上 下
13 / 28

キレた会長

しおりを挟む
重鷹さんは怒りを抑えるように数回荒く息を吐くと何処かに電話をかけた。

「俺だ。ああ、見つけた、1階の空き教室、今すぐ全員連れてこい」


「お前ら……柚紀に何をした」

重鷹さんはこちらに向き直って全員を睨みつけながらそう言った。

「ぼ、僕たちは何も」
「あぁ? これが何もな訳あるか、殺すぞ」

親衛隊長が弁解しようとする声にかぶせるように重鷹さんが言う。
親衛隊長はビクッとしてそのまま黙ってしまった。
いつも温厚な重鷹さんがぶちぎれている様子に親衛隊もごつい生徒も、そして俺もビビって何も言えなくなった。
そうこうしているうちに重鷹さんが呼んだであろう、生徒会のメンバーと風紀委員のメンバーが到着した。

「捕縛しろ」

重鷹さんがそう言うと、それぞれ捕縛し始めた。
重鷹さんはゆっくりゆっくり怖い顔で俺に近づいてくる。
お、怒ってる。
だけど、重鷹さんは着ていたジャケットを脱いでそっと俺に着せてから抱き寄せてくれた。
俺の体はさっきまでの恐怖でブルブルと震えていて、でも重鷹さんの暖かさに安心した。

「良かった」

重鷹さんは息を吐くようにそう言った。
俺も重鷹さんの背中に腕を回して、ほっとした。
だけど周りの目を思い出して少しだけ恥ずかしくなって身をよじった。

「っ」

背中に少し痛みが走った。
ああ、俺、背中切られたんだったな。

「どこか痛むのか?」

重鷹さんが優しく聞いてくる。

「いえ、大したことでは」
「柚紀」

重鷹さんは真っ直ぐ正面から俺を見て無言の圧力をかけてきた。
今はさっきまでの怖さはないけど、さっきまでの重鷹さんを見てしまったら逆らうのは得策ではないと俺の第六感が告げる。

「あ、ぇっと、背中が少し」

重鷹さんは俺に被せてくれた自分のジャケットを俺から取り上げて背中を見てきた。

「おい、これ誰がやった」

また地を這うような低い声。

「ぁ、ぇっと」

俺が言えないでいると重隆さんはにっこり笑った。逆に怖かった。

「柚紀に怒っているわけじゃない。分かるだろ? これは誰にやられたのかな?」
「……ぁの」
「柚紀?」
「……親衛隊長さん、です」
「警察に言うか?」

俺が首をブンブンと横に振ると、重鷹さんはため息をついた。

「じゃあ、退学にするか?」

また俺はブンブンと首を横に振る。
だって、彼の気持ちも分かるから。重鷹さんのことが好きなのに抜け駆け禁止ってルールを、いくら知らないとはいえ無視して俺が出てきたらそりゃあ気分悪いと思う。ナイフを持ち出すのはやりすぎだと思うけど、俺も隊長さんを煽るような発言をしてしまったんだ。
重鷹さんは俺に向けた笑顔のまま振り返って親衛隊長を見たけど、親衛隊長は「ひっ」と声を上げて逃げようとした。
捕縛されているので逃げられなかったみたいだけど、重鷹さんが近づいていくと「ごめんなさい、もうしません」を繰り返して、重鷹さんが親衛隊長の目の前に立ったときにはズボンがビショビショになっていた。

「他の学校に行きたいよな?」

重鷹さんがそう親衛隊長に話しかけた。

「そ、そんなっ」
「なぁ随分優しい判断じゃないか? これは警察沙汰なんだぞ。退学も外聞が悪いな。俺はお前のようなクズ人間がどうなってもいいんだが、いや、むしろ、どうにかなってくれと思うんだが、俺の大切な柚紀がそれを望んでないから、お前の自主退学で手をうっているんだ。分かるか?」

静かな静かな声だった。親衛隊長は観念したように「はい。すみませんでした」と言ったっきり項垂れていた。

重鷹さんは後の処理は他の人たちに任せて、俺にまたジャケットをかぶせると俺を肩に抱えて歩き出した。
こう言う時ってお姫様だっこじゃないのですか? いや、背中痛いから無理なんだけどさ。肩に担ぐのってどうなのかな。

「あ、のぅ、重鷹さんさすがにこの抱かれ方は恥ずかしい……んですが」
「我慢できるよな?」

にっこり笑顔の重鷹さんに俺は「はい」と言うしか道はなかった。

「身代わりのくせに!!!」

後ろから親衛隊長が叫んだ。
重鷹さんの俺を抱えた手がピクッとしたのが分かった。

「身代わり……? この期に及んでまだ柚紀にそんなことが言えるのか? ふざけるな。お前誰の許可を得て俺の柚紀を悪く言っているんだ? 俺は柚紀が好きだ。愛してる。お前に柚紀の何が分かるって言うんだ。俺は柚紀と付き合ってる。柚紀に害をなすやつがいたら叩きのめすぞ。お前らの中で運良く退学を免れることになった奴がいたら、周りの奴らに言っておけ。柚紀に手を出すな」

重鷹さんは聞いたこともないような冷たい声でそう言って、そのまま保健室に連れて行かれて、保健室の先生が留守だったので重鷹さんが手当てをしてくれた。

今回のことがあって俺、このままじゃダメだって気がついた。
力を付けて襲われても抵抗できるようにしたいし、重鷹さんの隣に立っていても誰も文句が言えないように強くて優しくて立派な人間になりたい。
勉強だけじゃなくて、そういう努力もしたいと思ったんだ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

煽られて、衝動。

楽川楽
BL
体の弱い生田を支える幼馴染、室屋に片思いしている梛原。だけどそんな想い人は、いつだって生田のことで頭がいっぱいだ。 少しでも近くにいられればそれでいいと、そう思っていたのに…気持ちはどんどん貪欲になってしまい、友人である生田のことさえ傷つけてしまいそうになって…。 ※ 超正統派イケメン×ウルトラ平凡

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

おまけのカスミ草

ニノ
BL
 僕には双子の弟がいる…。僕とは違い、明るく魅力的な弟…。  僕はそんな弟のオマケとして見られるのが嫌で弟を避けるように過ごしていた。  なのに弟の我が儘で一緒に全寮制の男子校に入学することになり…。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

偽りの愛

いちみやりょう
BL
昔は俺の名前も呼んでくれていたのにいつからか“若”としか呼ばれなくなった。 いつからか……なんてとぼけてみなくても分かってる。 俺が14歳、憲史が19歳の時、俺がこいつに告白したからだ。 弟のように可愛がっていた人間から突然告白されて憲史はさぞ気持ち悪かったに違いない。 だが、憲史は優しく微笑んで初恋を拗らせていた俺を残酷なまでに木っ端微塵に振った。 『俺がマサをそういう意味で好きになることなんて一生ないよ。マサが大きくなれば俺はマサの舎弟になるんだ。大丈夫。身近に俺しかいなかったからマサは勘違いしてしまったんだね。マサにはきっといい女の子がお嫁さんに来てくれるよ』

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

もうすぐ死ぬから、ビッチと思われても兄の恋人に抱いてもらいたい

カミヤルイ
BL
花影(かえい)病──肺の内部に花の形の腫瘍ができる病気で、原因は他者への強い思慕だと言われている。 主人公は花影症を患い、死の宣告を受けた。そして思った。 「ビッチと思われてもいいから、ずっと好きだった双子の兄の恋人で幼馴染に抱かれたい」と。 *受けは死にません。ハッピーエンドでごく軽いざまぁ要素があります。 *設定はゆるいです。さらりとお読みください。 *花影病は独自設定です。 *表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217 からプレゼントしていただきました✨

処理中です...