないので、考えるのを放棄した。
極限の恥ずかしさを堪えて、ずいっと黒月さんに顔を寄せそのままの勢いで、ちゅ、と触れるだけのキスをすると、黒月さんは目を見開いた。
「紫……様? 今……」
鳩が豆鉄砲を喰らったところは見たことがないけれど、実際、言葉にするのなら黒月さんの表情はまさにそれだった。その顔が面白くて、さっきまでの羞恥心は少しだけ収まった。
「キスしたよ。あっはは。黒月さんがしろって言ったのに、何驚いてるの?」
「だ……、そんな。まさか。ダメです。紫様。付き合ってもいない相手に軽々しくキスをしてしまっては」
「だから、黒月さんがしろって言ったんじゃんか」
「しろって言われたらするんですか、あなたは!」
珍しく声を荒げる黒月さんに、俺は少しムッとした。
「なんで俺、怒られてるの?」
「あ……、す、申し訳ありません。少し、取り乱してしまいました。私には紫様の行動を制限できる権利などないのに」
いつも鉄仮面のように無表情か、穏やかな雰囲気の黒月さんがこんな慌てたような情けないような顔もするんだと新たな一面を見られて嬉しい気持ちもある。けれど、確かにセフレはいたけど、キスなんて誰彼構わずしているわけではない。
「あのさ。俺、黒月さんだからキスしたんだよ。だってこんなの、好きな人にしかしないでしょ」
また、黒月さんがぽかんとした顔をして、それからギュッと俺を抱きしめた。
「……本当に……? 本当にまた私を好きに?」
「うん。俺、黒月さんが好きだよ。多分、今までずっと心の奥底に気持ちを仕舞って自分の気持ちをごまかしていただけで、本当は黒月さんと同じで俺もずっと黒月さんを好きだったんだと思う」
「紫様……。嬉しいです。これを受け取ってもらえますか?」
「え、これ」
黒月さんが胸ポケットから取り出し、俺の指にするりと嵌めた指輪は、なぜだか俺の指にぴったりのサイズだった。
この年になるまで黒月さんとそれほど会話があったわけでも、触れ合う機会があったわけでもない。それなのに、俺にぴったりの指輪を常に持ち歩いているところがとても……。
「気持ち悪いですか?」
「えっ!? いや気持ち悪いとは」
「実は、以前柊木家にお邪魔した時に、紫様がリビングでうとうとしておりまして。ふふ。船を漕ぐ紫様は大変お可愛らしかったのですが、触っても意識が覚醒しなかったものですから、万が一のために指のサイズも測らせていただいたのですよ」
「もって言った?」
俺が寝てる間に勝手に、他にどこのサイズを測られたのかが気になったが、黒月さんはそれには答えずに、にっこりと笑った。
「紫様、愛しております」
「お、俺も。その……。愛してる……。って、ごまかしてない?」
「いいえ」
気恥ずかしくなって、黒月さんの胸に顔を埋めると、黒月さんがくくくっと笑う振動が伝わってくる。もしかしたら俺はとんでもない人に捕まってしまったのかと思うけれども、考えても結局黒月さんが好きだという結論にしかいたらないので、考えるのを放棄した。
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