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退職

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仙石さんの結婚式が行われると通達があった。
俺は退職願を書いた。
2月後に部屋を解約する手続きをした。
結婚式は半年後に行われるらしい。
俺はお世話になった仙石さんの結婚式だけれど出席は辞退する。
もちろん、幸せに笑う仙石さんは見たいけど、その仙石さんは俺じゃない人と笑い合うんだと思うととても耐えられそうにない。
最後まで俺はわがままだ。

翌朝俺は仙石さんへ社内メールでアポを取った。
お昼なら時間を取れると言うことでお昼に署に戻り仙石さんのデスクに向かった。

「おう、なんだ?」

仙石さんがこちらに向かって笑顔で聞いてくれる。

「これをお願いいたします」
俺は退職願を仙石さんに手渡した。

「どうしたんだ?」

仙石さんはそれを見ながら聞いてきた。

「実は、親戚が海外に住んでいまして、俺もそちらに住むことになったんです。急なことで申し訳ありません」
「そうかァ。まぁ残念だが仕方ないな」

ズキ

俺、何傷ついてんだよ。
前の仙石さんなら、俺が地方に移動するってだけで止めてくれたのにって思ってるんだ。
俺は本当に自分勝手でどうしようもなください男だ。

「仙石さんには本当にお世話になりました」
「おう。向こうに行っても元気でやれよ」

ニカっといつもの笑顔でそう言ってくれた。

その後は佐々木警視長にも挨拶に行き、仙石さんと同じ内容を告げた。

「仙石くんのことはどうするの?」
「どうするとは?」
「だって付き合ってたんでしょ?」
「まさか」

笑って答えた。
警視長は複雑そうな表情で俺を見た。

「警視長。俺、仙石さんにひどいことしたって言いましたよね?」
「言ってたね。でも許してもらえたんじゃないの?」
「警視長も知っての通り、仙石さんは俺と付き合ってたことも、それを仙石さんが罪滅ぼしのためにやってたことも、俺がひどいことをしたことも、何も覚えていないんです」
「罪滅ぼし?」
「ああ。言っていませんでしたよね、実は仙石さんが俺と付き合ってくれてたのは俺が仙石さんに告白してしまって、その後に仙石さんを庇って刺されたから。だから仙石さんは自分を責めて、俺の望む通り付き合ってくれてた。俺は仙石さんに愛されてた訳じゃないんです。仙石さんの優しさにつけ込んでただけなんですよ……でも、今、仙石さんは幸せになろうとしてる。俺さえ黙っていれば仙石さんは幸せになれるんです」
「それで西くんは幸せになれるの?」
「俺は仙石さんと一緒にいる間に一生分の幸せをもらいました」
「警察を辞める必要はあるの? 辞めるくらいだったら、どこか他の署に移動したっていい。何なら俺の直属の部下にしてもいい。どうだい?」
「すみません。もうこれから先、することは決めてあるんです」
「……そうかい。残念だ。どこの国に行くのか聞いてもいいかい?」
「内緒です」

俺は笑って答えたけど、警視長は何だか泣きそうな顔をした。

それから引き継ぎなどをしてあっという間に2ヶ月がすぎた。
今日で最後の出勤日。

「仙石さん、今まで本当にお世話になりました。奥さんのこと大事にして、幸せになってくださいね」
「何だか寂しいけどよ、お前ェも頑張れよ」

仙石さんが手を広げてこちらを見た。

「えっと、なんですか?」
「ハグ。別れの挨拶にハグくらいすんだろ?」
「えっと、普通はしないと思いますが……いいんですか?」
「おう、こい!」

俺は仙石さんに抱きついた。
懐かしい。仙石さんの匂いだ。仙石さんの体温だ。

「おい、泣いてんのか?」
「えっと、感慨深くて……へへ。ありがとうございました」
「また、遊びにこいよ。酒でも奢ってやるから」

それに俺は笑顔で返した。

部屋の中は空っぽで、携帯も昨日付けで解約したし、貯金してたお金は全て孤児院に寄付をした。
俺の持ち物はこれから向かうところまでの電車賃のみ。

身一つになって、俺は昔仙石さんがちょっとだけ話してくれた仙石さんが昔よく遊んだと言っていた森に向かった。調べてみたらとんでもなく広い森で、仙石さんが子供の頃は入り口付近でしか遊んでなかったらしいけど奥に行ったら二度と戻ってこられなそうな、そんな森だった。

森について、ちゃんと当たりを見渡して人気がないのを確認してから中に1歩踏み入れた。
奥にどんどん進んで歩いた。

随分と長いこと歩き続けた。
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