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キレた会長
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重鷹さんは怒りを抑えるように数回荒く息を吐くと何処かに電話をかけた。
「俺だ。ああ、見つけた、1階の空き教室、今すぐ全員連れてこい」
「お前ら……柚紀に何をした」
重鷹さんはこちらに向き直って全員を睨みつけながらそう言った。
「ぼ、僕たちは何も」
「あぁ? これが何もな訳あるか、殺すぞ」
親衛隊長が弁解しようとする声にかぶせるように重鷹さんが言う。
親衛隊長はビクッとしてそのまま黙ってしまった。
いつも温厚な重鷹さんがぶちぎれている様子に親衛隊もごつい生徒も、そして俺もビビって何も言えなくなった。
そうこうしているうちに重鷹さんが呼んだであろう、生徒会のメンバーと風紀委員のメンバーが到着した。
「捕縛しろ」
重鷹さんがそう言うと、それぞれ捕縛し始めた。
重鷹さんはゆっくりゆっくり怖い顔で俺に近づいてくる。
お、怒ってる。
だけど、重鷹さんは着ていたジャケットを脱いでそっと俺に着せてから抱き寄せてくれた。
俺の体はさっきまでの恐怖でブルブルと震えていて、でも重鷹さんの暖かさに安心した。
「良かった」
重鷹さんは息を吐くようにそう言った。
俺も重鷹さんの背中に腕を回して、ほっとした。
だけど周りの目を思い出して少しだけ恥ずかしくなって身をよじった。
「っ」
背中に少し痛みが走った。
ああ、俺、背中切られたんだったな。
「どこか痛むのか?」
重鷹さんが優しく聞いてくる。
「いえ、大したことでは」
「柚紀」
重鷹さんは真っ直ぐ正面から俺を見て無言の圧力をかけてきた。
今はさっきまでの怖さはないけど、さっきまでの重鷹さんを見てしまったら逆らうのは得策ではないと俺の第六感が告げる。
「あ、ぇっと、背中が少し」
重鷹さんは俺に被せてくれた自分のジャケットを俺から取り上げて背中を見てきた。
「おい、これ誰がやった」
また地を這うような低い声。
「ぁ、ぇっと」
俺が言えないでいると重隆さんはにっこり笑った。逆に怖かった。
「柚紀に怒っているわけじゃない。分かるだろ? これは誰にやられたのかな?」
「……ぁの」
「柚紀?」
「……親衛隊長さん、です」
「警察に言うか?」
俺が首をブンブンと横に振ると、重鷹さんはため息をついた。
「じゃあ、退学にするか?」
また俺はブンブンと首を横に振る。
だって、彼の気持ちも分かるから。重鷹さんのことが好きなのに抜け駆け禁止ってルールを、いくら知らないとはいえ無視して俺が出てきたらそりゃあ気分悪いと思う。ナイフを持ち出すのはやりすぎだと思うけど、俺も隊長さんを煽るような発言をしてしまったんだ。
重鷹さんは俺に向けた笑顔のまま振り返って親衛隊長を見たけど、親衛隊長は「ひっ」と声を上げて逃げようとした。
捕縛されているので逃げられなかったみたいだけど、重鷹さんが近づいていくと「ごめんなさい、もうしません」を繰り返して、重鷹さんが親衛隊長の目の前に立ったときにはズボンがビショビショになっていた。
「他の学校に行きたいよな?」
重鷹さんがそう親衛隊長に話しかけた。
「そ、そんなっ」
「なぁ随分優しい判断じゃないか? これは警察沙汰なんだぞ。退学も外聞が悪いな。俺はお前のようなクズ人間がどうなってもいいんだが、いや、むしろ、どうにかなってくれと思うんだが、俺の大切な柚紀がそれを望んでないから、お前の自主退学で手をうっているんだ。分かるか?」
静かな静かな声だった。親衛隊長は観念したように「はい。すみませんでした」と言ったっきり項垂れていた。
重鷹さんは後の処理は他の人たちに任せて、俺にまたジャケットをかぶせると俺を肩に抱えて歩き出した。
こう言う時ってお姫様だっこじゃないのですか? いや、背中痛いから無理なんだけどさ。肩に担ぐのってどうなのかな。
「あ、のぅ、重鷹さんさすがにこの抱かれ方は恥ずかしい……んですが」
「我慢できるよな?」
にっこり笑顔の重鷹さんに俺は「はい」と言うしか道はなかった。
「身代わりのくせに!!!」
後ろから親衛隊長が叫んだ。
重鷹さんの俺を抱えた手がピクッとしたのが分かった。
「身代わり……? この期に及んでまだ柚紀にそんなことが言えるのか? ふざけるな。お前誰の許可を得て俺の柚紀を悪く言っているんだ? 俺は柚紀が好きだ。愛してる。お前に柚紀の何が分かるって言うんだ。俺は柚紀と付き合ってる。柚紀に害をなすやつがいたら叩きのめすぞ。お前らの中で運良く退学を免れることになった奴がいたら、周りの奴らに言っておけ。柚紀に手を出すな」
重鷹さんは聞いたこともないような冷たい声でそう言って、そのまま保健室に連れて行かれて、保健室の先生が留守だったので重鷹さんが手当てをしてくれた。
今回のことがあって俺、このままじゃダメだって気がついた。
力を付けて襲われても抵抗できるようにしたいし、重鷹さんの隣に立っていても誰も文句が言えないように強くて優しくて立派な人間になりたい。
勉強だけじゃなくて、そういう努力もしたいと思ったんだ。
「俺だ。ああ、見つけた、1階の空き教室、今すぐ全員連れてこい」
「お前ら……柚紀に何をした」
重鷹さんはこちらに向き直って全員を睨みつけながらそう言った。
「ぼ、僕たちは何も」
「あぁ? これが何もな訳あるか、殺すぞ」
親衛隊長が弁解しようとする声にかぶせるように重鷹さんが言う。
親衛隊長はビクッとしてそのまま黙ってしまった。
いつも温厚な重鷹さんがぶちぎれている様子に親衛隊もごつい生徒も、そして俺もビビって何も言えなくなった。
そうこうしているうちに重鷹さんが呼んだであろう、生徒会のメンバーと風紀委員のメンバーが到着した。
「捕縛しろ」
重鷹さんがそう言うと、それぞれ捕縛し始めた。
重鷹さんはゆっくりゆっくり怖い顔で俺に近づいてくる。
お、怒ってる。
だけど、重鷹さんは着ていたジャケットを脱いでそっと俺に着せてから抱き寄せてくれた。
俺の体はさっきまでの恐怖でブルブルと震えていて、でも重鷹さんの暖かさに安心した。
「良かった」
重鷹さんは息を吐くようにそう言った。
俺も重鷹さんの背中に腕を回して、ほっとした。
だけど周りの目を思い出して少しだけ恥ずかしくなって身をよじった。
「っ」
背中に少し痛みが走った。
ああ、俺、背中切られたんだったな。
「どこか痛むのか?」
重鷹さんが優しく聞いてくる。
「いえ、大したことでは」
「柚紀」
重鷹さんは真っ直ぐ正面から俺を見て無言の圧力をかけてきた。
今はさっきまでの怖さはないけど、さっきまでの重鷹さんを見てしまったら逆らうのは得策ではないと俺の第六感が告げる。
「あ、ぇっと、背中が少し」
重鷹さんは俺に被せてくれた自分のジャケットを俺から取り上げて背中を見てきた。
「おい、これ誰がやった」
また地を這うような低い声。
「ぁ、ぇっと」
俺が言えないでいると重隆さんはにっこり笑った。逆に怖かった。
「柚紀に怒っているわけじゃない。分かるだろ? これは誰にやられたのかな?」
「……ぁの」
「柚紀?」
「……親衛隊長さん、です」
「警察に言うか?」
俺が首をブンブンと横に振ると、重鷹さんはため息をついた。
「じゃあ、退学にするか?」
また俺はブンブンと首を横に振る。
だって、彼の気持ちも分かるから。重鷹さんのことが好きなのに抜け駆け禁止ってルールを、いくら知らないとはいえ無視して俺が出てきたらそりゃあ気分悪いと思う。ナイフを持ち出すのはやりすぎだと思うけど、俺も隊長さんを煽るような発言をしてしまったんだ。
重鷹さんは俺に向けた笑顔のまま振り返って親衛隊長を見たけど、親衛隊長は「ひっ」と声を上げて逃げようとした。
捕縛されているので逃げられなかったみたいだけど、重鷹さんが近づいていくと「ごめんなさい、もうしません」を繰り返して、重鷹さんが親衛隊長の目の前に立ったときにはズボンがビショビショになっていた。
「他の学校に行きたいよな?」
重鷹さんがそう親衛隊長に話しかけた。
「そ、そんなっ」
「なぁ随分優しい判断じゃないか? これは警察沙汰なんだぞ。退学も外聞が悪いな。俺はお前のようなクズ人間がどうなってもいいんだが、いや、むしろ、どうにかなってくれと思うんだが、俺の大切な柚紀がそれを望んでないから、お前の自主退学で手をうっているんだ。分かるか?」
静かな静かな声だった。親衛隊長は観念したように「はい。すみませんでした」と言ったっきり項垂れていた。
重鷹さんは後の処理は他の人たちに任せて、俺にまたジャケットをかぶせると俺を肩に抱えて歩き出した。
こう言う時ってお姫様だっこじゃないのですか? いや、背中痛いから無理なんだけどさ。肩に担ぐのってどうなのかな。
「あ、のぅ、重鷹さんさすがにこの抱かれ方は恥ずかしい……んですが」
「我慢できるよな?」
にっこり笑顔の重鷹さんに俺は「はい」と言うしか道はなかった。
「身代わりのくせに!!!」
後ろから親衛隊長が叫んだ。
重鷹さんの俺を抱えた手がピクッとしたのが分かった。
「身代わり……? この期に及んでまだ柚紀にそんなことが言えるのか? ふざけるな。お前誰の許可を得て俺の柚紀を悪く言っているんだ? 俺は柚紀が好きだ。愛してる。お前に柚紀の何が分かるって言うんだ。俺は柚紀と付き合ってる。柚紀に害をなすやつがいたら叩きのめすぞ。お前らの中で運良く退学を免れることになった奴がいたら、周りの奴らに言っておけ。柚紀に手を出すな」
重鷹さんは聞いたこともないような冷たい声でそう言って、そのまま保健室に連れて行かれて、保健室の先生が留守だったので重鷹さんが手当てをしてくれた。
今回のことがあって俺、このままじゃダメだって気がついた。
力を付けて襲われても抵抗できるようにしたいし、重鷹さんの隣に立っていても誰も文句が言えないように強くて優しくて立派な人間になりたい。
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