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初恋
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俺、千葉柚紀は双子の弟として生まれた。
俺たちの両親は日本人とアメリカ人のハーフ同士だけど、俺たち二人の見た目は少し違う。
俺は白に近い髪色で目は青。
兄は綺麗なブロンドに緑がかった目。
兄の日向は生まれつき体が弱く、両親も使用人もみんな日向につきっきりだった。
健康な体だけが取り柄の俺は、昔から兄に色々なものを奪われて生きてきた。
小さい頃からそれは普通だったし、俺は俺でその生活に慣れきって、中学の頃には奪われて悲しんだり、困ったりするような大事なものは初めから作らないようになっていた。
でも中学3年生の時、俺の世界は一気に変わった。
「日向?」
朝早くに新聞配達のバイトをしていた俺は、兄の名前で呼び止められた。
日向のいつものわがままで俺の髪は日向と同じ金髪になっていた。
見ると柄の悪そうな高校生だった。
「すみません、俺は日向じゃないです。兄のお知り合いですか?」
「ああ、お前が……、ちょうど良かった。お前、誰にでも股開くんだろ?」
「は?」
「お前のにいちゃんがそう言ってたぜ。な、けつ貸せよ」
「は、な、何言ってるんですか!?」
「おい、抵抗すんじゃねぇよ。ちっ、俺だって本当は日向とやりテェけど、あいつ体弱いんだろ? な、にいちゃんのために俺にけつ貸せ」
「意味わかんねぇ理屈こいてんじゃねぇ!! う”」
そいつの股間を蹴り上げようとしたけど寸前で足を止められ、逆に鳩尾を殴られた。
「おとなしくしてりゃ、痛くしねぇって」
そいつはそう言いながら痛みで動けない俺の手をつかんで裏路地に向かってズンズンと歩き出した。俺はされるがまま引きずられるようについていく。
そうか、初めから大切なものを作らなければいい、そう思っていたけど、貞操まで奪われることになるとは思ってなかったよ。
奪われるなんて嫌だけど、抵抗したって無駄だろうな。
俺はまた全てを諦めて一切の抵抗をやめた。
「へへっ、分かりゃいいんだよ、日向」
俺は日向じゃない。まぁいいか、そんなこと今更関係ない。だけど。
ああ、せめてあまり痛くされなければいいんだけどな。
俺の服を脱がしにかかるそいつの手つきに鳥肌を立てながら俺はそう願った。
「そこで何をしている!!」
突然路地裏の入り口からバリトンボイスが聞こえた。
「ちっ、なんでもねぇよ」
俺を襲っていたやつがそう言い返している。
「なんでもないわけあるか、それは合意か?」
「ああ、合意だよ。そうだよな? 日向」
男はこちらに向かって同意を求めた。
「合意、じゃ、ない」
「お前、抵抗してねぇんだから合意だろうが! ふっざけんな。あ、おい兄ちゃん、なんならあんたも混ざるか?」
「ゲスやろう。合意じゃないなら、これは強姦だな……もしもし、ああ、事件です。男の子が強姦されそうになっていまして……」
男性が携帯を片手にそう言うと俺を襲っていた男は舌打ちと共に走り去って行った。
男性は俺に近寄ってくると片膝をついて目線を合わせてくれた。
かっこいい人だな。黒い髪に、俺の目よりは深い青色の目。精悍な顔つきで一見冷たい感じに見えるけど、俺を助けてくれた恩人だ。
「大丈夫か?」
「あ……はい。ありがとうございました」
「いや、当然のことをしたまでだ。だが、次からは嫌な時はちゃんと大声をあげて抵抗をした方がいいな。簡単ではないかもしれないが」
「いえ、がんばります」
「本当か?」
「はい……んっ」
キス、されてる!? え、なんで突然。だけど、なんでだか全然嫌に感じない。
男性は一度口を話すと真正面から目を合わせてくる。
「抵抗した方がいいと言ったはずだが?」
「だけど、嫌な時はって言ってました。その、お兄さんとは、なんでだか嫌じゃなかった……と、思います」
「重鷹、お兄さんじゃない、蓮水重鷹だ」
「重鷹さん……、俺は千葉」
「日向だろ? さっきのゲス野郎がそう呼んでいるのを聞いた」
「ちが」
プルルルル
否定しようとしたら重鷹さんのスマホが鳴った。
「すまない、電話だ……俺だ、ああ、少しトラブルがあってな。ああ、もう終わったから大丈夫だ、すぐに戻る」
重鷹さんはこちらに向き直って申し訳なさそうな顔をした。
「すまない、俺はもう行かなきゃいけないんだが、君は一人で大丈夫か?」
「あ、はい。ありがとうございましたっ」
「じゃあ、気をつけて帰ってくれ」
そう言って重鷹さんは颯爽と去って行った。
あ、名前、伝えそびれた。
だけど俺、あの人と同じ学校に通いたい。
あの人が着ていた制服は有名な男子校の制服だった。
確か全寮制の金持ち高校だ。
その後、なんとか新聞を配り終え、時間がかかったことで店長に怒られてから家に帰って高校について調べた。
私立藤乃宮学園、校舎も綺麗で充実した施設内容、寮の写真もホテルみたいに綺麗だ。
普通じゃ到底こんなところには通えない。
実際俺の家はそこそこお金は持っているけど、俺のためにこんな学費を出してくれるとは思えない。
でも藤乃宮学園には特待生枠がある。
入学試験で3位以内に入っていれば入学金や授業料、寮費、制服などの備品類、全て無料になるというシステムのようだ。
俺はこのシステムを利用することにした。
幸い成績はそんなに悪くない。今から勉強を死ぬ気でやればなんとかなるかもしれない。
それから、日向がいない間に両親を呼び出して話し合いをすることにした。
「父さん、母さん、俺、高校はここに行くことにした」
学園の資料を渡しながら両親にそう告げた。
「こんな授業料うちじゃ払えない。他のところにしなさい」
「大丈夫。入試で3位以内をとればそういうのは免除になるんだ。3位に入れなければここに入学するのは諦める」
「なら、私たちに報告する必要はないんじゃないの?」
「あるよ。日向には俺がこの高校に行くことを言わないでほしいんだ。正直、俺は日向と同じ高校には通いたくない」
「なんてこと言うの!? 日向はあんなに体が弱いのに。少しはかわいそうだと思わないの? なんでそんなに冷たい子なの?」
「母さん、落ち着いて。俺が日向と同じ高校に通いたくないと言うことと、日向の体が弱い話は何も関係がないでしょ? とにかく俺は平穏に暮らしたいんだ。日向に言わないでくれるだけでいい。本当にそれだけでいいんだ」
「母さん、どうせ、柚紀には3位以内など無理だろう。この子は跡取りじゃないんだから。」
「あなた……確かにそうね」
「よし柚紀、お前のわがままを聞いてやろう」
「ありがとう、父さん」
父さんも母さんも俺の成績に興味がない。なのになぜだか昔からバカだと決め付けて話す傾向がある。でも今回はそんな決め付けのおかげで助かった。
俺はその日から新聞配達と学校と受験勉強を必死に頑張った。
そして合格発表の日、中学で合格通知書を受け取って、さらに入試も1位通過で特待生枠を確保することができた。
ホクホク顔で帰った俺を待ち受けていたのは、ニヤニヤと笑いながら藤乃宮の合格通知書をもっている日向だった。
俺は膝から崩れ落ちた。
「な、なんで」
「柚紀が藤乃宮受けるってお母さんから聞いてさぁ、僕って体が弱いから、柚紀と一緒じゃないと不安だったから受けちゃった!」
「そんな」
「でも、見てみたけど入学費用も授業料も高いよねぇ」
「日向……入試何位だったんだ……?」
「えー? 179位だって書いてあったよ」
「それじゃ、通えないだろ? だって、そんな高い金、うちじゃ出せないって父さんが言っていた」
「はあ? そりゃ柚紀のはそうだろうけど」
いまだ玄関でそんなやりとりをしている俺たちのところに、リビングから父親が出てきた。
「何してる。リビングにきなさい」
俺は困惑しながら日向の後に続いてリビングに入った。
そして父、母、日向、俺、4人が座ると父親が口を開いた。
「日向、合格おめでとう……柚紀もおめでとう」
なんだよその言い方、俺はついでかよ。
「日向は小さい頃から体が弱かったのに、よく頑張ったな。さすが千葉家の跡取りだ」
「うんっ、ありがとう、お父さん!」
「本当によく頑張ったわね、日向」
「父さん、母さん、俺言いませんでしたっけ。日向には藤乃宮に行くこと言わないでくれって」
「言ってたけど、それがなに?」
「は、それが何って」
「だって、日向は体が弱いのよ。あなたと同じ高校に通わないと何かあった時対処できないでしょう? かわいそうだと思わないの?」
「それに、日向はこの家の跡取りだ。藤乃宮で人脈を広げるのも悪くないと思ってな」
悪びれもなくそんなことを言う両親に俺は開いた口が塞がらない。
俺の意思は何も考えないのか。俺だって仮にもこの2人から生まれてきたはずなのに。
「俺が藤乃宮を受けたいと言った時父さん、なんて言ったか覚えてる?」
「さて、なんだったかな」
「うちじゃそんな学費は出せないって言ったんだ」
「まぁ言ったかもしれんが、1人分くらいならなんとかなるさ。柚紀には特待生枠で1円もかからないからな。食費なんかは自分で払うんだろう?」
「え」
「正直、お前にお金を出すメリットを感じられない」
「メリット……?」
「お前は跡取りでもないし」
「……そうですか。じゃあ、今度は母さんに聞くけど、日向はもう体は弱くないよね、いつまでも甘やかすのはどうかと思うけど」
「確かに病気はしなくなったけど、こんなにか弱い華奢な子なんだからちゃんとあなたが守ってあげなさいよ」
もう何を言っても無駄だと思った。俺の人生初のわがままも、あっさりと無視されたんだ。
初めからこの親に期待したのが間違いだったんだ。
俺たちの両親は日本人とアメリカ人のハーフ同士だけど、俺たち二人の見た目は少し違う。
俺は白に近い髪色で目は青。
兄は綺麗なブロンドに緑がかった目。
兄の日向は生まれつき体が弱く、両親も使用人もみんな日向につきっきりだった。
健康な体だけが取り柄の俺は、昔から兄に色々なものを奪われて生きてきた。
小さい頃からそれは普通だったし、俺は俺でその生活に慣れきって、中学の頃には奪われて悲しんだり、困ったりするような大事なものは初めから作らないようになっていた。
でも中学3年生の時、俺の世界は一気に変わった。
「日向?」
朝早くに新聞配達のバイトをしていた俺は、兄の名前で呼び止められた。
日向のいつものわがままで俺の髪は日向と同じ金髪になっていた。
見ると柄の悪そうな高校生だった。
「すみません、俺は日向じゃないです。兄のお知り合いですか?」
「ああ、お前が……、ちょうど良かった。お前、誰にでも股開くんだろ?」
「は?」
「お前のにいちゃんがそう言ってたぜ。な、けつ貸せよ」
「は、な、何言ってるんですか!?」
「おい、抵抗すんじゃねぇよ。ちっ、俺だって本当は日向とやりテェけど、あいつ体弱いんだろ? な、にいちゃんのために俺にけつ貸せ」
「意味わかんねぇ理屈こいてんじゃねぇ!! う”」
そいつの股間を蹴り上げようとしたけど寸前で足を止められ、逆に鳩尾を殴られた。
「おとなしくしてりゃ、痛くしねぇって」
そいつはそう言いながら痛みで動けない俺の手をつかんで裏路地に向かってズンズンと歩き出した。俺はされるがまま引きずられるようについていく。
そうか、初めから大切なものを作らなければいい、そう思っていたけど、貞操まで奪われることになるとは思ってなかったよ。
奪われるなんて嫌だけど、抵抗したって無駄だろうな。
俺はまた全てを諦めて一切の抵抗をやめた。
「へへっ、分かりゃいいんだよ、日向」
俺は日向じゃない。まぁいいか、そんなこと今更関係ない。だけど。
ああ、せめてあまり痛くされなければいいんだけどな。
俺の服を脱がしにかかるそいつの手つきに鳥肌を立てながら俺はそう願った。
「そこで何をしている!!」
突然路地裏の入り口からバリトンボイスが聞こえた。
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「なんでもないわけあるか、それは合意か?」
「ああ、合意だよ。そうだよな? 日向」
男はこちらに向かって同意を求めた。
「合意、じゃ、ない」
「お前、抵抗してねぇんだから合意だろうが! ふっざけんな。あ、おい兄ちゃん、なんならあんたも混ざるか?」
「ゲスやろう。合意じゃないなら、これは強姦だな……もしもし、ああ、事件です。男の子が強姦されそうになっていまして……」
男性が携帯を片手にそう言うと俺を襲っていた男は舌打ちと共に走り去って行った。
男性は俺に近寄ってくると片膝をついて目線を合わせてくれた。
かっこいい人だな。黒い髪に、俺の目よりは深い青色の目。精悍な顔つきで一見冷たい感じに見えるけど、俺を助けてくれた恩人だ。
「大丈夫か?」
「あ……はい。ありがとうございました」
「いや、当然のことをしたまでだ。だが、次からは嫌な時はちゃんと大声をあげて抵抗をした方がいいな。簡単ではないかもしれないが」
「いえ、がんばります」
「本当か?」
「はい……んっ」
キス、されてる!? え、なんで突然。だけど、なんでだか全然嫌に感じない。
男性は一度口を話すと真正面から目を合わせてくる。
「抵抗した方がいいと言ったはずだが?」
「だけど、嫌な時はって言ってました。その、お兄さんとは、なんでだか嫌じゃなかった……と、思います」
「重鷹、お兄さんじゃない、蓮水重鷹だ」
「重鷹さん……、俺は千葉」
「日向だろ? さっきのゲス野郎がそう呼んでいるのを聞いた」
「ちが」
プルルルル
否定しようとしたら重鷹さんのスマホが鳴った。
「すまない、電話だ……俺だ、ああ、少しトラブルがあってな。ああ、もう終わったから大丈夫だ、すぐに戻る」
重鷹さんはこちらに向き直って申し訳なさそうな顔をした。
「すまない、俺はもう行かなきゃいけないんだが、君は一人で大丈夫か?」
「あ、はい。ありがとうございましたっ」
「じゃあ、気をつけて帰ってくれ」
そう言って重鷹さんは颯爽と去って行った。
あ、名前、伝えそびれた。
だけど俺、あの人と同じ学校に通いたい。
あの人が着ていた制服は有名な男子校の制服だった。
確か全寮制の金持ち高校だ。
その後、なんとか新聞を配り終え、時間がかかったことで店長に怒られてから家に帰って高校について調べた。
私立藤乃宮学園、校舎も綺麗で充実した施設内容、寮の写真もホテルみたいに綺麗だ。
普通じゃ到底こんなところには通えない。
実際俺の家はそこそこお金は持っているけど、俺のためにこんな学費を出してくれるとは思えない。
でも藤乃宮学園には特待生枠がある。
入学試験で3位以内に入っていれば入学金や授業料、寮費、制服などの備品類、全て無料になるというシステムのようだ。
俺はこのシステムを利用することにした。
幸い成績はそんなに悪くない。今から勉強を死ぬ気でやればなんとかなるかもしれない。
それから、日向がいない間に両親を呼び出して話し合いをすることにした。
「父さん、母さん、俺、高校はここに行くことにした」
学園の資料を渡しながら両親にそう告げた。
「こんな授業料うちじゃ払えない。他のところにしなさい」
「大丈夫。入試で3位以内をとればそういうのは免除になるんだ。3位に入れなければここに入学するのは諦める」
「なら、私たちに報告する必要はないんじゃないの?」
「あるよ。日向には俺がこの高校に行くことを言わないでほしいんだ。正直、俺は日向と同じ高校には通いたくない」
「なんてこと言うの!? 日向はあんなに体が弱いのに。少しはかわいそうだと思わないの? なんでそんなに冷たい子なの?」
「母さん、落ち着いて。俺が日向と同じ高校に通いたくないと言うことと、日向の体が弱い話は何も関係がないでしょ? とにかく俺は平穏に暮らしたいんだ。日向に言わないでくれるだけでいい。本当にそれだけでいいんだ」
「母さん、どうせ、柚紀には3位以内など無理だろう。この子は跡取りじゃないんだから。」
「あなた……確かにそうね」
「よし柚紀、お前のわがままを聞いてやろう」
「ありがとう、父さん」
父さんも母さんも俺の成績に興味がない。なのになぜだか昔からバカだと決め付けて話す傾向がある。でも今回はそんな決め付けのおかげで助かった。
俺はその日から新聞配達と学校と受験勉強を必死に頑張った。
そして合格発表の日、中学で合格通知書を受け取って、さらに入試も1位通過で特待生枠を確保することができた。
ホクホク顔で帰った俺を待ち受けていたのは、ニヤニヤと笑いながら藤乃宮の合格通知書をもっている日向だった。
俺は膝から崩れ落ちた。
「な、なんで」
「柚紀が藤乃宮受けるってお母さんから聞いてさぁ、僕って体が弱いから、柚紀と一緒じゃないと不安だったから受けちゃった!」
「そんな」
「でも、見てみたけど入学費用も授業料も高いよねぇ」
「日向……入試何位だったんだ……?」
「えー? 179位だって書いてあったよ」
「それじゃ、通えないだろ? だって、そんな高い金、うちじゃ出せないって父さんが言っていた」
「はあ? そりゃ柚紀のはそうだろうけど」
いまだ玄関でそんなやりとりをしている俺たちのところに、リビングから父親が出てきた。
「何してる。リビングにきなさい」
俺は困惑しながら日向の後に続いてリビングに入った。
そして父、母、日向、俺、4人が座ると父親が口を開いた。
「日向、合格おめでとう……柚紀もおめでとう」
なんだよその言い方、俺はついでかよ。
「日向は小さい頃から体が弱かったのに、よく頑張ったな。さすが千葉家の跡取りだ」
「うんっ、ありがとう、お父さん!」
「本当によく頑張ったわね、日向」
「父さん、母さん、俺言いませんでしたっけ。日向には藤乃宮に行くこと言わないでくれって」
「言ってたけど、それがなに?」
「は、それが何って」
「だって、日向は体が弱いのよ。あなたと同じ高校に通わないと何かあった時対処できないでしょう? かわいそうだと思わないの?」
「それに、日向はこの家の跡取りだ。藤乃宮で人脈を広げるのも悪くないと思ってな」
悪びれもなくそんなことを言う両親に俺は開いた口が塞がらない。
俺の意思は何も考えないのか。俺だって仮にもこの2人から生まれてきたはずなのに。
「俺が藤乃宮を受けたいと言った時父さん、なんて言ったか覚えてる?」
「さて、なんだったかな」
「うちじゃそんな学費は出せないって言ったんだ」
「まぁ言ったかもしれんが、1人分くらいならなんとかなるさ。柚紀には特待生枠で1円もかからないからな。食費なんかは自分で払うんだろう?」
「え」
「正直、お前にお金を出すメリットを感じられない」
「メリット……?」
「お前は跡取りでもないし」
「……そうですか。じゃあ、今度は母さんに聞くけど、日向はもう体は弱くないよね、いつまでも甘やかすのはどうかと思うけど」
「確かに病気はしなくなったけど、こんなにか弱い華奢な子なんだからちゃんとあなたが守ってあげなさいよ」
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