拾われ子の恋

いちみやりょう

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引き取られたごちゃごちゃのタイミングで過ぎてしまっていた睦の誕生日が来て、その日は特に張り切った翔子と一緒にケーキを作って、お腹が大きくなってきているから、勤もうろちょろと心配そうに見守っていた。

睦は初めて食べる誕生日ケーキに心を躍らせた。誕生日おめでとうと2人に言われると、じんわりと心が暖かくなる。今この時ばかりは生まれてきて良かったなんて思えた。

けれど、あと2ヶ月もすれば睦は兄になる。
誰からも望まれて、幸せに生まれてくるまだ見ぬ弟か妹に、睦は不安や嫉妬を抱いていた。初めての感情に戸惑いつつ、それは決して2人にバレてはいけない感情であることは分かっていたので悟られまいと必死だった。

勤も翔子も親身になって睦に接してくれている。
愛されるということはこういう感じなのかとこの1年で知ってしまったがばっかりに、翔子のお腹が大きくなるにつれて今はこの家族愛的な何かを失う恐怖があった。
兄になってくれるかと聞かれたけれど、実際に自分たちの子供が生まれた時、本当に睦を邪魔に思わないだろうか。
一度、ここに居て良いと許されたらもっともっとと思ってしまう。食事ができて料理も教わって、満足したなんて嘘だ。今は捨てられることへの恐怖でいっぱいだ。
自分が2人を独り占めできたら良いのに。自分が本当に2人の子供だったら良かったのにと睦の中で薄暗い感情が芽生えていた。

お腹に赤ちゃんがいると言われたあの日、大人しく施設に行っておけば恩人である2人を裏切るようなこんな感情を持たずに済んだかもしれない。

「睦、明日のお休みは俺と二人で出かけるか」
「え?」
「ほら、翔子は里帰りで数日実家で過ごすって言ったろ? だから、男2人で遊びに行こう」

確かに、生まれる前にゆっくりした時間を過ごす時間をということで、実家に帰るという話をしていた気がすると、頭の片隅で思い出す。
最近は裏切りのようなこの感情がバレないように、2人といるときは笑顔を作ることに必死で話が右から左だった。
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