拾われ子の恋

いちみやりょう

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睦はそのまま自分に与えられたベッドに横になってみた。

「気持ちいい」

今まで敷きっぱなしのすえた臭いのせんべい布団にしか寝たことがなかったからベッドとはこんなに気持ちが良いのかと感動した。

「それに、なんだかほかほかで良い匂い」

そのままウトウトと微睡んでいると、ノックの音とともに、翔子の声で意識が覚醒した。

「睦くん、夜ご飯できたよ」
「……はい、今いきます」

翔子の後に続いてリビングに行くと、家庭的で美味しそうな一家団欒の匂いがした。

「睦くんが何が好きか分からなかったからね、今日はいろいろ作ってみたの。好きな食べ物があると良いけど」
「ありがとうございます」

食卓にはオムライスや唐揚げ、ハンバーグにカレーまであった。サラダやスープもあり、とても3人では食べきれなそうな量だ。

「ほら、睦。ここがお前の席だ」

勤に促された場所は、勤の隣。勤の向かいに翔子が座った。
2人に見守られながら、まずはオムライスを一口、口に運ぶ。

「……おいしい……」
「ふふ。よかった。お腹いっぱい食べてね」
「ありがとうございます。俺、給食よりこんなに美味しいもの初めて食べた。翔子さんは料理の天才なんですね」

睦の言葉に、2人は一瞬困惑の顔をして、それからぷっと吹き出した。

「とっても嬉しい褒め言葉だね。ありがとう。そうだ、もしよかったら睦くんも今度料理をしてみる?」
「え?」
「私、意外と教えるのも得意なんだよ? 無理にとは言わないけど」
「いいなあ。睦、料理が得意だとこれからの時代モテるぞ?」
「……俺、やってみたい」
「よし。じゃあ、明日の夜ご飯から手伝ってもらっちゃおうかな」
「はい」

睦は力強く頷いた。

こんなに、給食よりも美味しいものが自分にもできるようになるのだろうかと、少しだけ心臓が早く動いた気がした。

「……たのしみ、かも」
「ふふ。そうね。楽しみだね」

睦の拙い気持ちの表現に、翔子は優しく返事をして、勤も安心したように笑った。



それから、睦は翔子に教わりながら料理が趣味と言えるくらい料理にハマった。お菓子作りにまで手を出して、引き取られて1年も経つ頃には翔子の手伝いなしでも大体のものは作れるようになっていた。

その日は翔子の誕生日で、ちょうど土曜日で学校が休みだったこともあり、昼間は用事があるという翔子のために真っ白い生クリームといちごのホールケーキを作っていた。

「ただいま~」
「あ、おかえりなさい!」

上機嫌な声音で帰ってきた翔子に、睦は調理道具を置いて玄関へ走った。

「ふふ。お出迎えありがとう。睦くん。甘い匂いがするね」
「美味しそうな匂いだ」

翔子の荷物まで持った勤も一緒に帰宅していて、翔子と勤と2人して大袈裟に匂いを嗅ぐものだから、睦はなんだか気恥ずかしくなった。

「翔子さんが、今日は誕生日だって。だからケーキを作ったんです。あの、おめでとうございます」
「ケーキ! 楽しみ。ありがとう」
「最近の睦はずいぶんお菓子の腕をあげてるもんなぁ。俺も楽しみだ」

そう言って微笑まれて、頭をぐりぐりと撫でられると、子供扱いされている気がして照れ臭い。
それから3人でいつもより豪華な食事をして、睦の作ったケーキを切り分けて食べた後、ソファに移動した。3人がけのソファに勤、睦、翔子の順番で座って、いつもならテレビを見るところだったけれど、勤が付いていたテレビをそっと消した。

それから、2人は丁寧に睦のことを大切に思っていることを前置きした後、翔子のお腹に子供がいることを伝えてきた。

引き取られてから1年、食事に困るどころか、料理の仕方やお菓子作りまで教えてもらえて、睦は満足していたから別に施設に預けられても良いと思った。
けれど、翔子がとても心配そうに、困った顔で睦にいった。

「この子の……お腹の子のお兄ちゃんになってくれる? 睦」

この1年、翔子からはくん付けで呼ばれていたから、突然の睦呼びにドキリと心臓が跳ねた。
それから、言われたことをゆっくりと噛み締めた。

「お兄ちゃん……? 俺が? 俺、まだここにいていいの……?」

睦の言葉に2人は何も答えなかったけれど、頭にそっと手を置いて、それからそっと抱きしめられた。

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